音楽ナタリー PowerPush - AOMORI ROCK FESTIVAL '14~夏の魔物~

吉田豪が問い詰めた私生活、DPG、魔物

プロレスってホント難しいものなんだな

──最初は、なんで成田さんがマスクマンなんだっていうのがまずあったじゃないですか。

そもそも俺は出る予定じゃなかったんで。レコーディングして、俺も歌は一応入れるけど、みんな歌えるだろうと思ってて。別に楽器を弾けって言ってるわけじゃないし。ところがどっこい……。

──メインボーカルを取れるレベルの人がいない。

はい(笑)。自分がやらなきゃいけないんだなと思って。

──それでやむなくマスクを被ってボーカル担当になった、と。出たがりでやってるわけではなかったってことですね。

そうです。よく言われるんですけど、まったく出たがりじゃないんです。

──正直、今DPG興行を観ててしっくりこないのはそこなんですよね。試合にもストーリーラインにも絡まない裏方の社長が、なんで興行の最後にだけ出てきてメインボーカルやってるんだっていう。

よくわからないですよね。

──メインボーカルは出演者に託して裏方に徹するか、自分も腹を括ってプロレスやるか悪の社長としてストーリーに絡むか、どっちかにするべきだろうなと思いながら観ていて。

これに関して言えば詳細は書けないんですけど、DPGを始めて思ったのが、プロレスってホントに難しいものなんだなと思って。ものすごいスランプじゃないけど、プロレスっていったいなんなんだろうっていう……そこにぶつかって。

「案外真剣にやってるんだ!」

──DPGの旗揚げ戦を観て思ったのが、プロレス用のリングだとライブがすごいやりづらいんですよね。hy4_4yhとかピョンピョン飛び跳ねるから、まるでトランポリンの上でライブやってるような状態になっちゃって。その反省からなのか去年の「夏の魔物」では固いステージ用のリングになったら、今度はリング調整でものすごい手間取るわ、試合が始まったらあきらかに投げ技とかが出ないわで、おかしなことになって。

そうなんですよ。ライブのほうに寄せたら、今度はプロレスに影響してきたっていう。あと安いリングを使ってしまったので、リングに敷いてる板がゴールデンボンバーの歌広場(淳)さんと大勢で「女々しくて」やったときに壊れちゃったみたいで。

──ブラックDPGのメンバーが女子プロレスラーとしてリングには上がっているのに、なぜDPGでは試合しないんだとか、大人の事情っぽいものも見え隠れして。

プレイベントの様子。

自分的にはもっといろいろやれると思ったんですけど、難しくて。去年の「魔物」まではずっとどうすればいいんだろうっていうスランプみたいなのが続いてて。あれを打破できたのは、「魔物」が終わった次の日の朝に「KAMINOGE」の井上(崇宏編集長)さんとマッスル坂井さんと劔(樹人)さんと4人で車で移動して、新青森駅まで送っていったときに、誰にも言えない悩みを言ったんです。そしたら坂井さんに「案外真剣にやってるんだ!」って驚かれて。

──まったく伝わってないわけですね(笑)。

はい(笑)。どういうことだと思って。自分はものすごくプロレスを愛しててそれでやってるのに、坂井さんにも届いてなかったんだと思って。どうしてもおふざけだと思われるっていうのは、いまだに悩んでることなんですけど。そのときに、氣志團とかもメジャーのフィールドで決められた中でできることをやってるわけじゃないですか。じゃあこの中でどうできるかっていうことを考えたほうがいいんだなと思って。そういう方針に切り替えたら、2月の新宿FACEでステフの復帰がうまくいったんです。

輝けない人が集まって輝ける場所を作るはずだった

──ステフっていう存在はホント大きいと思ってて。あの人は見ててハラハラするんですよ、何言い出すかわかんない感じとか、リアルな匂いがする人だから。

脳味噌的には半分パンクで、半分ちゃんとした会社員的なところも持ってるから面白いっていうのを作詞の只野(菜摘)さんとも話してて。

──PRIDEやZERO-ONEの旗揚げ戦みたいな緊張感を作りたいって前に言ってたじゃないですか。たぶん、DPGにそういうリアルな要素を入れようとしたのが、ステフさんのDPG告発だったんだと思うんですよ。

そうですね。最近思うのは、第二次UWFでもめたじゃないですか。船木(誠勝)派があったり。

──「前田日明や高田延彦は道場に来ない」って理由で、いつも道場にいる若手と溝ができて。

はい。それもすごく似てるなと思って。よくわからないまま一生懸命やってたら、みんなモンスター化してきたんですよ。「夏の魔物」っていうパッケージングに乗れて、小箱でやって毎回ソールドアウトになってにぎわってるじゃないですか。自分たちおのおのでやってて輝けない人が集まって、集合体として輝ける場所を作るっていうことだったのに、自分の力だと思ってしまったっていう。俺はプロデュースする側なんで、メッキを塗る作業が必要なわけじゃないですか。本人が本来持ってるいい部分を伸ばしてあげたいと思って、いろいろよかれと思ってやってあげてたことが、全部が当たり前になってしまったというか。

──そこでステフさんが「あいつら物販もちゃんとやらないで! ブラックDPGのほうがちゃんと考えてる!」とか噛みついて。

はい(笑)。例えばこれが後楽園ホール即完とかリキッドルームソールドアウトしてるんだったら話は別ですよ。言っても100~300人規模でやってる人たちがなんでこうなってしまうんだっていう。

──ほかのアーティスト目当てで来る人も多いわけで。

それも全然わかってないというか……。クオリティを上げたい、ちゃんとしたショーがやりたい、興行がやりたいってなってくると妥協したくない部分がいっぱい出てきて。こういうものをやりたいって言っても、あの人たち的には「いや、これでお客さん喜んでんだからいいじゃん」っていう。まあまあのことをやって、範囲内の喜びがファンに届けばいい、みたいな。そんなんで客が増えるわけねえだろっていう。みんなミクロな世界のミクロな出来事しか知らないというか、広い世界を知らなすぎるから、みんな居心地のよさを選んでしまって。なのでステフとほかのメンバーのズレが生じて。やっぱり腐ったミカンじゃないですけど伝染するんですよ。そっちはそっちの正義があるわけじゃないですか。「俺らはやってるよ」って。でも、こっちからすると何もやってない。そこに対しての考え方の違いが出てきたのがここ数カ月で。

──最近の意味ありげなツイートはだいたいそういうことだった、と。

みんなにも本当の意味で本気になってほしいっていうか。ぼくは本当にこのメンバーで武道館に立ちたいと思っていて。だからこそ今やらなきゃいけない時期なのに、なぜわからないのかって。今わからないなら多分一生分かり合えないし、それだったらここで別れるしかないかなっていう。

──こういうゴタゴタを表に出すのってリスクは高そうなんですけど、今やっと面白くなってきた感はあって。

それは思います。でも、言葉にするのは難しいんですよね。

──リアルなもめごとは面白いですけど、どうまとめるんだっていう話で。

でも、まとまってきてるんですよ、実際は。ステフが言ってたことに対して。

──あの人のトンパチぶりはおもしろいですよ。

彼女、本気でやってないって一番思われるんですよ。見た感じがそうじゃないですか。それで大内さんが「ステフはしょせん遊びでやってんでしょ」みたいな感じで言ってきたのが発端で、1回東京女子プロレスの旗揚げ戦で辞めるとか辞めないとか、戻ってくる戻ってこないとかの騒動に発展して。結局、ステフと俺の長い歴史だったり、大内さんとステフの話だったりっていうのはコントロールできないものなんですよね。

──だから、そこにリアリティが感じられて。

はい。バンドのストーリーってそこが重要じゃないですか。結局やりたいのってそれで。今やってるのはバンドじゃないけど、自分で大事にしてるところはどうしてもそこになっちゃうし。「テレクラキャノンボール」じゃないですけど、やるかやらないかをハッキリさせるっていうのが今のDPGなんじゃないかなっていう。デカいところでやって、見たことない光景を見るときには一緒にいたいなって思える人が今は数人いる……数人いるっていうのは変ですけど(笑)。

──全員じゃない(笑)。

でもこれ以上メンバーにはいなくなってほしくないですね(笑)。「このメンバーでずっとやっていきたい!」っていつも思ってたんですけど。

──ホント脱退が多いですよね。

多すぎですよ。辞めさせたっていうよりは、できなかったっていうのと問題があっただけなんですけど。

AOMORI ROCK FESTIVAL '14~夏の魔物~

2014年7月21日(月・祝)青森県 夜越山スキー場
OPEN 7:00 / START 8:00

AOMORI ROCK FESTIVAL '14~夏の魔物~

<出演者>
BRAHMAN / でんぱ組.inc / the telephones / 髭 / ドレスコーズ / THA BLUE HERB / 神聖かまってちゃん / 水木一郎 / 蝶野正洋 / 大槻ケンヂ&NARASAKI / 人間椅子 / KING BROTHERS / THE NEATBEATS / 曽我部恵一 / 向井秀徳アコースティック&エレクトリック / 後藤まりこ / 大森靖子 / 田我流 feat. stillichimiya / サイプレス上野 / HINTO / Wienners / アルカラ / アップアップガールズ(仮)/ バンドじゃないもん! / LinQ / Negicco / Especia / lyrical school / BELLRING少女ハート / hy4_4yh / Ladybeard / 寺嶋由芙 / ゆるめるモ! / ULTRA-PRISM / 妄想キャリブレーション / 藤岡弘、 / DJダイノジ / 吉田豪×杉作J太郎 / 掟ポルシェ / クリトリック・リス / ベッド・イン / 久保ミツロウ+能町みね子 / うしじまいい肉撮影会 / 岸田メル / KAMINOGE ROCK FESTIVAL '14(マッスル坂井、井上崇宏) / MC. アントーニオ本多 / DDTプロレスリング / DPG VS ブラックDPG / DJテンテンコ(ex. BiS) / 小林ゆう / and more

夏の魔物前夜祭

2014年7月20日(日)青森県 青森サンシャイン
<出演者>
川本真琴 / 大森靖子 / 撃鉄 / 快速東京 / DJテンテンコ(ex. BiS) / DPG VS ブラックDPG / and more

DPG VS ブラックDPG ニューシングル「スーパーエンタメ大戦 夏の魔物エンタメユニット DPG VS ブラックDPG」2014年6月25日発売 / 1080円 / 虎の穴レコード
DPG盤 [CD] DQC-1304 / ジャケット写真:タイコウクニヨシ
ブラックDPG盤 [CD] DQC-1305 / ジャケットデザイン:岸田メル
VS盤 [CD] DQC-1306 / ジャケットデザイン:河野さち子
収録曲
  1. キカイノココロ
    作詞:只野菜摘 作曲:浅野尚志 G:ROLLY
  2. ダダダダダン
    作詞:只野菜摘 作曲:小池雅也
  3. キカイノココロ(FUNKOT魔改造 BY DJ JET BARON)
    Remix:高野政所
成田大致(ナリタダイチ)

1986年青森県生まれ。2006年、19歳のときに「AOMORI ROCK FESTIVAL~夏の魔物~」を主催し、個人による手作りフェスとして話題を集める。以降「夏の魔物」は規模を拡大しつつ継続中。2013年春からはオーディションでメンバーを集めた新プロジェクト「DPG」を発足し「世の中とプロレスするバンド」をキャッチフレーズに、新たな活動をスタートさせた。