ナタリー PowerPush - 井上ジョー
力強い一歩を示す「風のごとく」 完全セルフ監修の制作プロセスを追う
ポップな自分と変態的な自分の2人がいる
──自分の世界に入り込んで曲を作るシンガーソングライターの方は、逆に入り込みすぎて他を見失うときもあるかもしれません。そんなときリスナーのことを思い浮かべて何かを考慮したりすることはあります?
聴いてくれる人がいての活動だと思うんで常にそれは考えてます。それに、聴く人のことを何も考えず自分が本当にやりたいことだけをワーッとやったときのカオス感が、まだちょっと怖いのかもしれないですね。そういう部分もいずれ出していくとは思うんですけど。
──リスナーの望むものとジョーさんが本当にやりたいことに差があるということですか?
いや、すごくポップなものが好きな自分と、すごく変態的な音楽が好きな自分の2人がいるんですよね。その変態的な面を出すのはまだセーブしてるところがあって、それを作ったときに「やっちゃった」って思いたくないのかもしれない。今やってるポップなメロディも、楽器ひとつひとつの音質も大事にしたいので、そこのリミッターを全部外したときにぐちゃぐちゃになっちゃったらどうしよう、みたいな(笑)。
──いつ変貌していくかは、ご自分でもまだ見えないところですかね。
でも、「風のごとく」は1stで恐れていたことができるようになったっていう証でもあるんですよ。自分が普段出さないようなシャウト気味の声を使ったり、サビの後もうひとつサビみたいなフレーズを入れてみたり。昔はそういうことをしようとも思わなかった。ここに踏み出すにはやっぱり、この1年間の経験がなければ無理だったと思います。
いい意味で1枚目より重いテーマに挑戦
──となると、次回作ではさらに広く深い世界を期待できそうですね。
たぶん自分が本当に求めている音にどんどん近づいていくと思います。今回のシングルによってそれが感じられて、ちょっと安心できたところがありましたね。
──そうなんですか。
具体的に言うと今アルバム制作をしてまして、「ME! ME! ME!」に比べてやはりロック寄りです。ストレートなものが多いというか、今までいろんな音楽を出してきたけど今度はロックな井上ジョーを見せます。歌詞も、眠れない夜に自分を振り返ったことや大切な人に幸せとか不幸があったことなど、プライベートからインスパイアされた部分が大きくて、いい意味で1枚目より重いテーマに挑戦してますよ。
井上ジョー(いのうえじょー)
1985年生まれ、アメリカ・ロサンゼルス出身。ソングライティングに加え、楽器やアレンジなどすべて自ら手掛がけるマルチアーティスト。日本人の両親のもとで、日本のポップカルチャーとアメリカの音楽シーンに触れて多感な時期を過ごす。学生時代にバンドやマーチングバンドなどを経験した後、オリジナル曲の制作を開始。2006年に初の日本長期滞在を経験したことを機に、日米を往復しながらの音楽活動を展開する。2007年9月に1st EP「IN A WAY」をリリース。2008年にはシングル「CLOSER」がアニメ「NARUTO-ナルト-疾風伝」の主題歌に起用され話題に。2009年4月に1stフルアルバム「ME! ME! ME!」をリリースする。カラフルで新感覚のミクスチャーサウンドがコアな音楽ファンからも評価されている。