ナタリー PowerPush - MiChi
同じ空の下、気持ちは1つ 「ONE」が伝えるメッセージ
ちょっと違う世界とつながってる感じが「アバター」っぽいかも
──次はサウンドについてもお訊きします。全体的にはMiChiさんの王道といった感じのエレクトロポップですが、実は最初に作品のテーマを知ったときは、バラードだろうと思ったんです。
ああ、そうだよね。でも、そうはしたくなかったんです。いつものプロデューサーが作るサウンドに今回みたいなメッセージがのってるほうが、やっぱりMiChiらしいのかなって思ったから。
──イントロには大自然を彷彿とさせるような叫びが入っていますが、あの声はMiChiさん?
違うんですよ(笑)。プロデューサーが入れたんです。あれ、冒頭からインパクトあるよね。それでこの曲のスイッチが入るというか。
──そうそう!
あと、全体的にもワールドミュージックっぽい感じで。あるとき、プロデューサーと「アバター」を観に行ったんですけど、彼はその日にこの曲を作ったんです。観た人は「ああ!」ってわかるだろうけど、ちょっと違う世界とつながってる感じとかは、もしかしたら映画にインスパイアを受けたのかもしれない。
──地球や惑星といったキーワードが浮かぶサウンドは「アバター」きっかけだったと。
そうかも(笑)。
──今回のボーカルに関してはどうですか? いつもと違う、ちょっと抑えた感じの優しい響きが印象的でしたけど。
実は最初、全体的にもっと優しい感じのファルセットで歌ってたんです。おしつけがましくなく、そっと優しく伝えたいメッセージだと思ってたから。でも、今回シングルになるってことで、改めて聴いてみたらちょっと弱いなって思って。MiChi、実は被災地にボランティア行ってきて、その後に改めてレコーディングしたんだけど、思いがよりリアルに強くなってたんだと思う。だから、もっとメッセージを伝えたいって気持ちが強くなって、1つひとつの言葉をはっきりと歌ってみたんです。だから、最初のバージョンからガラッと雰囲気は変わって、新しいバージョンのほうが人の心により入っていけるのかなって思います。
──今回のシングル化にあたって、PVは改めてMiChiさん出演の映像を撮ったんですか?
そうですね。先日、沖縄の大自然の中で撮ってきました。最初は自分で作ったものがあるからいらないかなって思ったんですけど、自分が出演してる映像も求めていただいたので。ただ、すごく少人数で行って、今までにはないシンプルなものになりました。
──シンプルさに加えて温もりがあるというか、ちょっと手作りな感じがいいですよね。
そう。今回は、それを絶対になくしたくなかったんですよね。
お金をもらってやってたら、絶対にできない仕事だった
──先程お話に出たボランティアのこともお伺いしたいのですが、実際に被災地へ行って、どうでしたか?
一番強く感じたのは「人は人のためなら本当にがんばれる」ってこと。MiChiは小さなボランティアチームに参加したんだけど、ほかのボランティアの皆さんを見て感動したんですよ。ガレキの撤去とか1日に5軒もやるんです。家に入った瞬間、毎回「うわっ!」って思うの。「こんなの無理じゃん」って。でもそんなこと言ってたら始まらないから、みんなただ「よし、やろう!」って。被災者の人たちと一緒に協力して笑顔でやるんだけど、これ、お金もらってやってたら絶対できない仕事だって思った。
──逆に?
そう。だから、人は本当に必要とされたいんだなって。それでやっと自分の価値がわかる……というのはオーバーだけど、やっぱり求められたいんだなって思う。現場ではMiChiも、もっと自分にできることがあればいいのにって思った。例えば、もっと力があればもっと重いものを持てるのにとか、料理ができたら作ってあげられるのにとか。
──誰もが同じ思いを抱えていたんでしょうね。
ですね。あとは、被災者の皆さんがすごくポジティブだったことに驚きました。MiChiが行ったのは約1カ月後くらいだったから、やっと少し気持ちの余裕が出てきてたのかもしれないけど、ほんとにリスペクトできましたね。
──どんなふうだったんですか?
本当にいろいろ大変な中、常に「あげよう」という気持ちがあるんです。一緒に片づけをしたらすぐ「これ持って帰って」って、おやつ出してくれたり、「せめてジュース代を」って、お金を渡してくる人もいたし。もちろん、そんなのいらないからって断ったけど。
──その経験を通して、人間の本質みたいな部分も知った?
そうだね。なんかもう、みんなが素の状態だったから。着飾る余裕とかないから当たり前なんだけど、その素の姿がほんとにきれいだったんだよね。
──実際に現地へ行かないと感じられないこともたくさんあったんでしょうね。
MiChiは、いい意味でいろんなことがどうでもよくなったね。本当に大切なことが見えてきたというか。タイミングを見て、また被災地には行きたいと思います。
MiChi(みち)
1985年イギリス生まれ。イギリス人の父と日本人の母を持つ。2歳から10歳までを神戸で過ごし、1995年阪神・淡路大震災の後、再びイギリスに移住。10歳から18歳までのもっとも多感な時期をバーミンガム近郊で暮らし、シンガーを夢見る。18歳で再来日し、プロデューサー松澤友和とともに東京で本格的な音楽活動をスタート。2008年10月「PROMiSE」でメジャーデビュー。ユニクロの世界キャンペーンキャラクターとしてCMに出演するなど幅広い活躍を見せる。2009年9月に待望の1stフルアルバム「UP TO YOU」をリリース。現在もライブなど精力的な活動を続けている。