ナタリー PowerPush - KAMIJO

薔薇、フランス革命、ポール・モーリア…… ソロ処女作で示したアイデンティティ

2012年12月に活動休止したVersaillesのリーダーKAMIJOが、ソロデビューシングル「Louis ~艶血のラヴィアンローズ~」をリリースする。表題曲のビデオクリップは、KAMIJOが今の音楽性に目覚めたきっかけでもあるというMALICE MIZERのリーダーManaが出演したことでも話題になっている。薔薇をモチーフに耽美な世界観を貫く彼が、重要なソロ第1弾作品に込めたストーリーとは? インタビューはまずVersaillesの活動休止に関する話題から始まった。

取材・文 / 武市尚子

薔薇は常に自分の大きなモチーフ

──KAMIJOさんは今年の1月にソロデビューを発表され、今回リリースされる「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」がソロデビュー第1弾作品となるわけですが、まずは昨年12月のVersailles活動休止について聞かせてください。

KAMIJO

Versaillesは、薔薇をモチーフに活動していたバンドだったのですが、昨年の6月に5周年を迎えまして、それを記念して「ROSE」というシングルをリリースしたんです。自らのモチーフをタイトルとした作品を形にできたということで、1つの区切りになったということもありまして、この5周年を機に少し距離を置いた位置からVersaillesを見てみたいなと思い、活動休止という選択をしたんです。

──ソロデビュー1作目となる「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」も、Versaillesと同じく薔薇がモチーフとなっていますね。

はい。僕はVersailles以前からずっと薔薇をモチーフにした世界を描き続けてきました。実は僕、Versaillesを結成する前に、一度ソロで活動していくことを発表していたんです。しかし、不思議な運命といいますか、HIZAKIと出会ってしまって、どうしても彼と一緒に“薔薇”なバンドをやりたいという衝動に駆られてしまって。そして、そのとき僕はHIZAKIとバンドを組むことを選び、Versaillesを結成しました。それから6年。また再び、自分のレールの上に戻ってきたという感じなんです。なので、薔薇というのは常に自分の中の大きなモチーフなんです。

Mana様の出演で自分が目覚めたきっかけを表現したい

──今作「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」のビデオクリップには、MALICE MIZERのMana様が出演していますが、KAMIJOさんはMALICE MIZERとは古くからのお知り合いと聞きました。Mana様のモチーフは青い薔薇であり、やはり今のKAMIJOさんの世界感との色濃いつながりを感じます。KAMIJOさんが今の世界観に行き着くまでのルーツを伺ってもいいですか?

僕の音楽ルーツはポール・モーリアです。子供の頃からポール・モーリアが大好きでした。世間一般では「オリーブの首飾り」が有名だったりすると思うんですが、例えば布施明さんが「シバの女王」を歌っていらっしゃったり、あのイージーリスニングの世界をカバーする方も多くいて。ヨーロッパの哀愁漂うメロディって、歌詞が乗ると、とても素晴らしいモノになったりするんです。心が落ち着ける場所や、喫茶店なんかでかかっていたりすることが多いイージーリスニングなんですが、僕はそういう音楽を聴くと、なんてきれいな音楽なんだろう!って興奮してくるんです。母がエレクトーンの先生だったこともあって、子供の頃からそういう音楽が身近にあった影響もあると思いますね。ポール・モーリアはもちろん、リチャード・クレイダーマンもよく聴いていました。

──なるほど、イージーリスニングからなんですね。

はい。そことの共通点を深く感じたのがMALICE MIZERさんの音楽だったんです。MALICE MIZERさんの音楽性にとても惹かれ、そばで学ばせていただいていた時期がありましたが、これまでそれを自分から口にすることはなかったんです。やはりMALICE MIZERさんは偉大な先輩ですし、その先輩のお名前を使って自分が有名になりたいとか、そういうふうに思われるのがとても嫌だったので、あえて自分から口にすることは避けていたんです。敬意といいますか。

──それ、すごく素敵なことだと思います。今の一言からは、KAMIJOさんの哲学を感じますね。

僕は1994年からLAREINEというバンドを組んでいて、1999年に一度デビューもしているんですが、CDのブックレットのスペシャルサンクスの一番上には、普通ならばMALICE MIZERさんのお名前を書かなければいけないと思うんです。でもMALICE MIZERさんのお名前はあえて書いていないんです。書かないことこそが敬意だと感じていたので。そんな経緯もありつつ、今回「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」のビデオクリップにMana様に出演していただいたのは、やはり自分がこうして薔薇をモチーフに音楽を表現するようになったのはMALICE MIZERさんの存在、Mana様の存在あってのことだったので、Mana様に出演していただくことで、自分が目覚めたきっかけを表現したいと思ったんです。

“ifストーリー”を自分で作ってみたんです

──「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」は、弦を多く用いた実にクラシカルな要素の強い楽曲ですが、バンドで表現するときとソロで表現するときとの違いはどんなところにありましたか?

KAMIJO

僕はドラムもベースもギターもキーボードも全部できるので、特に制限はなかったですね。原曲の制作はすべて自分でやり、演奏は仲間のミュージシャンの方に助けていただきながら形にしていったという感じでした。

──アレンジ表記が“Atelier Temple”になっていますが、これは?

Atelier Templeはプロジェクト名で、Versaillesの頃からチームを組んでいる、僕の相棒のマニピュレーターの池田くんが今回も協力してくれたんです。曲は自分自身をトレースしていくような感覚で作っていきましたね。頭の中には、“Louis”という名前とともに明確なサウンドと世界観があったので、それを現実に存在させるための作業が作詞であり作曲であった、という感じです。“Louis”という名前は、ずっと使いたかったものだったんです。

──“Louis”とは?

“Louis”は、フランスの王様。ルイ16世は、よくフランス革命で名前が挙がりますが、そのフランス革命の中でタンプル塔に幽閉され謎に包まれた死を遂げたルイ17世こそが、今回のモチーフとなっているんです。僕が昔やっていたバンドのLAREINEという名前は、フランス語で女王という意味で、マリー・アントワネットを指すんですね。そしてVersaillesは、言わずと知れたベルサイユ宮殿を指すんですが、僕はそういうフランスの歴史がとても好きで、そこにまつわる名前とともに活動してきたこともあり、ソロも同じくそんなところからスタートしたいなと思ったんです。

──そんな意味が込められていたんですね。

そして今回は、ルイ17世をモチーフに、自分の中で歴史を塗り替えてみたくて、それを歌詞にしたのが「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」なんです。ルイ17世はタンプル塔に幽閉されて亡くなったとされているんですけど、もしかして、そこから逃げ出してどこかで生き延びていたのではないかという説が数多く存在するんですね。それを僕なりの視点で書いてみました。ルイ17世が塔から逃げ出してバンパイアと出会い、生き延びて別の人生を歩んでいたとしたら……という“ifストーリー”を自分で作ってみたんです。ビデオクリップでは自らをルイ17世とし、タンプル塔に閉じ込められているときにMana様に出会っていたら……と。そんなことを思い描きながら制作したんです。Mana様に目覚めさせてもらった自分の過去を、そこに重ねるように。

──現実とのリンクもそこにあるわけですね。

そうですね。具体的な設定としてそれを押し付けるようなことはしたくないのですが、観てくださる方たちに、いろいろと想像していただけたらうれしいなと思います。この先、いろんな音楽を描いていくことになると思うのですが、同じ人間から生み出されていくものなので、今までバンドでやってきた作品とどこかでつながっていくことになると思います。それも楽しみにしていただけたら。それらを聴き手である皆さんが、それぞれパズルのようにつなぎ合わせていっていただけたら面白いのではないかなと思いますね。

ニューシングル「Louis ~艶血のラヴィアンローズ~」 / 2013年8月28日発売 / Sherow Artist Society
初回限定盤 TypeA [CD+DVD] / 1890円 / SASCD-061
初回限定盤 TypeB [CD+DVD] / 1890円 / SASCD-062
通常盤 [CD] / 1260円 / SASCD-063
初回限定盤 TypeA / TypeB CD収録曲
  1. Louis ~艶血のラヴィアンローズ~
  2. Grazioso
初回限定盤 TypeA DVD収録内容
  1. Louis ~艶血のラヴィアンローズ~(Music Movie)
  2. Grazioso(Music Movie)
初回限定盤 TypeB DVD収録内容

スペシャルロングインタビュー / Music Movieメイキング / レコーディング風景 / 楽曲解説等

通常盤 CD収録内容
  1. Louis ~艶血のラヴィアンローズ~
  2. Grazioso
  3. 幻想トリアノン
  4. Louis ~艶血のラヴィアンローズ~(Instrumental)
  5. Grazioso(Instrumental)
  6. 幻想トリアノン(Instrumental)
KAMIJO(かみじょう)

1999年、ヴィジュアル系ロックバンドLAREINEのボーカリストとしてSME Recordsよりデビュー。その後2007年春にVersaillesを結成し、2009年にワーナーミュージック・ジャパンよりデビューした。Versaillesはデビュー作となるシングル「ASCENDEADMASTER」でオリコン週間ランキング8位を記録し、2012年12月にファンに惜しまれつつ活動休止。KAMIJOは在籍したバンドでほぼすべての作詞と大半の作曲を手がけており、劇伴制作でも才能を発揮している。2013年8月にシングル「Louis ~艶血のラヴィアンローズ~」で満を持してソロデビューを果たす。