ナタリー PowerPush - 星野源
宇多丸と語り明かす恥の美学
星野源が最新シングル「フィルム」をリリースした。これを記念してナタリーでは、星野が敬愛する宇多丸(RHYMESTER)との対談を企画。2人の青春時代のエピソードを中心に、星野の新曲「フィルム」、ゾンビ映画、ラジオ、アーティスト論など、さまざまな話題について語ってもらった。
取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 中西求
趣味が合いそうだなって思いました
──星野さんと宇多丸さんがじっくりお話するのは、意外にも今回が初ということで。
宇多丸 はい。星野さんは僕のラジオ「ウィークエンド・シャッフル(タマフル)」を聴いていただいてるんですよね? どんなきっかけで興味を持っていただいたのかなーと思って。
星野源 2年くらい前、Boseさん(スチャダラパー)の家に遊びに行かせてもらったとき、「シネマハスラー」の本があったんですよ。まだ発売されたばかりの時期で。それをなんとなく読み始めたら、すごく面白くてBoseさんそっちのけで読みふけっちゃって(笑)。すぐ買いに走りました。それでラジオも聴き始めたんです。
宇多丸 「Boseくん、ありがとう」って感じですね。僕も「フィルム」のビデオクリップを拝見したんですけど、エドガー・ライト監督の「ショーン・オブ・ザ・デッド」みたいな感じで、趣味が合いそうだなって思いました。
星野 本当ですか!? ありがとうございます。設定としては「ゾンビが出てきて人類は一度危機を迎えるんだけど、時間が経って撃退法もわかって、でも完全排除まではできず、ゾンビに慣れてちょっと大丈夫な感じになってる」くらいの世界観なんです。笑えるんだけど、油断してると危ないっていう。
宇多丸 全然大丈夫じゃないんだけど、大丈夫なことにしないと生きていけない、っていう世界観だよね。
「プロが集まってすごいことをやる」という感じが好き
──星野さんは宇多丸さんにどんな印象を持っていましたか?
星野 宇多丸さんって、しっかりと自分のフィルターを通して発言されてると思うんです。「俺が好きなのはこれだ」っていう価値基準があって、そこには嘘がないというか、無責任なことは言わない。それはもちろん「タマフル」での喋りやRHYMESTERの歌詞にも表れてると思います。あと、ラジオを聴いてて思うのは、一匹狼な感じがするところです。そこが、一番好きなところですね。
宇多丸 本当ですか!? でも、僕は1人で物を考えるのには限界があると思ってるんです。だから物を作るのは、チームでやったほうがいい。理想は「プロが集まってすごいことをやる」という感じ。お互いは住んでる家も知らない、みたいな(笑)。
星野 僕は慣れ合いが苦手なので、そういう感覚はすごくわかります。ラジオでの宇多丸さんはチームを大事にしつつも、「ひとり」な感じがするんです。馴れ合いを感じない。そういう意味での一匹狼ですね。僕は昔からラジオが大好きなので、「タマフル」での一人喋りを聴いてると、すごく信頼できる人だなって思えます。
宇多丸 本当にラジオっ子なんですね。
星野 高校の頃、通学に2時間かかったので、カセットテープに録ったコサキンのラジオ「コサキンDEワァオ!」をずっと聴いてました。「タマフル」つながりだと、この業界で「コサキン」のギャグ「ケレル!」のことを知ってた初めての人が、しまおまほさんでしたよ(笑)。「知ってるんだー!?」みたいな。
宇多丸 「ケレル」って、(ライナー・ヴェルナー・)ファスビンダーが監督したゲイの映画ですか?
星野 そうです!
宇多丸 すごいマニアックなギャグですね! 元ネタはわかるけど、「コサキン」ってそんなギャグをやってたんだ……。
星野源(ほしのげん)
1981年1月28日、埼玉県生まれ。シンガーソングライターであり、俳優。代表的な出演作はテレビドラマ「11人もいる!」、「ゲゲゲの女房」など。2000年には自身が中心となりインストバンドSAKEROCKを結成。2005年に自主制作CD-Rで初のソロ作品「ばかのうた」を制作し、2007年にはこの作品をベースにしたCDフォトブック「ばらばら」を発売。2010年に1stアルバム「ばかのうた」をリリース。翌2011年には2ndフルアルバム「エピソード」を、2012年には2月8日にシングル「フィルム」をリリースした。J-WAVE「RADIPEDIA」では水曜日のナビゲーターを担当。
宇多丸(うたまる)
1969年5月22日、東京都生まれ。RHYMESTERのラッパーとして、日本のヒップホップシーン黎明期から活躍しており、「B-BOYイズム」「リスペクト」「肉体関係 part 2 逆 featuring クレイジーケンバンド」「ONCE AGAIN」など多数の代表曲を発表している。さらに2007年4月からは、自身のラジオ番組「TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」をスタート。2009年6月に同番組で、放送界で最も栄誉ある賞と言われる「第46回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」を受賞した。ほかにもクラブDJや映画評論家、アイドル評論家としての顔も持つ。