ナタリー PowerPush - BIGMAMA
2ndシーズンの幕開け告げる新作「Roclassick」堂々完成
ストーリーを考えてアレンジを決めていく
──ではこのアルバムの中身ですが、アレンジはどのようにして?
曲はだいたい僕が作るんですけど、アレンジは基本的にはメンバーに丸投げなんです。もちろん僕の頭に浮かんでいた音、ここにこれを使いたいっていうのは伝えますけど。例えば2曲目の「虹を食べたアイリス」ではベートーベンの「運命」を使いたいと思ってた。「運命」の「タタタターン」ってとこには扉を叩くって意味があるらしく「運命はこのようにして扉を叩く」ってベートーベンは言ったらしいんですね。それを歌詞のストーリーの中に入れて、間奏にはドラムで扉を叩く音を入れたいって。そこにバイオリンも重なって、どんどんアレンジが決まっていきましたね。
──ストーリーの流れから音が生まれる。連想ゲームみたいな感覚なんでしょうね。
あ、そうですね。それはメンバーもすごく意識してくれていて。この話がこうつながっていったら面白い、この話のこの場面ではこういう音が鳴ってるはずだって、そういうことを意識してアレンジを考えてる。特にドラムのリアドは曲の流れや音の関連性っていうのをすごく大切にする人で。だからドラムからストーリーが生まれることもあるし。
──「走れエロス」も、まずエロスって言葉が浮かんだとき「やった!」って思ったでしょう?(笑)
愚の骨頂ですよね(笑)。最初は「エロスはちょっとどうかな」っていろんな人に言われたんですけど、その言葉が浮かんじゃったし、他の言葉が浮かばなかったからエロスでいいやって(笑)。
クラシックに対する誠実さは持ってなきゃいけない
──今作ができるきっかけとなった「計算高いシンデレラ」は、もともとはどういうふうにして生まれた曲なんですか?
2007年にうちに姉ちゃんの結婚式があって、そこで「カノン」がバイオリンで演奏されてたんですね。で、自分の中でカノン=結婚ってことが強く残って、結婚をテーマに曲を書いてみようと思ったんです。そしたら「計算高いシンデレラ」ってキャラクターが浮かんでストーリーが展開していって。イントロでわりとユーモラスな音が出てきたので、このシンデレラはかなり性格が悪そうだぞって(笑)。
──「走れエロス」と「計算高いシンデレラ」はちょっと毒がある歌詞だし、作品全体も持ち前のユーモアや寓話性がますます冴えてますよね。
あの、よく結婚式とかでスピーチがありますよね。そこで3分間しゃべるとして、3分間ガチンコでいい話をされても困る(笑)。2分半ぐらいは面白い話で最後の30秒でいいこと言えばいいじゃないかって(笑)。僕の歌詞や作品全体にもそういうとこがあって。決めゼリフは1つでいいと思ってるんです。全部正しくいいことを歌うより、そこまでの過程を磨いていくほうが面白い。僕自身、真面目なことばかり言われても申し訳ないぐらい響かないタイプなんで(笑)。ちょっとくすぐってくれないとダメなんですよね。
──ユーモアの中から真実を探す楽しみを、聴き手は味わえると思います。でも制作にあたっては、クラシックというモチーフがあるからこそ難しい面もあったと思うんですが。
演奏的なとこはあんまり茶化してはいけないと思ったんですね。クラシックに対する誠実さ、ストイックさは持ってなきゃいけない。じゃないとクラシックそのものもこの作品も軽いものになってしまう。そこはメンバーも守ってくれて、だから僕は歌詞であったり曲の構成やストーリーであったりで心おきなく遊べたんですね。かなり遊んでると思います(笑)。
CD収録曲
- 走れエロス(ヴィヴァルディ『春』)
- 虹を食べたアイリス(ベートーヴェン『運命』)
- テレーゼのため息(ベートーヴェン『エリーゼのために』)
- 英雄を抱いてマリアは眠る(バッハ『フーガト短調』他)
- ツルギが無い(ハチャトゥリアン『剣の舞』)
- 荒狂曲“シンセカイ”(ドヴォルザーク『交響曲第9番“新世界より”』)
- 計算高いシンデレラ(パッヘルベル『カノン』)
DVD収録内容
- 走れエロス(ヴィヴァルディ『春』)
- 虹を食べたアイリス(ベートーヴェン『運命』)
- テレーゼのため息(ベートーヴェン『エリーゼのために』)
- 英雄を抱いてマリアは眠る(バッハ『フーガト短調』他)
- ツルギが無い(ハチャトゥリアン『剣の舞』)
- 荒狂曲"シンセカイ"(ドヴォルザーク『交響曲第9番"新世界より"』)
- 計算高いシンデレラ(パッヘルベル『カノン』)
BIGMAMA(びっぐまま)
2001年に結成。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在は金井政人(Vo,G)、柿沼広也(G,Vo)、リアド偉武(Dr)、安井英人(B)、東出真緒(Violin)の5人編成で活動中。2006年7月にミニアルバム「short films」をUKプロジェクト傘下のレーベル・RX-RECORDSからリリース。同年10月には一時的に活動休止するも、2007年2月に安井と東出の加入を機に活動を再開した。ロックを基軸に紅一点の東出によるバイオリンが楽曲に華を添え、他のバンドとは一線を画する個性を放っている。また、一聴した瞬間に耳を捉える良質なメロディ、心を高揚させるアグレッシブなバンドサウンドはライブで特に映え、毎回フロアを盛り上げている。