フラワーカンパニーズ × 福本伸行|謳歌できなかった青春を歌い 転がり続けた48年

「バカは生きなきゃ治らない」

マエカワ 「黒沢」はどうですか? かなり成り行きで進んでいるところもあるような気がするんですけど。

鈴木 俺もそう思った。

福本 確かに「黒沢」にはそういうところがありますね。連載を始めた頃は1、2話で1つのエピソードを完結させてたんだけど、しばらくするとダラダラと続くようになってきて。仕事がすごく忙しくなってきて、余裕がなくなって、ちゃんとしたオチを、考えられなくなったんです。

鈴木 え、そうなんですか?(笑)

福本伸行

福本 そう(笑)。オチを考えられないから「しょうがない、このまま続けよう」って。

マエカワ それが面白さにつながってるんでしょうね。話がどんどん盛り上がって。

福本 もともと黒沢は「平成の宮本武蔵」というテーマで始めたんです。どうしようもない男がケンカで勝っていって、名声が上がっていくっていう。でも、描いてるうちにほかの要素が膨らんでしまって、別の話になってしまった、別のテーマになってしまった……というか。その流れで、「新・黒沢」の中には、自分でも気に入っているセリフがあるんです。

鈴木 何ですか?

福本 黒沢が大ケガをして、仮死状態のまま天国にいるシーンで。彼は「ここには女がいない。もう1回生きたい」と思ってこの世に戻ってくるんですけど、そのときに天国にいる人が「しょうがない。バカは生きなきゃ治らない」って言うんです。よく「バカは死ななきゃ治らない」と言いますけど、あの世が、基本の世界で、その上で、この世を見たら、多分「生きる」っていうのは、とても不確定で恐ろしいことなんじゃないか……と思うんです。でも、チャレンジしたい気持ちをおさえられなくて、この世に来る。やってみなきゃわからない……と思って。

マエカワ そうですね。僕も特に最近は「やってみないとわからない」と思うようになりました。自分たちでレーベルを始めたのもそうなんです(参照:鮮度の高い楽曲で人生のヒット曲をめざします!フラカン自主レーベル立ち上げ)。それがいいか悪いかはわからないけど、とにかくやってみて、違ってたらそのときに考えればいいっていう。そうしないと進めないですからね。

福本 それは正しいと思います。「人生Roll On」で「未来は怖いけど 誰にも見えないよ」と歌われてますけど、本当にそうですからね。誰にもわかるわけないんだから、そのときにいいと思ったことをやるしかない。

ずっと軸がブレてるんです

福本 フラカンの歌には人生のいろんなことが、混ざってるんですよね。「とにかくやるしかない」という歌もあれば、「まだ夢はあるんだから、がんばろう」とか「いまの暮らしを楽しもう」もある。そのさじ加減が絶妙だし、今回はそれがさらによくなってる。アルバムの出来に関しては、お二人も自信があるんじゃないですか?

鈴木 それはわからないんですよね、自分では。

グレートマエカワ(B)

マエカワ 鈴木は曲を書いてるから、余計にわからないと思います。ただ、4人だけで作ったという達成感……まだ何も達成してないですけど……はあるかな。

鈴木 それくらいだよね。アルバムに対する自信なんて、(コーヒー用のマドラーを持って)これくらいか細いものなんです。「深夜高速」もそうだったんですよ。聴いてくれた人が「よかった」と言ってくれて初めて「そうなんだな」と思えると言うか。そこは聴いてくれた人の判断に委ねたいし、その意見に左右されてるところも大きいです。

マエカワ そうだね。

鈴木 そんなに人の意見に左右されるんだったら、最初から聴いてくれる人に望まれる曲を狙って書けばいいじゃないかと言う人もいると思うんだけど、それはできないというか、まったくやるつもりがなくて。あくまでも自分の歌いたいことをドン!と歌いたいんです。かと言って「周りがどう言おうが関係ない」とも思えない(笑)。そういう意味では、ずっとブレてるんですよ。「軸がブレないんですよね」とかよく言われるんだけど、自分としては軸があるのかどうかもわからない。

マエカワ ブレやすいと思いますよ、鈴木もバンド全体も。

福本 俺も「まったくブレてない」という印象でしたね。太い軸がドンとあるバンドだなと思っているので。

マエカワ こっちはブレてるつもりなんだけど、外から見るとそんなに変わってないのかも(笑)。

福本 それは「どんなことをやってもフラカンの歌になる」ということだし、ミュージシャンの王道ですよね。すごいミュージシャンというのは、みんなそうじゃないですか。さっき話に出た拓郎、陽水もそうだし、桑田佳祐さんもそう。桑田さんなんてありとあらゆる音楽に手を出しているけど、何を歌っても桑田さんの音楽になるでしょ?

マエカワ 確かにそうですね。

福本 つまり本物のミュージシャンというのは、変わりようがないんです。たとえば鈴木さんが「新しい体験をして、新しい曲を作る……」と言って砂漠を歩いてきたとする。で……帰ってきて砂漠の歌を作ったとしても「うん、やっぱりフラカンだな」って。

マエカワ なりそうですね(笑)。

鈴木 ははははは(笑)。でも、そうでしょうね。

福本 そうでしょ?(笑) だからフラカンは今のままでいいんだと思いますよ。

左から鈴木圭介(Vo)、福本伸行、グレートマエカワ(B)。
フラワーカンパニーズ「ROLL ON 48」
2017年9月6日発売 / チキン・スキン・レコード
フラワーカンパニーズ「ROLL ON 48」

[CD]
3000円 / XQNG-1001

Amazon.co.jp

収録曲
  1. ピースフル
  2. 人生Roll On
  3. ハイエース
  4. てのひら
  5. NO YOUNG
  6. 花のようでした
  7. HAPPY!
  8. あまくない
  9. キャンバス
  10. 最後にゃなんとかなるだろう
  11. あなたはだぁれ?
フラワーカンパニーズ
フラワーカンパニーズ
1989年4月に鈴木圭介(Vo)、グレートマエカワ(B)、竹安堅一(G)、ミスター小西(Dr)の4人により名古屋で結成されたロックバンド。地元・名古屋を拠点とした精力的なライブ活動を経て、1994年に上京。1995年にアルバム「フラカンのフェイクでいこう」でメジャーデビューを果たす。以後、2000年までに6枚のフルアルバム、1枚のミニアルバム、12枚のシングルを発表。翌2001年にメジャーレーベルを離れ、活動の場をインディーズに移す。その後も「発熱の男」「東京タワー」「世田谷夜明け前」「脳内百景」といった名作を連発。特に2004年に発表されたシングル「深夜高速」は、ファンのみならず多くのロックファンから愛され続けている。2008年11月、7年8カ月ぶりにメジャー復帰。バンド結成20周年を迎えた2009年には「深夜高速」をさまざまなアーティストがカバーしたコンピレーションアルバム「深夜高速 -生きててよかったの集い-」のリリースや、11年ぶりの日比谷野外大音楽堂ワンマンライブなどで注目を集めた。2010年1月には結成20周年を記念した初のオールタイムベストアルバム「フラカン入門」を発表。同年3月発売のシングル「元少年の歌」は映画「誘拐ラプソディー」の主題歌に起用され話題となった。その後2013年に「ハッピーエンド」、2015年に「Stayin' Alive」とオリジナルアルバムをリリース。同年12月19日、結成26年目にして自身初となる日本武道館公演「フラカンの日本武道館 ~生きててよかった、そんな夜はココだ!~」を開催。当日券含めて完売、大成功を収めた。2017年6月に自主レーベル「チキン・スキン・レコード」を立ち上げると、9月にレーベル第1弾作品となるアルバム「ROLL ON 48」を発表した。
福本伸行(フクモトノブユキ)
1958年12月10日神奈川県生まれ。1979年月刊少年チャンピオン(秋田書店)にて「よろしく純情大将」でデビュー。1982年に投稿作「ワニの初恋」で第9回ちばてつや賞大賞を受賞、翌年も大賞を受賞した。1989年近代麻雀ゴールド(竹書房)にて「天」を連載開始。以降、1992年にアクションピザッツ(双葉社)で「銀と金」、近代麻雀(竹書房)では「アカギ~闇に降り立った天才~」を開始した。ギャンブラーたちの命を賭けての心理戦が読者から絶賛を受ける。1996年週刊ヤングマガジン(講談社)にて「賭博黙示録カイジ」を連載開始。創作ギャンブルの目新しさと、金で運命を狂わせる男たちを描きヒット作に。同作は1998年に講談社漫画賞を受賞し、2007年にアニメ化され2008年には実写映画化。他にも「アカギ」が2005年にアニメ化、2015年にドラマ化。「銀と金」は1993年にVシネマ化、2017年ドラマ化された。2007年、週刊少年マガジン(講談社)にて「賭博覇王伝 零」を連載開始。 現在は週刊ヤングマガジンにて「賭博堕天録カイジ ワン・ポーカー編」、ビッグコミックオリジナルにて「新黒沢 最強伝説」、近代麻雀にて「アカギ~闇に降り立った天才~」を連載中。