ナタリー PowerPush - 堀江由衣
ほっちゃん伝説を徹底検証 1万2000字インタビュー
「PRESENTER」はアニメの世界に思い切り寄せた曲
──それでは新曲「PRESENTER」についてお訊きします。この曲は堀江さんが声優として出演しているアニメ「DOG DAYS」のエンディングテーマとして4月よりオンエアされていますが、前作「インモラリスト」がかなりトリッキーな楽曲だった分、すごくポップに聴こえますね。
今回はまず最初に「『DOG DAYS』の世界に思い切り寄せたい」という話をさせていただきました。「DOG DAYS」を観たあとに聴いて「ああ、このことを歌っているんだ」って全部わかるような感じにしたいです、って。ある意味すごく王道な、聴きやすい曲になったかなと思ってます。
──アニメの脚本から意識しつつ?
そうです。事前にシナリオを読ませていただいて、世界観がわかった上で作った曲です。これまでにも作品ありきの曲はいっぱい歌わせてもらいましたけど、「PRESENTER」に関しては今まで以上にアニメの世界とリンクさせたくて。「DOG DAYS」はとても爽やかなファンタジー作品で、戦闘シーンもスポーツ感覚というか、主人公の男の子がスピーディにポンポンと軽快に戦うんです。その疾走感をとにかく入れたいです、というお話を最初にしましたね。
──アニメのテーマソングであることが前提である場合、そうやって企画の段階から意見を出し合うことはこれまでにもあったんですか。
いや、それは最近ですね。アニメのテーマソングの場合、わりと早い段階から監督さんの意向で方向性が決まっているものを歌わせていただくことが実は多いんです。でも「バニラソルト」(2008年10月発売。アニメ「とらドラ!」エンディングテーマ)くらいの頃から、ちょっとずつ事前に意見を聞いていただけるようになってきました。「PRESENTER」では「思いっきり寄せませんか」っていう案だけ出させていただいて。
──普通は監督さんやスタッフが「アニメの世界観に寄せたものを作りたい」って言って、歌い手さんが「いや、でも私の歌は私の歌だから」って言うように思いますけど。
ふふふふ、逆ですよね(笑)。私はやっぱり作品の歌は作品に合ってたほうがいいなって思うので。
──曲ごとにガラリと世界観が変わるのは面白いですよね。例えばギターバンドだったら、どんなに曲の印象が違ってもあくまで「ギターバンドのサウンド」ですけど、前作「インモラリスト」と今回の「PRESENTER」とではまったく違う。
そうですよね。あんまり良い言い方じゃないのかもしれないんですけど、私はせっかく作詞も作曲もしてないので、どんどんいろんな要素を入れたほうがいいと思うんです。私自身が飽きてきちゃうのもありますし、私が飽きちゃうんだったら聞いてくださる方はもっと飽きちゃうだろうなと。当然私の好みが入るから似てしまう部分はあるかもしれないですけど「できるだけ新しい風が入れられたらいいね」というのはいつもディレクターさんと話しています。
──曲ごとの世界を演じるような感覚だと思うんですが、それが自分とうまく噛み合わないということはないですか?
それは、声優として役を演じるときも一緒で、自分と共通点がないなーという役でも、それを演じる楽しさはあります。演技をするときは着ぐるみに入るみたいなイメージでいるんですけど、最初はちょっとブカブカで扱いづらくても、回を重ねるごとにちょっとずつその扱い方や、そのキャラクターなりの動きなり表現の仕方がわかってくる、みたいな感覚があるんです。曲のほうも歌ってるうちにだんだんなじんできたり、レコーディングとライブで歌の意味合いが違ってきたりとか。特に私のライブはストーリー仕立てにしてしまうので、ポイントによって曲の印象が大きく違ってくるんです。
“声優アーティスト”の特殊性
──曲の世界観と堀江さん自身のバランスはどういうことになっているんでしょうか。例えば「PRESENTER」の場合、これを歌っている堀江さんと普段の堀江さんは、どのぐらい同じでどのぐらい違いますか?
うーん、まず普段はこういう格好をしないです(笑)。でも難しいですねー。違わない気もすれば、ずいぶん違う気もしますし。「PRESENTER」の場合は、私が演じているヒロインのミルヒちゃんの視点も入ってくるので……。
──あー、演じる役も入ってくるからややこしいですね。かと言って、キャラクターソングでもないという。
そうですね。そのミルヒちゃんという役を踏まえたうえでの「DOG DAYS」の世界とか、主人公のシンクとミルヒをちょっと客観的に見てるような、そういうイメージで今回は歌わせていただきました。
──えらく難しいことをやってますね、それ。
うふふふふ、言われてみればそうですね。職人さんの世界に近いのかも。声優のお仕事は、さっき話したマイクさばきもそうですし、アニメのパクパクに合わせるとか、職人さん的な技術がたくさん要る世界だと思うので。その中で、役の感情に自分なりの味付けを乗せるって、みんなすごいことやってるなーと思って見てるんですけど。
──いやいや、堀江さんも最前線でやってますよね(笑)。
やってますけど(笑)、ちょっとぼんやりしてると置いてかれそうだなーみたいな。
──後輩たちを見てると、自分が戸惑ってた頃の姿を見るような気分になりませんか。
歳の離れてる子も多いから……えーと、7歳ぐらいの子だと思うんですけど(笑)、「何かできることがあったらしてあげたいな」といつも思ってはいるんですけど、お芝居を見たら「あっ、もう教えることは何もない」って。ホントにビックリするぐらいみんなしっかりしてて「私の右往左往はなんだったんだろう?」みたいな。きっと心の中ではアワアワしてることもあると思うんですよね。私も新人の頃、自分ではワーってなってるのに「しっかりしてるね」って言われたことがあったりしたので。
──堀江さんたちや少し上の世代の人たちが「声優アーティスト」としての基盤を試行錯誤しながら作ったから、新人の皆さんがスムーズに入っていけるというのはあると思いますよ。
そうなんですかねえ。だったらもっと崇めたてまつられてもいいですよね、私たち(笑)。そんな感じも全然ないんですけど(笑)。でもね、やっぱり「見てました」と言ってもらえる機会が多くて、それはちょっとうれしい半面恥ずかしかったりもして。「あんま良くないお手本だからねー」みたいなことを一応言っておくんですけど。私はホントにずっと自分に自信がなくて、堂々とマイク前でお芝居してる人を見ると「いいなぁ」とか「いつになったらああなれるんだろう」っていまだに思っちゃうんです。それは良くないなーと思うんですけど。
──「こんなに実績があるのに?」ってみんな思いますよ。
「結構出してもらってるわりにうまくなってないな」ってみんな思ってるんじゃないかなっていつもドキドキしてるんですけど。でも、いろんな役をやらせてもらえるってホントに幸せなことだと思ってるので、できるだけお役に立ちたいと思いながらやってます(笑)。ふふふふ。
CD収録曲
- インモラリスト
[作詞・作曲:清竜人] - True truly love
- HOLIDAY
- インモラリスト (off vocal ver.)
- True truly love (off vocal ver.)
- HOLIDAY (off vocal ver.)
初回限定盤DVD収録内容
- 「インモラリスト」MUSIC CLIP
堀江由衣(ほりえゆい)
東京都出身の女性歌手/声優。声優としてのキャリアをスタートさせた後、1998年に歌手デビュー。アニメやゲームのキャラクターソングも数多く手がけており、絶大な人気を得ている。現在までに“永遠の少女”然とした自身のキャラクターと重なるオリジナル音楽作品を、コンスタンスに発表している。