ナタリー PowerPush - 井上ジョー
力強い一歩を示す「風のごとく」 完全セルフ監修の制作プロセスを追う
曲作りは脳内で鳴ってる音をいかに再現するかという旅
──この曲に限らず、楽曲を1から10まですべて1人で制作しているジョーさんですが、ここからはそのプロセスについて教えてください。まず普段、曲はどんなきっかけで思いつくんですか?
本当にいろんなパターンがあって、最初にコンセプトを決めて、それに沿った歌詞・メロディっていう順で作るのもありますし……。一番シンプルなのは、シャワー浴びてるときや音楽に関係ないことをしてるときに聴こえてくるケースですね。もう完成された曲がスーって頭の中にフェードインしてくる。
──それはメロディも詞もアレンジもできてるものが?
そうなんです。そこからは、脳内で鳴ってる音をいかに再現するかっていう旅なんですよね。この音が聴こえなくなっちゃう前に早く形にしないとっていうイライラとワクワクが混ざり合いながらの作業。
──なるほど。
それから、あと3秒で寝れるって瞬間や大事な打ち合わせの最中にフェードインしてくることもあります。睡眠取るのかその曲取るのかどっち!? って欲と戦うことも。曲と引き換えに失わなきゃいけないものがなんかあるんでしょうね(笑)。
──じゃあシャワーを浴びてるときにパッと曲が思いついたとして、それから起こすアクションというのは?
もう即出ますよね、シャワー(笑)。ビッチョビチョのまま。で、歌詞が浮かんでたらとりあえずペンと紙を取り出します。そしてギリギリ自分で読めるぐらいのスピードで書いて、ギターを取って歌うんです。そこからアレンジを忠実に再現していくんですけど、ドラムは自宅にないのでケータイに「ブッチッブッ」ってビートを吹き込んでおいて、後日スタジオで。
──曲の土台は衝動的なスピードで瞬く間にできあがっていく感じですね。今までの曲もそんなふうにできたものが多いですか?
まぁ1stアルバムは計算したやつも半分ぐらいは入ってますかね。要するに、思いついた曲も3分丸々できてる状態じゃなくサビだけだったりするので、他のメロを後から意識的に作らなきゃいけないんですよね。そういう曲は計算と感覚の両方という感じで。
自分が聴いて感動すればそれが正解
──その計算と感覚、どちらも使って作れる人はなかなかいないと思います。さらにジョーさんの場合は作詞家、作曲家、アレンジャー、エンジニアとして多方面から曲を見ないといけないですよね。それぞれモードの使い分けをしているんですか?
面白いことに、曲を作り始めた当初は、アレンジの人がいるとかエンジニアの人がいるとか知らなかったんですよね。誰もがそういうの1人でやるもんなんだと思ってたんです。なのでモードのスイッチは自然に、全行程の流れがひとつにつながってるような気持ちでやってます。だから曲はできたけど歌詞が出来てないとすっごいムズムズしますよ。寝れないとまではいかないけど、かなり浅い眠りになります。
──ではいろいろな段階がある中で、好きで得意としてる作業、またちょっと苦手だなという作業があれば教えていただけますか。
一番楽しいのはやっぱり作曲してるときですね。歌メロと基本的なコードみたいに、ラフなスケッチを書くのがすごい好き。で、サビの歌詞ぐらいだったらOKなんですけど、苦手なのはその残りの歌詞! 手を抜いてしょぼい詞になるのもすごい嫌なので、そこは宿題みたいな気持ちでやってますね。それから、嫌いではないんだけど、アレンジに関してはすんなりいくときもあれば何やってもうまくいかないなーっていうときもありますよね。
──そういうとき、自分の中にはアレンジの正解が見えてるわけですか?
あっ、そうですね、自分が聴いて感動すればそれが正解です。やっぱりサビに入ったときに自分が感動できないと。
──なるほど。じゃあ同様にプレイヤーとして得意なパート・苦手なパートは?
なんだろう……ドラムが好きですかね、演奏するのもフレーズ考えるのも。これといって嫌いなのはないですけど、ピアノはやっぱりちょっと気合が必要かな。鍵盤がいろいろあるだけにここは正解を弾かなきゃな……って悩み過ぎると結局ピアノ要らねえんじゃねーか? ってなったり(笑)。
──あはは(笑)。
あぁ、あと弾いてるときにすごい気持ちいいのはベース。全体としていいパフォーマンスを作るための影の力持ちという感じがあって。やっぱりギターのほうが聴こえるわけであって、そこでちょっと気が楽になる部分もあるんです。
──前に出ない影の部分にも魅力を感じると。
楽器1つひとつ、今どのコードが鳴ってるかちゃんとわかるものが好きなんでしょうね。歌ばっかり大きく聴こえてオケが薄めな曲だと、ベースでどう弾いてるのかすげえ聴きてえ! って気持ち悪くなっちゃうんですよ。やっぱりひとつの曲としてその芸術を楽しみたいですね。歌だけを重点的に聴くんじゃなくて、その歌も楽器っていうか。
井上ジョー(いのうえじょー)
1985年生まれ、アメリカ・ロサンゼルス出身。ソングライティングに加え、楽器やアレンジなどすべて自ら手掛がけるマルチアーティスト。日本人の両親のもとで、日本のポップカルチャーとアメリカの音楽シーンに触れて多感な時期を過ごす。学生時代にバンドやマーチングバンドなどを経験した後、オリジナル曲の制作を開始。2006年に初の日本長期滞在を経験したことを機に、日米を往復しながらの音楽活動を展開する。2007年9月に1st EP「IN A WAY」をリリース。2008年にはシングル「CLOSER」がアニメ「NARUTO-ナルト-疾風伝」の主題歌に起用され話題に。2009年4月に1stフルアルバム「ME! ME! ME!」をリリースする。カラフルで新感覚のミクスチャーサウンドがコアな音楽ファンからも評価されている。