音楽ナタリー PowerPush - 花澤香菜

花澤×やくしまる、ポップでストレンジな世界の裏側

やくしまるえつことのレコーディング

──レコーディングではどんな感じだったんですか?

やくしまるさんに最初にきちんとお会いしたのが「こきゅうとす」のレコーディングのときだったんですけど、特に説明とか話し合いもせずに「まずは歌ってみよっか」と。デモはやくしまるさんが歌われていたので、もらったときはニヤニヤしちゃったんですけど(笑)、やくしまるさんの歌う感じを受けつつ歌ってみました。途中でやくしまるさんに「もう少し遠くへ届ける気持ちで声を出してみようか」とディレクションをいただいて。そこからは早くて、レコーディングはあっという間に終わっちゃいましたね。ディレクションはトークバックじゃなくてブースの中に直接来てくださって、ピアノを弾いていただきながら確認したり、ペンを持って書いてくださったり、近い距離でやりとりできました。

──ほかにはどんなやりとりを?

花澤香菜

「ここはじゃあ、悪魔のささやきっぽく」とか(笑)。「ノートの隅に~」で小声になるところですね。本当に魔界に引きずり込もうとしてやってたら「もうちょっと余裕のある感じで」って言われましたけど(笑)。あと「エロイムエッサイム」を「エロヒムエッサイム」って歌ってみて、とか。やってみたらすごくやくしまるさん感が出て驚きました。

──「石灰」「いっぱい」「世界」「絶対」の、音として心地いい韻の踏み方はやくしまるさんらしいですよね。意味だけでなく記号としての言葉にもこだわっている感じがあって。

かわいいんですよねー……。「せっかい」「せーかい」って、伸ばしの棒と小さい「っ」だけで、なんでこんなにかわいいんだろう。そこもかなりこだわられてましたね。

──ちなみに花澤さんは先ほどから「こ↑きゅうと↓す」と発音されていますけど、「こきゅう↑とす↓」ではないんですね。

なんか自然とこう呼んでましたね。意味は聴く人がそれぞれの気持ちで受け取ってくれたらいいのかなって。

きれいな山の中で1人遊び

──やくしまるさんが監督した「こきゅうとす」のPVもすごく面白かったです。リップシンクをするのかと思ったら、息継ぎの呼吸だけ合わせているという(笑)。

あははは(笑)。このミュージックビデオ、私はなんの予備知識もなく、きれいな山の中に連れられていって(笑)。あとから知ったのは、やくしまるさんが私の無意識な部分を撮るために意図的に内容を知らせなかったようで、呼吸だけのところをすごい長回しで撮ってたり、「石を積んでは崩してください」とか。木の枝をたくさん渡されてぽきぽき折り続けるシーンとか(笑)。

──よく知る故郷の田舎道のような、この世のどこでもない光景のような、不思議な現実感、非現実感がありますよね。

そうですね。カメラは遠いところから撮っていて、基本的に私1人ぼっちなんですよ。動作の指示を受けて撮り始めてからは長回しなことが多かったので、カメラを意識することなく、1人でずーっと遊んでいて。「ボールを投げる」っていうシーンでは、あんなに転がすつもりじゃなくて、ちょっと跳ねさせたらコロコロ転がっちゃって、どうしようかなあって思っていたらやくしまるさんがカメラの後ろから「うん、そのまま……」って(笑)。

──撮影を担当した写真家の新津保建秀さんも、独特な空気をとらえる方だから。

いやあ、やくしまるさんと新津保さんのコンビネーションも素敵でしたね。2人だけの世界が存在しているみたいで。新津保さんも面白い方で、ジャケット写真を撮ってるときも「あ、いいよ。そこ動かないで。はーい」って、お医者さんみたいに(笑)。レントゲン撮られてるような感じでした。

のほほんホラーな「アブラカタブラ片思い」

──同じくやくしまるさんプロデュースのカップリング曲「アブラカタブラ片思い」ですけど、すごくのほほんとした曲だと思ったら……。

うふふふふ(笑)。最初は私ものほほんと歌ってたんですけど、やくしまるさんから真相を聞いて……。実は「好きな男の子の家に勝手に侵入して勝手に手料理を作っている女の子の歌」という設定なんです。それを聞いてからちょっと歌い方が変わりました。

──好きな男の子の帰りを待ってる健気な女の子の歌として十分楽しめる曲ではあるんですけど、設定の話を聞いちゃうと、もうホラーにしか聞こえない。

花澤香菜

自分の声でもこんなに怖く聞こえるんだなあって思いました。リミックスバージョンは逆に男の子の視点をイメージしてるから、より怖さが引き立ってます(笑)。でも、真相を知ると男の人は怖いかもしれないけど、女子は意外と共感できると思うんですよね。こんな気持ちになるときもあるよね、みたいな(笑)。

──この曲は「こきゅうとす」を作ったあとにできたんですか?

はい。「こきゅうとす」のレコーディングのあとにゆっくりお茶を飲みながらお話する機会があって。いろんなお話をして、そのあとで作ってもらいました。

──だとすると、花澤さん自身の印象や実像などをより深く知った上で作ったということですよね。その結果出てきたのがこのホラー設定というのは……。

あはははは(笑)。

──会話から本質を見抜いたのか、それとも役者としてこういう設定を演じてほしかったのか。

どうなんでしょうねえ。お話してるときはひたすら「花澤さんってちゃんとしてるよね」って言われてました(笑)。

──花澤さんの音楽のポイントである“声”の存在感についても、この曲では細かいこだわりを感じました。

そうですね。歌だけじゃなく、セリフとか、やくしまるさんが自分のキッチンで録ってくださったという音とか、いろんな要素が集合して成り立ってるんです。セリフはデモにも入ってたんですが、追加でやくしまるさんが当日に鉛筆でパーッと書いてくださって、オケを流しながら「好きに読んでみて」みたいな感じで。そうして録ったものを曲中のいろんな場所に配置してくれているようです。手書きの文字もすごくかわいかったです(笑)。

ニューシングル「こきゅうとす」 / 2014年12月24日発売 / アニプレックス
初回限定盤 [CD+DVD] 1728円 / SVWC-70041~2
通常盤 [CD] 1296円 / SVWC-70043
CD収録曲
  1. こきゅうとす
  2. アブラカタブラ片思い
  3. /こきゅうとす【天国】remixed by itoken
  4. /アブラカタブラ片思い【魔女】remixed by molt beats
  5. こきゅうとす(Instrumental)
  6. アブラカタブラ片思い(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
  • こきゅうとす(Music clip)
花澤香菜(ハナザワカナ)
花澤香菜

1989年2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2013年2月20日には1stフルアルバム「claire」を発表し、同年3月には大阪・NHK大阪ホール、東京・渋谷公会堂にて初のワンマンライブを行い、いずれも大成功に収めた。同年12月に発売された5thシングル「恋する惑星」に続き、2014年2月には25曲入りの2枚組アルバム「25」を発表。4月からは4都市を回る初の全国ツアー「花澤香菜 live 2014 "25"」を行い成功に収めた。同年10月にはSTUDIO APARTMENTをサウンドプロデューサーに迎えた通算6枚目のシングル「ほほ笑みモード」、12月にはやくしまるえつことタッグを組んだ7枚目のシングル「こきゅうとす」をリリース。2015年1月には主演作品「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス」が公開される。