ナタリー PowerPush - OGRE YOU ASSHOLE

「100年後」に込めた終末感と真の思い

OGRE YOU ASSHOLEのニューアルバム「100年後」がリリースされた。未来を示すタイトルを持つ本作だが、メンバーの出戸学(Vo,G)はそのテーマについて終末感と答える。どこか浮遊感があって聴き手の心を温めてくれつつも、終わりを感じさせる歌詞やフレーズが耳に飛び込んでくるのも今作の特徴と言えるだろう。AORやファンクの要素を取り入れ、ギターロックのフォーマットから逸脱したバンドサウンドで新境地を提示したアルバム「homely」から1年ぶりに発表される本作で、バンドは何を目指したのか。インタビュー前半ではアルバム制作の裏側を、出戸に訊いた。

またインタビュー後半は、去る8月下旬に都内で行われたアルバム「100年後」先行試聴会の際に参加者から募ったアンケートを元に進行。ファンの感想や疑問に対し、出戸はときに真剣に、ときに冗談を交えつつ答えてくれた。

取材・文 / 西廣智一 インタビュー撮影 / 佐藤類

穏やかに終わりを見られる言葉「100年後」

──前作「homely」はそれまでの作品とはちょっと変わった印象があって、サビの存在しない楽曲が並びキャッチーさが減退した内容だと思いました。今回のアルバム「100年後」は前作と同じような流れにあるんですが、親しみやすいメロディが豊富に詰め込まれていて、聴きやすさという意味では確実に今回のほうが入っていきやすいアルバムだと思います。本作を制作する際に、どういう作品にしようと思いましたか?

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僕の中では「homely」がすごく完成度の高いものだと思ってたんで、それに恥じないようなものを作りたいなってまず思ってました。前作と連続性があるようなものにしつつ、音の持ってる質感はまた新しい方向性を持たせたいなと。

──それは具体的にはどういった内容ですか?

作る前にメンバーと話したのは、何かが終わっていく感じ……終末感が漂うような作品にしたいねって。

──その終末感はオープニングでいきなり「THE END」っていう文字が出てきたりする「夜の船」のPVからも感じられますよね。アルバム自体も1曲目が「これから」っていうタイトルなのに、何かが終わることをイメージさせる歌詞だし。だけど最後の曲「泡になって」で「ここにはなにもない」と言いながらも、終盤に「なにもないからどうにでもなれる」というフレーズが出てきて新しい始まりを予感させる。そういうアルバム全体のストーリーはあらかじめ考えていたんですか?

作ってるときはそういうことはあんまり考えてなかったんですけど。曲順をプロデューサーの石原(洋)さんが考えて、それがたまたま僕の作った歌詞の時系列に沿っていたのでストーリー性はちょっと出たのかも。「泡になって」の歌詞は希望を持たせるっていうよりは、どちらかというと追い詰められて狂気が入っているイメージかな。

──そうなんですね。今回のアルバムは特にタイトルの「100年後」という言葉が印象的ですが、これは何をイメージして出てきた言葉なんでしょう?

100年後って今生きている人のほとんどが、最終的には自分も含めて死んでるっていう。そういうひとつの終わりの象徴として使ったのが「100年後」という言葉で。でも僕は全てが終わるっていう恐怖心を煽りたいわけじゃなくて、穏やかに終わりを見られる言葉という意味で「100年後」というタイトルを付けたんです。

歌はできるだけ曲の邪魔をさせたくない

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──このアルバムを最初に聴いたとき、まず「homely」と比較して音が太くなった印象があって。でも曲自体が前作よりもポップだからそこまで太くなったと感じさせない、不思議な作品だと思いました。

曲作りの部分では、アバンギャルドなノイズの要素を入れつつも歌モノとして聴けるようなものにはしたいっていう考えがあって。「homely」は結構重たいアルバムだったので、今回は全体のトーンをもうちょっと軽めにしたいなっていう話はみんなでしてましたね。あと録音に関して言えば、エンジニアの中村(宗一郎)さんは「homely」のときは「楽器の音をペタペタくっ付けて1個の巨大な球にする」感じの音作りをイメージしてたみたいで、今回はその手法を変えて1個1個の音の粒が際立つ録り方にしたって言ってました。

──なるほど。歌が前面に出ていて、その後ろで鳴ってる楽器と絶妙なバランスで調和が保たれていますね。

実は僕の中で、歌はできるだけ曲の邪魔をさせたくないっていうところがあって。特に歌詞ってときには耳に入り過ぎて邪魔になってくる。日本語の曲を聴いてると特にそういう感覚が強いので、自分が歌詞を書くときはできるだけ意味を持たせたくないっていうか。でも全く意味のない言葉は言いたくないので、そのバランスが難しい。歌詞を書いてるときは「この言葉、ちょっと邪魔になってないかな」とか「全く意味がない言葉になってないかな」とか、そういう気持ちがせめぎあってるんです。

──そういう観点でいうと、今回のアルバムってここ何作かと比較して一番言葉が耳に入ってくるアルバムだと思います。

今回は最初に終末感というテーマがあったので、そこから外れないような意味を歌詞にある程度持たせて。自分では今までの歌詞よりも遊びがないというか、書き切ったっていう感じが強いです。そうやって生まれた言葉っていうのはすごく前に出てきやすいし、ちょっと怖くもあったんですけど、どうしてもチャレンジしてみたかったというか。

ライブでは4人だけでできることをストイックに追求

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──それと今回のアルバムではこれまでのギター2本で構築していく部分だけでなく、オルガンが前面に出る曲やソロをオルガンやキーボードが取る曲が増えていて、ギターバンド色が薄くなった気がしました。それぞれの曲のイメージに合わせて必要な音を入れてると思いますが、そのあたりの変化も意識的だったんでしょうか?

僕ら、今はサポートベーシストの清水(隆史)さんを含む4人編成でライブをやってるんですけど、ライブでは「自分たちはギター2本のロックバンドだ」っていう意識でステージに上がってます。でもアルバムのレコーディングではひとつの作品を作るという気持ちが強くなって、4人編成のロックバンドという形にこだわってないんです。終末感や終わりの雰囲気をどう出すか、そのためにはどの楽器が一番合ってるのか。僕たち1人ひとりがその作品の素材っていう気持ちでレコーディングに臨んでいるので、「ここはもっとギターを弾きたい、ソロを弾きたい」っていうプレイヤーとしての主張は一切捨てて、あくまでその作品のコンセプトを表現することに徹しました。

──バンドの4人以外の音を入れてレコーディングした楽曲は、ライブではどう演奏するんですか?

僕はCDとライブは別物だと思っていて。レコーディングでキーボードを入れたからライブでもサポートメンバーを入れたり、コーラスがたくさん重なってるからライブではコーラス要員を増やしたり、そんなことをしていくと僕の中のロックバンドに対する理想像みたいなものが崩れる気がしてるんです。なんでも補充されて満たされてるステージって、ただ「いい曲やってるでしょ?」みたいなだけになっちゃうような気がして、個人的にはあまり意味がないと思ってます。それに一度CDで作った世界をライブでなぞっても、CDでの完成された世界には勝てないし。そういう意味では、ライブではこの4人だけでどれだけのことができるのかをストイックに追求していきたいんです。

──じゃあ同じ曲がCDとライブとでは全く別の形で表現されることもあると。

曲によってはそうなると思います。レコーディングだとバンドをやってる感じではなくて、単純に作品を作ってるイメージで。映画で例えたら僕らが脚本家であり役者であり、プロデューサーの石原(洋)さんが監督で、エンジニアの中村さんがカメラマン。そういうひとつのプロジェクトとして、作品をみんなで作ってる感じです。だからライブのときが一番「ああ、僕らバンドやってるな」って実感できますね。

ニューアルバム「100年後」2012年9月19日発売 2500円VAP / VPCC-81747

収録曲
  1. これから
  2. 夜の船
  3. 素敵な予感
  4. 100年後
  5. すべて大丈夫
  6. 黒い窓
  7. 記憶に残らない
  8. 泡になって
OGRE YOU ASSHOLE(おうがゆーあすほーる)

出戸学(Vo,G)、馬渕啓(G)、勝浦隆(Dr)からなるギターロック / オルタナロックバンド。90年代末に長野で前身バンドを結成。2001年5月にアメリカのオルタナロックバンドMODEST MOUSEが松本公演を行った際に、エリック・ジュディがメンバーの腕に書いたイタズラ書きがきっかけとなり、バンド名をOGRE YOU ASSHOLEに。2005年に1stシングル「タニシ」、1stアルバム「OGRE YOU ASSHOLE」をリリースする。数々のフェス出演やライブツアーを経て、着実に知名度を高めていく。2009年にVAPへ移籍し、シングル「ピンホール」でメジャーデビュー。2011年夏に前任ベーシストが脱退してからはサポートメンバーを迎えてライブ活動を続けている。2012年9月にニューアルバム「100年後」をリリース。