ナタリー PowerPush - 毛皮のマリーズ

圧倒的大器メジャー移籍! 志磨遼平、その生きざまを語る

毛皮のマリーズがセルフタイトルアルバム「毛皮のマリーズ」でついにメジャーデビュー。THE BEATLES、THE ROLLING STONES、THE WHO、忌野清志郎といった先人たちからの影響をダイレクトに感じさせるバンドサウンド、ロックンロールへの最大限のリスペクトと信頼に裏打ちされた歌がひとつになったこのアルバムによって、日本のロックミュージックは新たな局面を迎える──そんな手応えさえ感じさせる名盤だと思う。

アルバムのテーマと楽曲の詳細については志磨遼平(Vo)の解説を読んでいただくとして(この人、文章うまいです)、このインタビューでは彼の美意識と価値観、そして、うっかりロックに捧げてしまった彼自身の生きざまに迫ってみた。

取材・文/森朋之

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「初期衝動」には興味がない

──メジャーデビューアルバム「毛皮のマリーズ」、ホントに名盤だと思います。

お、ありがとうございます。

──まさにロックンロールそのものというか。志磨さん自身もかなりへビーローテーションしてるんじゃないですか?

僕、録り終わったものは意外と聴かないんですよ。アルバムってレコーディングが終了した時点でのベストですからね。我々は日々精進しておりますから、1日でも2日でも経つと「あー、ここは直したい!」って思っちゃうんですよ、どうしても。だからもう次の制作に入ってるんですけど、今録ってるものはよく聴いてますね。「最高やな!」って思いながら。

──(笑)。今回は「20代前半の自分」というのがひとつのテーマだったということですが、それは最初から意識してたんですか?

そうですね。意識してました。

──どうして20代前半をテーマにしようと?

あの、ロックの宣伝文句で「初期衝動」っていうのがあるでしょう。10代がどうのこうのとか「Don't trust over 30」みたいなものとか。そういうことにね、全く共感を覚えたことがないんですよ。「人生における、輝ける一瞬」っていうことではなくて、どう歳を取っていくか、自分は何者になっていくのかってことにずっと興味があって。だから、過ぎ去ったものに価値を置いたこともなかったんですよね。

──いきなり非常に興味深い話ですねえ。初期衝動に価値を置かないっていうのは、非常に意外なんですけど。

僕、小説も好きなんですけど、小説にしてもブルースにしても落語にしても、30歳くらいだと“新進気鋭”とかって言われますよね。ブルースマンの場合、50くらいでデビューってこともあるし、落語の大家とかも……。

──60代以上ですよね。

そうそう。熟練だったり匠だったり、そういうものを手に入れたいんですよね、僕は。ロックにおける若さって、手に入れるものではないですよね?

──持ってるもの、ですよね。

備わってるというか。そこには興味がないんですよね、ホントに。例えば10代のときもパンクが演奏できなかったんですよ、あまりにも”そのまま”すぎて。だから、ルーツミュージックというか、ブルースとかそういう音楽をいかに自分のモノにできるかっていうのを続けてきたんです。パンクみたいな衝動的な音楽をやれるようになってきたのって、20代半ばくらいですから……ちょっと前置きが長くなってますけど。

──大丈夫です(笑)。

歌詞は余計にそういう感じなんですよね。日々精進しながら、真理だったり、絶対的に正しいことに近づいていきたいっていう。いろんな感情を経験するのも大事ですよね。死ぬほど喜ぶ、死ぬほど泣く、いろんな出会いと別れを繰り返す中で真理ってものを知りたいっていうのがあって。若いときはムダにエネルギーがあるし、身体もよく動くから、そのぶん遠回りしちゃいがちなんですよ。そうじゃなくて、もっと力を抜いて、真髄だけを見極めていきたいんです。つまり、ずっと自分のための音楽をやってきたんですよね、ひと言でいうと。

高円寺で風呂なし5畳半のアパートに住んでいた

──じゃあ志磨さんはロックの真髄を極めるためにこれまで音楽をやってきた、と。

なんていうか、僕のための音楽というか。でも今回は初めて、人のためにやろうと思ったんですよね。なんていうか、僕よりも若い人たちが、僕の歌に共感してくれるっていうのが、最初はすごく意外だったんですよ。意外というか、新鮮というか。だって、誰でもそうだと思うけど、僕も「人とは違う」って思ってきたわけですから。すごくヒネくれて、誰ともかかわることなく、僕は僕の道を行くっていう青春やったから。そういう人が書く歌詞に共感するって、なんか矛盾してる。「自分は人とは違う」って思ってる人がたくさんいる、みたいな。

──そうですね。

実際、どうして自分の音楽を聴いてくれたり、ライブに来てくれるのかがわからなかったんです。共感してくれたり、聴いてる人が自分を投影してるっていうのにも、「だよね」とは思えなかった。でも、少しずつそれを受け入れられるようになってきたんですよね、去年くらいから。僕が20歳くらいに考えていたことに対して、たくさんの人が「自分もそうや」って思う。であれば、その頃に書いた曲や、その頃のことを思って書いた曲でひとつアルバムを作ってみよう、と。「あの頃は~」みたいのって、絶対にイヤだったんですけどね。でも、今回はわりと思い出したりもしましたね。

──和歌山から東京に出てきて、高円寺に住んでたんですよね?

そうです。風呂なしアパートで。

──風呂なしの四畳半?

かろうじて5畳半でしたけどね。玄関がね、斜めに切れてるんですよ。これが“半”の部分なんだなって思ってましたけど(笑)。近所にコインシャワーがあって、100円で4分間お湯が出るんです。髪とか洗ってるときに4分過ぎちゃうと、泡まみれ(笑)。達人になると、バケツを持っていくんですよ。髪を洗ってるときにバケツにお湯をためて、洗い終ったらザパーン(と、バケツのお湯を頭にかけるマネ)っていう。

──バケツ1杯だと足りないんじゃないですか?

(髪が)短かったんですよ。髪切れって言われたから、バイト先で。東京に来たばっかりの頃って、ほんとにその日暮らしだったんですよ。僕、わりと中流の家庭で育ってて、しかも一人っ子やから、食うのにも困るなんて初めてだったんですね。やっとこさ日雇いの仕事を見つけたんですけど、「昼の休憩のときに髪を切ってこい」って言われて。1000円10分の床屋ってありますよね。

──きついっすね。ロックスターになろうとしている若者としては。

そうですよ! でも「切らなかったらそのまま帰っていい。その場合今日の給料はナシ」って言われて、泣く泣く床屋に行って。パッと鏡見たら、ギバちゃん(柳葉敏郎)みたいな頭になってたんですよ。

メジャーデビューアルバム「毛皮のマリーズ」 / 2010年4月21日発売 / 2500円(税込) / コロムビアミュージックエンタテインメント / COCP-36083

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CD収録曲
  1. ボニーとクライドは今夜も夢中
  2. DIG IT
  3. COWGIRL
  4. 悲しい男
  5. BABYDOLL
  6. バンドワゴン
  7. サンデーモーニング
  8. それすらできない
  9. 金がなけりゃ
  10. すてきなモリー
  11. 晩年
毛皮のマリーズ(けがわのまりーず)

志磨遼平(Vo)、越川和磨(G)、栗本ヒロコ(B)、富士山富士夫(Dr)による4人組ロックバンド。2003年に結成し、都内のライブハウスを中心に活動。2005年に発表した自主制作CD-R「毛皮のマリーズ」が話題を呼び、2006年9月にDECKRECから1stアルバム「戦争をしよう」をリリースする。その後も音源の発表を重ねつつ、ライブの動員も激増。コロムビアミュージックエンタテインメントと契約し、2010年4月21日にアルバム「毛皮のマリーズ」をリリース。