音楽ナタリー Power Push - ASIAN KUNG-FU GENERATION 行定勲監督鼎談

映画「ピンクとグレー」が生んだ疾走する主題歌「Right Now」

ASIAN KUNG-FU GENERATIONが、加藤シゲアキ(NEWS)の処女小説を原作とした映画「ピンクとグレー」の主題歌「Right Now」をシングルとしてリリースした。

「Right Now」は後藤正文(Vo, G)と山田貴洋(B)が、「ピンクとグレー」の監督である行定勲のオファーを受けて作曲した疾走感あるロックチューン。後藤がつづる歌詞には映画とリンクした言葉がちりばめられ、「ピンクとグレー」の世界にさらなる深みを与えている。

音楽ナタリーでは「Right Now」が生まれた背景を探るべく、後藤、山田、行定の鼎談を企画。主題歌の誕生秘話や、行定が監督を担当し、映画にも出演している夏帆が主演する「Right Now」のミュージックビデオについて語ってもらった。

取材・文 / 中野明子 撮影 / 後藤倫人

アジカンの疾走感に助けてもらいたい

──行定監督がアジカンの音楽と出会ったのはいつ頃だったんですか?

左から山田貴洋(B)、後藤正文(Vo, G)、行定勲。

行定勲 友人の映画監督・豊田(利晃)が「君という花」のMVを撮ってるんだけど、彼がその編集をしてるときですね。編集室で初めて聴いて、かなり面白くて、「このバンド来るな」と。僕らが中学生とか高校生のときに聴いていたロックの匂いもありつつ、今までにない日本のロックの感じが自分にヒットしたというか。実は僕、中学、高校のときにバンドをやってて……。

後藤正文 そうなんですか?

行定 でもギターがうまく弾けなくて、すぐ挫折して(笑)。アジカンの曲って、自分が鳴らしたかった音が形になったサウンドだったんですよね。あと豊田とは同期なんで、そんなカッコいいバンドのMVを撮ってるのがうらやましくて。もう十数年にわたって恨めしく思ってて。

後藤 大げさですよ(笑)。

行定 アジカンと一緒に仕事をしたいという思いが長年あったんですよ。映画「ソラニン」(2010年に公開された三木孝浩監督作)は俺が撮りたかったと思ってたくらい。原作のマンガも、原作者の(浅野)いにおくんのことも知ってたし、「ソラニン」はアジカンの「ムスタング」をイメージして描いたっていうのも聞いてたし。とにかく自分が撮りたかった映画の主題歌をアジカンが書くっていうのもうらやましかった。ずっとチャンスをうかがってて、今回、アジカンの音がハマりそうな映画が生まれそうだったんでお願いしようと。

後藤 ありがとうございます。

行定 アジカンの曲って“強い”んですよね。曲の印象をもとにお客さんは映画を観ることになるから、主題歌がどんな曲なのかが大事で。アジカンにお願いするにしても疾走感がある感じがいいのか、どっしりしたのがいいのかって考えたときに、疾走感があったほうがいいなって。どっしりした曲になると、生と死をテーマにした「ピンクとグレー」の場合、“死”に寄り添ってしまう。“生”の方向に持っていくために、みんなの脳裏に焼き付いてるアジカンが作り出す疾走感に助けてもらいたい、この映画を引っ張ってもらいたいと思ったんです。

後藤 ええ。

行定勲

行定 映画って総合芸術なんで、0を1にするのが原作だとしたら、それを10なり20なりどこまで大きくできるかなんですよね。できあがった映画をさらに遠くに引っ張ってくれるのが主題歌だと僕は常々思ってて。主題歌って予告編にも付いてくるし、あらゆる宣伝にもくっ付いてくる。日本映画において主題歌ってかなり重要なんです。だけど、ハマってないと一生かかってもハマらないものでもあって。で、今回「Right Now」が上がってきたときは、「くっそー! いい曲だなあ」と思いましたね。

後藤 あはははは(笑)。

行定 聴いた瞬間、この曲に映画を侵食されないようにしないといけないと思いました。それくらいハマってた。

後藤 ありがとうございます。「ピンクとグレー」っていう映画の主題歌の話が来ているという話をスタッフから聞かされて、原作の小説もあると聞いたんで「読んでから考えます」って返事したんです。引き受けることは周りの大人たちの中では決まってたと思うんですけど(笑)、「これをどうやって映像化するんだろう」って興味を持ったんですよね。で、実際に完成した映画を観て「うわっ!」と思って。あの小説を監督はこう大胆に変えたかと。じゃあ、その世界をどう表現しようかと。話自体はだいぶ前にいただいていたんですけど、僕が「Wonder Future」(2015年5月リリースのアルバム)を作り終えて搾りカスみたいになってたんで、山ちゃんにお願いしたんです。山ちゃんが疾走感のある曲を作ると、だいたいいい形になるんで。

山田貴洋 ふふっ(笑)。

後藤 今年作った「Wonder Future」が、僕らとしてはシンプルなアメリカンロックを目指したアルバムで、あれはあれでよかったんだけど、質実剛健すぎるというか。すごく質素なものを食って、あとは剣を振ってる武士のような作品だったから、映画の主題歌にするなら“贅肉”が欲しい!と思ったんですよ。自分のモードが「骨と皮だけでいい」みたいなストイックな感じのときは、メンバーに相談したほうがよくて。

山田 8月くらいに、ツアーの合間に映画を観に行って、部屋にこもって作ってましたね。疾走感というキーワードをもらってたのでそれを追求していこうと。

後藤 そのあとにデモが送られてきて。そのデモに対して僕が「ギターをシンセで弾くな」とかいろいろと嫌味な意見を返して、それを山ちゃんが修正して、最終的にはバンドでスタジオに入って曲を完成させましたね。

生きるほうに向かって映画を終わらせたかった

──この曲は後半でガラッと展開が変わりますよね。

後藤 そうですね。疾走感のある曲というのは監督やスタッフからリクエストされていたんだけど、俺たちが今疾走感ある曲を作るとヴァースコーラス形式の、引っ掛かる部分がない曲になりそうだったから展開を付けたほうがいいなと。ちょっとネタバレになっちゃうけど、映画も62分経った頃にガラッと変わるところがあるんですよ。だから映画と同じように、曲にもズバッと変わるところがあってもいいかなって。

行定 歌詞もしっかり映画とリンクしてて。

後藤正文(Vo, G)

後藤 とにかくお客さんに、作品の一部として、ちゃんと曲をエンドロールと一緒に聴いてもらって、家に持って帰ってほしいんですよ。そういう気持ちは映画の主題歌を担当するときはいつも考えてますね。

行定 しっかり映画の要素を入れてもらいましたね。しかも言葉選びが秀逸なんです。僕が映画について語りたい言葉が歌詞の中にあるから、意図的ではないのにインタビューで歌詞と同じことを言ってたなという瞬間があるんですよね。

後藤山田 あはははは(笑)。

後藤 歌詞の話になるんですけど、「ピンクとグレー」の登場人物たちって自意識が過剰なんですよね。それを壊して終わりたいと思ったんです。最後のほうにある「心を脱ぎ捨てて」というフレーズが象徴的ですよね。今の時代みんな“心”が好きだから。そういうのを壊して、生きるほうに向かって映画を終わらせたかった。それが、僕らなりに映画の登場人物を成仏させる方法だと思ったんです。

行定 いろいろ話してもらってますけど、僕は「疾走感のある曲にしてほしい」という以外は伝えてなくて。どの映画でもそうなんですけど、オファーした以上は、アーティストに任せるようにしてて。今回はASIAN KUNG-FU GENERATIONがこの映画を最後にどう物語ってくれるのか、どう昇華してくれるのかをただ楽しみにしてた。

ニューシングル「Right Now」 / 2016年1月6日発売 / Ki/oon Music
「Right Now」
初回限定盤 [CD+DVD] / 1620円 / KSCL-2647~8
通常盤 [CD] / 1350円 / KSCL-2649
CD収録曲
  1. Right Now
  2. Eternal Sunshine / 永遠の陽光(LIVE)
  3. 深呼吸(LIVE)
  4. Wonder Future / ワンダーフューチャー(LIVE)
初回限定盤DVD収録内容
  • Right Now(MUSIC CLIP)
  • Right Now(メイキング)

映画「ピンクとグレー」
2016年1月9日(土)全国ロードショー

キャスト

中島裕翔 / 菅田将暉 / 夏帆 / 柳楽優弥 / 岸井ゆきの

スタッフ

監督:行定勲
脚本:蓬莱竜太
音楽:半野喜弘

ASIAN KUNG-FU GENERATION
(アジアンカンフージェネレーション)
ASIAN KUNG-FU GENERATION

1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年にはインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」をKi/oon Musicから再リリースし、メジャーデビューを果たす。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の東京・日本武道館ワンマンライブを行った。2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼んだ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招いたり、コンピレーションアルバムを企画したりと、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2012年1月には初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリースし、2013年9月にはメジャーデビュー10周年を記念して、神奈川・横浜スタジアムで2DAYSライブを開催。2015年5月にロサンゼルスでレコーディングしたニューアルバム「Wonder Future」を発表した。2016年1月に映画「ピンクとグレー」主題歌「Right Now」を収めたシングル、ミュージックビデオを集めたBlu-ray / DVD「映像作品集11巻」を同時リリースする。

行定勲(ユキサダイサオ)

1968年生まれ、熊本県出身の映画監督。テレビドラマの助監督を経て、助監督として岩井俊二や林海象の作品に参加する。2000年公開の「ひまわり」が評価され、2001年に公開された「GO」で「日本アカデミー賞」最優秀監督賞など数々の賞を受賞する。2004年に公開された監督作「世界の中心で、愛をさけぶ」も大ヒットを記録し、その後も「パレード」「今度は愛妻家」「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」「真夜中の五分前」などで監督を務める。