音楽ナタリー Power Push - 筋肉少女帯

もはや“再結成バンド”ではない 昭和からタイムトリップしてきた男たちが描く原風景

「ライブでやらない」ということが存在意義なんだなって気付いた

──「LIVE HOUSE」からアルバムの雰囲気が一気に変わりますからね。若いときの恋人と再会する「別の星の物語り」もじんわりと沁みる歌だし。

大槻 これは完全に野口五郎さんの気持ちになって歌いました。

内田 あ、そうなんだ。

大槻 昭和歌謡のイメージですね。「LIVE HOUSE」「別の星の物語り」「私だけの十字架」は自分の中でつながってるんです。若い頃の恋があって、何十年かぶりに再会して。自分の中でまとまりがついたと思っていたら、じつは十字架を背負っていることに気付くっていう。弘兼憲史先生の「人間交差点」「黄昏流星群」のような世界ですね。

──「時は来た」は、“筋肉少女帯のライブ=憤りを解放し、ルサンチマンを得る”という図式をストレートに示した楽曲です。

大槻 これも引用ということになるかもしれないけど、「時は来た」っていうのは、破壊王・橋本真也選手が使ったセリフとしても有名なんです。橋本が「時は来た!」って言って、横で蝶野正洋選手がクスッと笑うっていう(笑)。でも、この曲の聴きどころはオルガンじゃないですかね?

本城 某曲のオマージュでもあるからね。

内田 ネタバレしないように言うと、とある古いハードロックの名曲にフォーリーブスの歌が乗ったらどうなるか、という思いつきだけで作り始めたんですが(笑)、結果的に全然違うことになってきちゃった。アジテーションハードロックだね。

大槻 筋少にはアジテーションが入ってる曲がわりと多くて、それはライブのときにお客さんを煽ったり、メンバー紹介にも使えるんですよね。「時は来た」もライブを念頭に置いていたので。

──ライブに対する意識は相変わらず高いみたいですね。

大槻 個人的にはね、人生において充実感を得られるものがライブしかなくて困ってるんですよ。ライブをやることが先立ってしまって、やることをあとから決めることもありますから。

内田 それはそれで大事なことだけどね、モチベーションとしては。

大槻 ライブでやる曲って決まってきちゃうから、いろいろ考えないとね。これは最近思ったことなんだけど、どんなバンドにも「この曲、ライブでほとんどやったことないな」っていう曲があるじゃないですか。CDには入ってるけど、ライブで聴いたことないとか。そういう曲って昔は「意味あるのかな?」って思ってたけど、「ライブでやらない」ということが存在意義なんだなって気付いたんですよ。今回のアルバムでいうと「私だけの十字架」「S5040」あたりかな……。あんまりやらなそうだよね。

──「S5040」は内田さんの作曲によるサイケデリックなナンバーですね。

内田 毎度アルバムの中で、ライブではあまりやらないような曲に手をつけるのが僕でして。よく言えば、新境地に挑戦し続ける開拓者ですね(笑)。「S5040」は“アシッド筋少”をやってみたかった。 心を病んだシド・バレットが脱退したPink Floydに、後任で太田裕美が入ったっていうイメージですかね(笑)。

本城 全体的な空気感はアシッド、サイケなんだけど、メロディラインが昭和歌謡なんだよね。ギターを弾くときも、どっちに寄り添えばいいかすごく考えました。結果、両方入れちゃったんですけどね。

内田 適当でいいのに(笑)。

自分たちが身をもって経験してきたものを堂々と表現できたらいい

──「S5040」はこのアルバムの1つのポイントだと思います。「僕らは過去 僕らは未来 その間(はざま)で 惑わす今」という歌詞は、まさに2015年の筋肉少女帯の在り方そのものだなと。

大槻 最初は「S5040」をアルバムのタイトルにしようかと思ったくらいですからね。我々は過去から来たというより、まだ旅の途中だと思うんですよ。その中で、たまたま現在という時間軸に存在しているというか。筋肉少女帯は最近フェスなどにも出させてもらってますが、若いバンドと一緒になると、明らかに異質なんです。なぜ我々が異質なのかと言えば、昭和40年代、50年代が原風景の人間だからだと思うんですよ。それ以降の人たちとはおのずと違っているわけですが、フェスやイベントでそれが同一線上に並ぶのが面白いなと。そこはこちらの意識の持っていき方と言いますか、単に古いということではなく、異質な時代からタイムトリップしてきたという感覚なんです。「若い皆さんがご存じない、異世界の原風景を見せてあげたい、聴かせてあげたい」っていう気持ちがあるんですよね。

橘高文彦(G)

──昭和40年代後半から昭和50年代前半、つまり1970年代のカルチャーが筋肉少女帯のルーツである、と。

橘高 我々は音楽的なつながりはそんなにないんですよ、実は。「ストーンズになろうぜ」みたいに集まったバンドではなくて、“同級生”ということだけが軸になってるんですよね。昭和40年代、50年代に育って、その中でいろんなものを吸収して。それをやっと出せるようになってきたんじゃないかな。新人の頃——今も新人のつもりでがんばってますけど——古いものに憧れていたんですよ。キャリアを重ねてくると逆に新しい要素が欲しくなるんだけど、今回はそうじゃなくて、自分たちが身をもって経験してきたものを堂々と表現できたらいいなと思って。だからこそ生の録り音にもこだわったし、そんな昔ながらのやり方が筋少の独自性につながっていると思うんですよね。

大槻 考えてみると筋少みたいなバンドはいないからね。若手のバンドで「筋少みたいなことをやりたいんだろうな」って思うバンドはたまに見るけど。

橘高 若い人たちは80'sのメタルを生で観たことがないから、Marshallのアンプを積み上げるだけで喜んでくれたりするんですよ。あれは1つのヘヴィメタル様式美だけど、若手のギタリストも実はアレがやりたかったりするんだよね。でも、実際は小さいアンプとか、もしくはアンプも置かないでやってるわけじゃない? 逆に俺がそれをやっても意味ないし、そこはお互いに独自の美意識を持つことがオリジナリティなんだろうね。

──アルバムのリリース後は、またライブ中心の活動ですね。

大槻 そうですね。これまでの定番でいけば「大都会のテーマ」をSEにして、「レジテロの夢」で始まることになるんだけど、アレが1曲目のライブは相当大変だよね。

内田 そうだね(笑)。

本城 「S5040」もやりましょう。

大槻 え、やるのかなあの曲? そう言えばね、我々は27年バンドをやってますが、いまだに新譜を聴かないでツアーに来るお客さんがいらっしゃるんですよ。予習しといたほうがノれるのに。まあ、人それぞれだけどできたらぜひアルバムを聴いて来てほしいですよね。でも、アルバムの曲ばかりやるかわからないけど(笑)。

ニューアルバム「おまけのいちにち(闘いの日々)」2015年10月7日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
「おまけのいちにち(闘いの日々)」
初回限定盤[CD3枚組+DVD] 5443円 / TKCA-74266
通常盤[CD] 3240円 / TKCA-74270
CD収録曲
  1. 大都会のテーマ(TVサイズ)
  2. レジテロの夢
  3. 混ぜるな危険
  4. 球体関節人形の夜
  5. 枕投げ営業
  6. LIVE HOUSE
  7. 別の星の物語り
  8. 私だけの十字架
  9. 大都会のテーマ
  10. 時は来た
  11. おわかりいただけただろうか
  12. S5040
  13. 夕焼け原風景
初回限定盤DVD収録内容
2015年4月26日「春だ出撃だ筋肉少女帯!!」EX THEATER ROPPONGI公演
  1. 君よ!俺で変われ!
  2. 少年、グリグリメガネを拾う
  3. 僕の歌を総て君にやる
  4. 未使用引換券(Vo.本城 Ver.)
  5. 爆殺少女人形舞一号
  6. 暴いておやりよドルバッキー(Single Ver.)
  7. 機械
  8. 中学生からやり直せ!
  9. 釈迦
  10. 中2病の神ドロシー

※初回限定盤にはアルバム全曲のインストバージョンが収録されたボーナスCDと、「おわかりいただけただろうか(Vo.橘高 Ver.)」「LIVE HOUSE(Vo.本城 Ver.)」「別の星の物語り(Vo.内田 Ver.)」をそれぞれ収録したCD3種類のうち1枚をランダムで封入。

筋肉少女帯(キンニクショウジョタイ)

1982年に中学の同級生だった大槻ケンヂ(Vo)と内田雄一郎(B)によって結成。インディーズでの活動を経て、1988年にアルバム「仏陀L」にてメジャーデビューを果たす。1989年に橘高文彦(G)と本城聡章(G)が加入し、「日本印度化計画」「これでいいのだ」「踊るダメ人間」などの名曲を発表。特に「元祖高木ブー伝説」はチャートトップ10入りを記録し、大きな話題に。大槻による不条理&幻想的な詩世界とテクニカルなメタルサウンドが好評を博すものの、1998年7月のライブをもって活動を“凍結”。各メンバーのソロ活動を経て、2006年末に大槻・内田・橘高・本城の4人で活動再開を果たす。2007年9月には約10年ぶりのオリジナルアルバム「新人」をリリース。東京・日本武道館公演の開催や「FUJI ROCK FESTIVAL」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」といった大型イベントへの出演など、精力的なライブ活動を展開する。2013年にはメジャーデビュー25周年を記念したセルフカバーベストアルバム「公式セルフカバーベスト 4半世紀」、2014年には4年4カ月ぶりのオリジナルアルバム「THE SHOW MUST GO ON」をリリース。2015年5月には人間椅子とコラボバンド「筋肉少女帯人間椅子」としてのシングル「地獄のアロハ」、10月にはテレビアニメ「うしおととら」のオープニングテーマ「混ぜるな危険」を含むアルバム「おまけのいちにち(闘いの日々)」を発表した。