ナタリー PowerPush - おとぎ話

曽我部恵一と「HOKORI」を語る

曲作りの最初にあるのはコード感とベースライン

有馬 俺、いろんなバンドの子から相談受けることが多いんですよ。で、その相談の内容っていうのが「曲ができない」とか「歌詞が書けない」とか。俺不思議でしょうがなくて。やりたいことやってんのに曲が書けない、歌詞が書けないってどういうことなんだろうって思って。みんな背負ってないのに背負ってる感じがある気がするの。なんか健康的じゃないなっていうのは思うかな。

曽我部 有馬くんはめちゃくちゃ曲作るんでしょ?

有馬 めちゃくちゃ作る。

曽我部 すごいたくさんあるもんね。

有馬 実は「HOKORI」の次のことももう考えてて、今後はROSE RECORDSで、今までの集大成って言えるような、最高の歌モノも入ってればグチャグチャしたのも入ってるようなアルバムを、曽我部さんと一緒にガッチリ手組んでやりたい。だから今めちゃくちゃ新曲作ってんだよね。楽しくてしょうがない(笑)。

前越 充実感めちゃくちゃあるよね。

曽我部 どうやって作るの? 曲。

有馬 とにかくたくさん作ってくる。あと最近はセッションでも作れるようになってきて。

曽我部 歌詞は?

有馬 歌詞はめっちゃテキトーだから、その場で書きますね。

曽我部 すごいね。

インタビュー風景

牛尾 Aメロ、Bメロみたいなだいたいの枠ができたら「ちょっと待ってて、俺今歌詞書くから」って感じで。ヘタしたら10分、15分で書くときもあるもんね。

曽我部 最初のさ、一番初めにあるものはなんなの? 作り始めるときのアイデア。最初にあるのはメロディ?

有馬 コード感かな。あとベースラインかもしれない。それで最後に歌詞が出てくるんですけど、そうやって演奏しながらやってると、わざわざ変なことを思いつこうとかじゃなくて、周りのみんなの顔見てたら十分変だから、それで出てきた言葉を歌うっていう感じで。重要なのは色とメロディだけですね、色が出てくると、歌詞がダッて出てくるから。その色を決めるのが一番楽しい。

曽我部 俺、今スランプで全然作れないんだよね。

──でも曽我部さんも相当に多作なほうだと思うんですけど。

曽我部 うーん。今はダメだね。毎日やってるけど。

──曽我部さんはどうやって曲を作るんですか?

曽我部 俺は詞先だから。まずはネタかな。

有馬 あー、そうなんだ!

曽我部 だから今は「少子化」って曲を作ってるんだけど、そういうテーマありきで。少子化についてのラブソングを作りたいなって。

牛尾 それはコードとかもまだない状態なんですか?

曽我部 何もない。ネタだけある状態。メロディから先に作っちゃうと、どんな歌詞書いていいのかわかんなくなるんだよね。バンドのときはバンドのイメージを言葉に置き換えて歌詞にしてたんだけど、今はそういうのないから。1人だから自分の中から出てくるものを歌わなきゃダメじゃん。だから先にどういうこと歌うかを決めとかないと作れなくなっちゃう。

有馬 なるほど。それはでもほんとそうかも。僕はやっぱりバンドの曲を作ろうと思って作ってるから。ソロだとちょっと違うかもしれないですね。だからあんまり歌詞に悩まないのかも。

曽我部 歌詞は不思議だよね。

有馬 さっき歌詞は適当に書いてるって言ったけど、でもただ人を喰ったこと書きたいと思ってるかっていうと、そういうわけじゃなくて、やっぱり人をめっちゃ感動させようと思って作ってるわけですからね。

ガチンコでおとぎ話好きなお客さんが各地に30人ずついる

──端から見ていても、今のおとぎ話は絶好調に見えますね。

前越 うん、楽しくてしょうがない!

曽我部 おとぎ話を最初に見たときの感じに近いよね、今。なんかグシャグシャで。

有馬 ほんとそうだと思います。おとぎ話って常にお客さんの入れ替わりが激しかったの。最初は銀杏BOYZが好きな人が来て、銀杏BOYZみたいなライブをしないからつまらないって言ってお客さんが離れていくんです。その後「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」とかに出ると、キャーキャー言ってるような感じの女の子がほんの少し有名になりそうなバンドを観たいって感じで来てくれるんですよ。その子たちもおとぎ話って普通にちゃんと音楽やろうとするバンドだから、MCもあんま面白いこと言わないしつまんないって言ってまた帰っちゃうんです。だから今残ってるお客さんって、ガチンコでおとぎ話好きな人だけなんです。それが各地方で30人ぐらい必ずライブに来てくれるんですよ。今、日本全国で30人ちゃんと人集めるバンドってあんまいないから、それってめちゃ強いことだなと思って。今も固定客が1人1人増えていくのが目に見えてわかるから。

──このアルバムはそういう人たちにすごく刺さるでしょうね。

有馬 もう最高だと思いますね。

前越 うん。ここからまたなんか始まるって思うとうれしい。

有馬 ほんとに始まりだと思うんですよ。最初のCD出すときも、よく何もわかってない状態でCD出すみたいな感じになっちゃってたんで。

前越 自分たちのペースじゃなかったよね。今はやっと自分たちの手が届く範囲でいろんなことできるようになったから。

──ROSEだったらそれがやれると思ったわけですよね。

インタビュー風景

有馬 まず最初に何が良かったかっていうと、初めてROSEに行ったとき、ROSE RECORDSの人がみんないるんですよ。で、ROSEの人たち4人とおとぎ話4人、あわせて8人でものすごくでかいことを、小さいかもしれないけどでかいことをやろうって。そのときに今までと違う、把握ができる感じがあって、これが全部の宇宙かもしれないって思えたんです。それを思えたのがものすごく、でかい。ROSEと話をする前に「HOKORI」の音源を北島さん(UKプロジェクト おとぎ話担当)に渡したときも「最大の恩返しのつもりでこういうのをこれからやろうと思ってるんでマジで見ててくださいよ」って感じはあったのね。やっと自分たちがやりたいことできたんで、ここから旅立つことができますって。だから本当にUKプロジェクト時代のCDを売るためにも、もっと面白いバンドにならなきゃしょうがないなと思って。それで曽我部さんと一緒にやるのが一番カッコいいと思ったんですね。

──UKプロジェクトでやりたいことをやらせてもらえなかったとか、音楽性を否定されたとか、そういうことじゃないんですよね?

有馬 全然そんなことではないんですよね。ないんですけど、なんか思っちゃってたんですよね、そういうふうに。「やっぱり(セールスの)結果が出てないバンドだよね」とか、そういう空気はあったと思うし。

曽我部 まあプレッシャーっていうのは感じるかもね。

──でもそれはある意味普通のことというか、レコード会社としてはCDがたくさん売れたほうがいいのは当然ですよね。

有馬 そうそう。

──だからUKプロジェクトは別に普通だと思うんですけど、その点ROSEは普通じゃないということなんでしょうか?

曽我部 うん。

一同 あはははは(笑)。

曽我部 うちはあれだよね、売れる売れないっていうよりも、もちろん売る努力はするけど、まずはこういう作品が世に出たら面白いなっていうとこでやれるような規模でありたいのよ。だから採算考えて、売れなくてもダメってならないようにしてる。

有馬 でも、ちなみにおとぎ話もめっちゃ売れる可能性があると思ってROSEに持ってきましたからね(笑)。

ニューアルバム「HOKORI」 / 2010年11月11日発売 / 2100円(税込) / ROSE Records / ROSE-111

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CD収録曲
  1. GANG STYLE NO.1
  2. 遺伝子
  3. ANIMAL
  4. 科学くん
  5. フランス
  6. 輝き
  7. カンフー
  8. MOTHER
  9. シンデレラ
  10. STAR SHIP
  11. weekend
おとぎ話(おとぎばなし)

アーティスト写真

有馬和樹(Vo,G)、風間洋隆(B)、牛尾健太(G)、前越啓輔(Dr)から成る4人組ロックバンド。2000年に結成し、2005年に現在の編成に。同年銀杏BOYZの対バンに抜擢され、2006年にはツアーのフロントアクトを務めて注目を浴びた。2007年9月に1stアルバム「SALE!」を発表。その後も2ndアルバム「理由なき反抗」、3rdアルバム「FAIRYTALE」と3枚のアルバムをUKプロジェクトからリリース。その後、曽我部恵一が主宰するROSE RECORDSとタッグを組み、メンバー自ら制作を手がけた4thアルバム「HOKORI」を2010年11月に発表。

曽我部恵一(そかべけいいち)

アーティスト写真

1971年生まれの男性シンガーソングライター。2000年のバンド解散まで、サニーデイ・サービスのボーカルとして活躍する。2001年からはソロアーティストとして活動を開始。シングル「ギター」でソロデビューを果たす。サニーデイ時代にも通ずるフォーキーでポップなサウンドと、パワフルなロックナンバーを巧みに操り、多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年には自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品やランタンパレードなどさまざまなアーティストのアイテムをリリースしている。