ナタリー PowerPush - 坂本美雨
複雑なハーモニーで描きだされた みずみずしい「HATSUKOI」
一番ルーツにあるのはやっぱりテクノ
──今作のサウンドは、チェロやタブラといった生楽器が使われているのも大きな特徴になっていますね。
チェリストの徳澤青弦とか、タブラのU-zhaanとか、親しい人に弾いていただいたんです。前回はエレクトロっていうことであえて生音を一切入れないでいたんですけど、今回はそういう縛りから少し自由になれて。声と生楽器っていう有機的なものはお互いを引き立て合うんじゃないかなって思ったし、生音を使ってもエレクトロだなって思えたので。
──エレクトロという音楽は美雨さんにとってやはり魅力的ですか?
好きですね。いろんな音楽が好きなんですけど、一番ルーツにあるのはやっぱりテクノ。気持ちいいのがそこなんです。なので前回、ちゃんとエレクトロに取り組んでみたいと思ったんですよね。
──声楽をルーツとする歌声がエレクトロとこんなにも相性がいいなんて衝撃的です。
そうですよね。たぶんジャズとかR&Bとか聴いて育ってたらまったく違ったカラダの使い方になっただろうし、歌い方も違ったと思いますね。テクノと声楽を聴いて育ったので、そういう音楽におのずと合うように自分で調整してきたのかもしれないです。余計な節はつけないように、とか。
──それから今回は、小室哲哉さんが手掛けた「True Voice」という曲が収録されています。
はい。メロディをいただいて、アレンジは好きにしていいよって言ってくれたので、トラックはデイブと一緒に作りました。
──自分発信ではないメロディを歌うのはいかがでした?
私、もともと小室さんの大ファンなんですよ。7歳のときからずっと聴いてきたので、一発で小室さんのメロディだなってはっきりわかったし、カラダが気持ちいいと思うメロディなんですよね。だから単純にうれしかったです。同時期に小室さんのソロアルバムにも1曲参加させていただいて、 そっちの歌録りは小室さんのスタジオにうかがったんですけど、意外と素のテンションでいられました。そんなに緊張もせず。
──この曲もコーラスは美雨さんがつけたんですか?
そうです。ハーモニーというよりはカウンターメロディというか。最後のほうになってメロディがいくつか出てきてっていう形になりましたね。それも小室さんのメロディに引き出されたんだと思います。
大事な時間にスッと入ってきて寄り添える音楽でありたい
──アルバムは全10曲で約30分。このタイム感って今のシーンでは珍しいですよね。めいっぱいCDに詰め込む人が多いのに。
前回、もうちょっと入れてよっていう声もあったんですけどね(笑)。でも1枚通して聴いてもらって「アレ、もう終わっちゃった!」ってもう1回聴いてもらうぐらいが、新鮮な気持ちが長続きするんじゃないかなって思うんですよね。
──確かに。僕、今日ここに来るまでに2回リピートしてきました。
理想ですね。電車ですか?
──はい、電車です。
あぁ、電車はいいですねぇ。電車の中で聴いてもらうのはうれしいです。通勤とか通学とか。自分でも電車に乗りながらいろんな音楽を聴くことが多くて、音楽と風景がマッチすると最高に幸せなので。“鉄子”としてはやっぱりそこを推していきたいですね。鉄道音楽(笑)。
──アハハハ(笑)。新しいジャンルですね。
1日の始まりに気合を入れるときだったり、逆に1日のリセットのときだったり、そういう大事な時間にスッと入ってきて寄り添える音楽だといいなと思いますね。自分が聴くことも想定しているので、やっぱりそうなっちゃう。もっとガシガシなフロア向けの曲も作ってみたいですけど。アハハハ(笑)。
──そういうタイプの曲も似合いそうですけどね。
私のライブに来てくれるお客さんって、座って1人でじっと聴く方が多いので、ふわふわ踊りながら聴いてくれたりするとうれしいなって思いますしね。今後、チャレンジしてみます(笑)。
坂本美雨「Precious」ビデオクリップ
CD収録曲
- Joy
- Ring of Tales
- Precious
- Interlude ? Lacryma Dancer
- Let You Go
- True Voice
- Accidental Merry-go-round
- Silent Dancer
- Everything Is New
- Eyjar
坂本美雨(さかもとみう)
1980年生まれの女性シンガー。1997年1月に「Ryuichi Sakamoto featuring Sister M」名義でデビューを果たし、1998年から本名での本格的な音楽活動を開始する。透明感あふれる歌声が高く支持されており、1999年発表のシングル「鉄道員」は映画「鉄道員(ぽっぽや)」の主題歌に起用。2006年5月にはアルバム「Harmonious」をリリースしている。現在は音楽活動の他に、コラムや映画評の執筆、翻訳、ラジオDJ、ジュエリー・ブランド「aquadrops」のプロデュースなども行っており、多方面で活躍中。父は坂本龍一、母は矢野顕子。