ナタリー PowerPush - ももいろクローバー

ファン待望の初期楽曲集ついに登場 過去と現在をつなぐ「ラフスタイル」

得体の知れないパワーを感じて

──佐藤さんも途中まではいちお客さん……というかHMV渋谷のいちバイヤーとして(笑)、ももクロのパワーを感じていたわけですよね。

佐藤 アイドルがいろいろ来てるなーという中でももクロの存在を知って。調べると曲も変わってるし面白いなーと。すごくおしゃれなわけでもトラックが飛び抜けてカッコいいわけでもないんだけど、理由の分からない独特の魅力があったんですよね。そうこうしているうちにメジャーデビューして。でも「行くぜっ!怪盗少女」(2010年5月発売のメジャーデビューシングル)なんてHMV渋谷はイニシャル(初回入荷数)1枚だったんですよ(笑)。でもサンプル盤が届いていたので聴いてみたら、それまでのももクロとも違う得体の知れないパワーを感じて。これをドンと売り出すきっかけはないかなと思っているときに「MUSIC JAPAN」(NHK総合)のアイドル特集があって。

──有名なエピソードですよね。佐藤さんがあの番組で観た百田さんのえびぞりジャンプを指して「このジャンプがアイドル史を更新する」というキャッチを付けて、HMV渋谷で大きく展開したという。

佐藤 当初は「AKB48が盛り上がってるから、AKB48を中心に特集しよう」くらいの感じで、あの番組に出るアイドルをまとめて横並びの棚を作ろうとしてたんですよ。CD屋の仕事として。でも番組を観たらももクロが圧倒的すぎて(笑)。これはこの感動をもっとストレートに発信しなきゃいけないと思って、結果、非常に偏ったものになったんです(笑)。

左から佐藤守道、宮井晶

宮井 それで俺らが直接お店に行ったんだよね。「誰がやってんのコレ?」って(笑)。メンバー連れてって。

──そして佐藤さんは直後にスターダストへ(笑)。そのあたりの話はアルバム「バトル アンド ロマンス」発売時の特集でもお聞きしましたけど。

佐藤 ちょうど「ピンキージョーンズ」(2010年11月発売のメジャー2ndシングル)のツアーが始まった頃、9月のららぽーと柏の葉が最初の現場だったんじゃないかな(参照:ナタリー - ももクロ、アイドル戦国時代の天下統一を目指し全国行脚)。

──6人のバランスこそがももクロの得体の知れないパワーを生む原動力だと思っていたので、早見あかりさんの脱退には正直「ここで失速しちゃうかもしれないな」という懸念もあったんですよ。でも直後の「ももクロ試練の七番勝負」(2011年4月11~17日)で5人編成になったパフォーマンスを観て、それまでとはまた違ったエネルギーを感じて。

宮井 逆に大きなブレイクポイントだったよね。ホント今となってはだけど。

5年分の進化を表現した新しい「ラフスタイル」

──歴史をおさらいしたところで、今回の目玉とも言える、新たに録り下ろされた「ラフスタイル for ももいろクローバーZ」について詳しく聞かせてください。

佐藤 そもそもこのアルバムは新録を入れないという方針だったんですよ。でも制作を進めるうちに川上が「モリさん、もしなんだったら自分で録り直したいと思う曲を1曲やってもいいよ」って。じゃあ何をやるかって考えて、せっかくならももクロの始まりの曲をやり直そうと思ったんです。「あの空」はライブなんかでもあれだけ定着しているから、だとすると「MILKY WAY」か「ラフスタイル」だけど、「MILKY WAY」はすごくストレートな曲で、あれはあれで完成形だと思うので。「ラフスタイル」は今やるともしかしたらちょっと違う意味合いが出るんじゃないかなと。

──かなり大胆にバラードへとシフトしましたよね。

佐藤守道

佐藤 5年経った今なら同じ歌詞を歌っても深みが出ると思ったんですね。もともと原曲はマイナーキーのダンサブルなアレンジだったけど、今度はもっとアコースティックなアレンジはどうかなと。ゲンズブールの「メロディ・ネルソン」とかカエターノ・ヴェローゾのイメージが最初にあって、そのとき頭に浮かんだのが近藤研二さんの音だったんです。近藤さんには「Z女戦争」と「灰とダイヤモンド」をお願いしましたけど、けっこう思い切ったことを大胆にやってくれるんですよ。近藤さんにも原曲を聴いてもらって「アコースティックな感じで行きたいんですよ」って伝えたら「僕もそう思ってました」って。

──具体的にはどういうお願いを?

佐藤 単純に弦を入れるだけじゃなく、もう一歩踏み込んで色彩感のあるもの……木管とかチェレスタ、ハープを入れたいというのはこちらからお願いしました。あとキー設定やコードの話。「ちょっとコードを変えてもいいですか」って言われたんですけど、こちらもそうお願いしたかったんです。原曲はB♭マイナーで♭が5つぐらい付く調なんですが、全体のキーを半音上げてその上でメジャーキー、平行調のDメジャーをベースにしました。短調のものを長調にしつつ、さらに半音上げて。コード進行も歌詞に寄り添うよう自由に変えてくださいって伝えたら、近藤さんは面白い人で、2サビを長2度下に転調させて落ちサビのようにして3サビで元のキーに戻るという、最後のサビにカタルシスを与えるような変化を加えてくれたんです。

──コードに動きが出て歌詞のドラマ感がグッと増してますよね。歌い方の変化もあると思いますけど、より今の年齢に沿った変化だなと感じました。

佐藤 そうですね。まさに狙い通りのところに持っていけたと思います。

百田夏菜子は“作曲”する

──そして先日少し見学させてもらいましたが、歌録りも佐藤さんのディレクションで。佐藤さんメインでディレクションしたのは今回が初めてですよね。

佐藤 はい。普段は宮本さんだったりがやっている横に座ってるくらいなので。レコーディングのノウハウはあったんですけど、ボーカルのディレクションはまた別で、音楽の先生みたいなものなので。

宮井 いや、指示は的確だったんじゃないですか?

佐藤 レコーディングに関してはメンバーのほうがベテランですから(笑)。もう飲み込みは早いので、アレンジの意図を伝えつつ。

宮井晶

宮井 昔はアレンジの意図なんて伝えなかったからね(笑)。歌詞の意味なんかも把握してなかったんじゃないかな。

佐藤 それは彼女たちが大人になったからですよね。そういう話ができるようになったという。成長は「5TH DIMENSION」のときもすごく感じましたね。

──百田さんの歌入れで興味深かったのが、低いほうに転調した2サビのソロパートで、本当は裏声で歌う予定だったところをその場で判断して地声に変更しましたよね。結果的に大正解だったと思うんですよ。百田さんの人を引き込む声、「百田マジック」と呼べるような魔力があのパートにあるなと。

佐藤 ええ。元は仮歌を聴いたイメージから裏声で行こうとしてたんですけど、1回録ったときにもうちょっと何か力強さがほしいと思ったので。彼女もその場でいろいろ考えながら試してくれましたけど。

──「声が飛ばん!」って何度も試してましたよね(笑)。

佐藤 そうそう(笑)。最後の伸びが、もう一段「飛ぶ」んですよね。

──その場の判断も興味深かったし、自分なりの表現方法を体ごと動かしながら見つけている百田さんの姿にも驚きました。5年前から見てきた宮井さんからしたら、かなり感慨深いのではないでしょうか。

宮井 俺あの場でも言ったと思うけど、あの子は“作曲”するんですよ、勝手に。メロディ通りに歌わない。歌えないのかもしれないけど(笑)、そっちのほうが確実に素晴らしいものになるんです。このアルバムに入っている曲の多くは彼女の“作曲”を取り入れたものですよ。

佐藤 今はさらに進化していて、メロディをキチンと頭に入れてちゃんとこちらの意図を汲みつつも、自分なりの表現をぶつけてくるんですよね。

インディーズベストアルバム「入口のない出口」 / 2013年6月5日発売 / SDR
初回限定盤A [CD+Blu-ray] / 3990円 / SDMC-0105B
初回限定盤B [CD+DVD] / 3500円 / SDMC-0105D
通常盤 [CD] / 2800円 / SDMC-0105
収録曲
  1. あの空へ向かって
  2. MILKY WAY
  3. ラフスタイル
  4. ももいろパンチ
  5. だいすき!!
  6. Dream Wave
  7. Hello…goodbye
  8. 気分はSuper Girl
  9. 最強パレパレード(ももクロver.)
  10. 未来へススメ!
  11. ツヨクツヨク
  12. words of the mind -brandnew journey-
  13. Believe
  14. 走れ!
  15. きみゆき
  16. ラフスタイル for ももいろクローバーZ
  17. あの空へ向かって(Z ver.)
ももいろクローバー

ももいろクローバー

スターダストプロモーション所属タレント育成の場として、2008年5月17日に結成されたアイドルグループ。「週末ヒロイン」「いま、会えるアイドル」というキャッチフレーズのもと全国津々浦々でライブ活動を行い、2009年7月には1stシングル「ももいろパンチ」をリリース。この時期に百田夏菜子、早見あかり、佐々木彩夏、玉井詩織、有安杏果、高城れにの6人が揃う。同年11月に2ndシングル「未来へススメ!」を発表し、2010年5月にはシングル「行くぜっ!怪盗少女」でメジャーデビューを果たす。同年12月には初のホールワンマン「ももいろクリスマス in 日本青年館~脱皮:DAPPI~」を大成功に収めるも、2011年1月に早見あかりがグループを脱退することを発表。同年4月10日の東京・中野サンプラザ公演「4.10中野サンプラザ大会 ももクロ春の一大事~眩しさの中に君がいた~」が早見のラストステージとなり、ライブ終了直後に「ももいろクローバー」から「ももいろクローバーZ」へと改名した。