ナタリー PowerPush - ドレスコーズ

飢えと怒りとやるせなさから吐き出した、誰にも負けないロックンロール

ドレスコーズの2ndシングル「トートロジー」が完成した。タイトル曲は志磨遼平(Vo)が「ああ!世界のすべてにファッキュー ギッタギタにのしちまいたい!」と吠える攻撃的なロックチューンだ。

今回ナタリーでは本作のリリースにあわせ、メンバー4人にインタビューを実施。2012年のデビューから初の全国ツアーを経て感じた心境の変化、そして今現在志磨が抱えているフラストレーションが浮き彫りになった。

取材・文 / 宇野維正 撮影 / 福本和洋

「ロックンロールから逃げてちゃダメだよ」

──今回のシングル「トートロジー」は、昨年のデビュー、1stアルバム(「the dresscodes」)のリリース、そして今年に入ってからのツアーを経て、改めてドレスコーズというバンドの所信表明のような作品だと思いました。特に「…これがロックンロール、わかんないヤツは 全員くたばれ!」と歌う1曲目の「トートロジー」は、ドレスコーズのテーマソングと言えるような楽曲だなって。

志磨遼平(Vo)

志磨遼平(Vo) 去年の7月にシングル「Trash」でデビューしてから、アルバムを出して、ツアーを回って、ちょうど1年になるんですね。まったく新しいバンドなので、リスナーはもちろん、僕ら自体も最初はどんなバンドになるのかまったくわからなかった。誰も知らないバンドだったわけです。それを必死になって自分たちで見つけてきたのが、この1年だったというか。そこでひとつ、ロックンロールをシンプルにやろうという思いが僕らの中から生まれてきて。ちょうど今年3月のツアーファイナルの日の朝、楽屋に入ったら丸山(康太 / G)くんがRAMONESの1stのオリジナル盤を持ってきてたんですよ。「今日、朝イチでレコード屋で買ってきた」って。

──オリジナル盤って、本当の1stプレスということですか?

丸山康太(G) そう(笑)。

──ちなみに、だいたいおいくらするものなんでしょうか?

丸山 1万5000円くらいでしたね。

──ほお!

丸山康太(G)

志磨 それをね、ツアーが終わったら2人で一緒に聴こうと。丸山くんの畳の部屋でね。レコードを袋から出して、レコードプレイヤーに載せて、2人でお茶をすすりながらずっと黙ったまま最後まで聴いて。いや、やっぱり素晴らしかった! そこで改めて、「ロックンロールがやりたい!」って思ったんです。僕、このドレスコーズというバンドを始めてから、ロックンロールを恐れるような気持ちがあったんですよ。

──「恐れる」というのを、もうちょっと詳しく説明してもらえますか?

志磨 よく彫刻家の人が、岩の中にある仏様を削り出すって言うじゃないですか。あの感覚ですね。岩の中にロックンロールというものがあるとして、それを恐る恐る、中にあるものを傷つけないように、この4人でノミを握りしめて削り出してきたんですね。

──なるほど、よくわかります。

志磨 ロックンロールって伝統的でシンプルなフォーマットじゃないですか。自分はそれを愛聴して育ってきたわけですけど、そこから先に進むためには、過去のロックンロールの人たちがやってきたように、何か新しいものを生み出さなきゃいけないんじゃないかって。まだ誰も聴いたことのない、手垢の付いていない音楽を生み出そうっていう、すごく大層な野心を抱えていたんですけど。そんな自分にマル(丸山)は、「ロックンロールやろうよ」って何回も何回も言ってくれたんですね。「ロックンロールから逃げてちゃダメだよ」って。

──そこから、今回のようなシンプルで攻撃的なロックンロールが生まれてきたんですね。

志磨 人間って「変わりたいな」って思うじゃないですか。今までまったく知らなかったことを知って、今までと別人のような人間になってみんなを驚かせたい。そんなふうに僕も思ってたんだけど、僕ができるようなことはそんなにたくさんはないっていうことに気付かされたんですよ。これしかできないけれど、これに関しては誰にも負けないよっていうもの。この作品では、そういうものをやりました。

僕らはやっぱり、何かを変えたい

──昨年末にアルバムをリリースするまで、ドレスコーズはほとんどライブをしないで、スタジオの中でレコーディングに没頭してきたわけですけど。そういう意味でも、ツアーを経てまたこの4人でスタジオに入って音を鳴らしたときは、以前とは大きな違いがあったんじゃないですか?

山中治雄(B)

山中治雄(B) ツアーで全国を回るっていうこと自体、自分はこれまで知らない世界だったんで。かなりインパクトのある体験でしたね。その体験を通して、こういう曲が作りたいとか、今までとは違う発想がどんどん出てきて、それが今作につながったなと。

丸山 ツアー中は、毎日考えてることが変わるくらいいろんなことがあって大変でした。その変化に耐えきれなくてしんどいときは、志磨に「助けて」って言ったりして。そういうみっともないところも見せたけど、自分のやりたいこともちゃんと伝えることができたし、正直に話せてよかったなって思います。

──「しんどい」というのは、どういうときだったんですか?

丸山 昨日好きだったものが今日はもう好きじゃなくなるのって、つらいことじゃないですか。そういうことの連続が、自分にとってのツアーで。

志磨 レコーディングのときにもありましたね。昨日得たインスピレーションが、いつの間にか使えない古いものになってる。その連続の中で、どうやって自分のバランスを保っていくかっていう。お星さまの引力じゃないですけど、マルと僕はそういうやってお互いにバランスを取ってこのバンドを動かしているような感じかもしれないです。僕が左に運動しようとすると、今度はマルが右に運動しようとする。そうやってお互いが引っぱり合うと、中心が真ん中に保たれるじゃないですか。そういうことをお互いにやりとりしながら今回のシングルを作ったような気がします。相手が危うくなったら、そこで互いに引っぱり合うみたいなイメージ。

菅大智(Dr)

菅大智(Dr) ツアーに出るまで、なんとなく僕の中ではこのバンドのメンバーがライバルというか、「4人の中では絶対負けないぞ!」的な気持ちがあったんですね。でもライブを重ねていくうちに、その「この野郎!」って気持ちが外に向かっていくようになって。バンドとしてもっと前に行こう、もっと上に行こうっていう気持ちを曲にストレートに乗っけていけるようになったのは、すごく大きな変化でしたね。

志磨 昨年末のアルバムが出るまで、僕らはお化けみたいだったんですよ。毎日スタジオに入って、毎日この4人で顔を合わせて。そこでは音楽をやってるんですけど、この世には存在してないような不思議な感覚で。世間の情勢とか、シーンとか、そういうものから切り離されていて。それがやっとツアーに出て、お化けではなく人間として存在できるようになって外の世界に触れた途端に、ものすごく腹を立ててる自分に気が付いたんです。なんかね、納得のいかないことばかりで。その怒りを、特にこの「トートロジー」という曲では吐き出してるわけです。

──その怒りは、何から来ているんでしょう?

志磨 何から来てるんでしょうね。僕もずっとそれを考えてるんですよ、実は。この4人でツアーを終えた。「イエーイ!」と、「僕ら最高!」と、そう思うんですけど、同時になんとも言えないやるせなさのようなものがあって。この世の中に素晴らしい音楽があるとして、それを僕たち4人が見つけられればそれで満足なのかっていうと、それだけじゃ満足しないんですよね。僕らはやっぱり、何かを変えたいんですよ。それが何かはわからないですけど、別にシーンとかじゃなくて、人の人生とか、人の心とか、人の趣味とかなのかもしれないけど。何かを変えたいんですよね。それを思うと……今までね、感じたことのない感情みたいなものが芽生えたですよ。すごく怒りに似た感情というか。きっとそれが今、僕がこうして音楽を生んだりするエネルギー、パワーになってると思うんですけど。

2ndシングル「トートロジー」 / 2013年8月14日発売 / 日本コロムビア
「トートロジー」初回限定盤/通常盤ジャケット
初回限定盤[CD+DVD] / 1575円 / COZA-784~5
通常盤[CD] / 1050円 / COCA-16749
「トートロジー」トリコ盤ジャケット
トリコ盤[CD] / 1050円 / COCA-16748
CD収録曲
  1. トートロジー
  2. フォークソングライン(ピーターパンと敗残兵)
  3. Zombie
  4. トートロジー(TVサイズ)※トリコ盤のみ
初回限定盤DVD収録内容
  • 「トートロジー」ビデオクリップ
  • メイキング映像
ドレスコーズ
ドレスコーズ

志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)、山中治雄(B)による4人組ロックバンド。2012年1月1日に山中を除く3名で初ライブを実施。同年2月に山中が加入し、現在の編成となる。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に起用され話題を集めた。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」を発表。2013年3月には本作を携えた全11公演の全国ツアー「the dresscodes TOUR」を成功に収めた。同年8月14日、フジテレビ系アニメ「トリコ」のエンディングテーマに採用された「トートロジー」を2ndシングルとしてリリースする。