映画ナタリー Power Push - ナタリー×Hulu 語りたくなる1本がある。

紀里谷和明編

グタグタなんだけどステキな「メタルヘッド」

──では次は比較的新しい作品に。「メタルヘッド」はいかがですか。

「メタルヘッド」©2010 Hesher Productions, LLC.

これもまた、技術的なことがそっちのけになってるような作品で、まあ一種のコメディなんですけど。キャラクターが今の社会で言えば“いてはいけない人間”なわけですよね。特に日本なんかでは迫害されちゃうような人たちで。今の社会はその人の風貌であったり人種であったり、いくらお金を持ってるとか、肩書きで判断するんだけれども。いわゆる社会っていうものと、評価を下されてる側の本質を見たときに、じゃあどちらが醜いんですか、どちらが美しいんですか、っていう話なんですよね。そういうことを非常にモダンな形で提示している作品で、グダグダなんだけどすごくステキだなと思う映画です。僕はこれを日本でリメイクしたいなと思ってるくらいなんですよ。

──ちなみにリメイクされるとしたらこんな方を起用したいとかは?

いや、まったくそこまで考えてない。

──そうなんですか、ぜひ観たいです。劇中のキャラクターはちゃんとしていない人が多いんですけど、どこか愛着が持てるような人たちだと思いました。

紀里谷和明

うん。さっきの映画の画質とか技術的なこともそうなんだけど、結局形のほうが追い求められていっちゃって。今の先進国の社会って、みんなお行儀がよくって街もキレイで礼儀正しくって、優しくって。気遣いができておもてなしができる、ということになってるんだけど、本当にあなた方はそう思ってんの?って。そうだと思い込んでるだけの話で、実はそこに窮屈さや冷たさ、寂しさを感じているわけじゃないですか。僕が今の社会を見ていて「なんか違うよね」ってすごく思っちゃうのはそこなんです。

──ジョゼフ・ゴードン=レヴィット演じるヘッシャーは横暴な性格ですが、おばあちゃんとのやり取りはすごく愛にあふれていますよね。

そういう人間がもともといっぱいいたんですよね。僕がガキの頃ってやっぱり乱暴な人が多かったし。口が悪くて柄が悪くて、行動が非常に下品な人たちに囲まれて育ったんですけど、でもみんな愛に満ちあふれていた。それが今ではみんな逆になっちゃってる。

──表面上はきちんとしているけど。

そう。でもみんな結局冷たいじゃん。なんかあってもそばにいてくれないじゃん、っていう感じ。でも昔はそうじゃなくて、相手に対しての思いやりがあったような気がするんですよね。形なんかはどうでもよくって。こういうことを言うと昔の日本はよかった、ワシが若い頃はなあ、みたいな感じになっちゃうけど。そういうことを考えるような映画ですね。

人種の壁や偏見、既成概念から自由になってやっていく

──今日は紀里谷さんの新作のお話も伺えればと思います。「ラスト・ナイツ」はハリウッド進出作ですが、プレッシャーは感じましたか?

プレッシャーは毎回感じますよ。毎回ビビるし、泣きそうになる。たぶん、どこまで行っても慣れないですよね。指示の仕方とか、そういうところで慣れていくから、どんどん大きいものができるようになってくるんだけれども、結局その精神的な部分は一番最初にやり始めたときと変わらないと思う。もしかしたら、幼稚園の劇の発表会に出るときのあのプレッシャーが延々と続いてるみたいな話なんじゃないかなあ。苦しいことの連続ですよもう、本当に。朝とか本当、嫌!「はああーー」って……。

──そのプレッシャーからは、作品が完成しても解き放たれたりはしないものですか。

いや、完成しちゃうとそのプレッシャーはなくって、そこから今、宣伝ですね。今度はどう届けるのかっていうことだから、まだ気楽といえば気楽なんだけども、ただこの作品に関わってくれた人たちがたくさんいるわけですよね。技術スタッフから、エキストラからケータリングのおばちゃんまで。彼らが、仕事とはいえ1つの思いを持って関わってくれていて。願わくば、そのケータリングのおばちゃんが「あの映画、私が関わったのよ」って自分の孫とかに言ってくれるようになったら、ステキだなと思いながらいつも作ってるんです。

「ラスト・ナイツ」より。©2015 Luka Productions.

──作品に登場する騎士たちは人種がバラバラですが、観ていて不思議と違和感を抱きませんでした。俳優たちには何か特別な演出をされたんですか?

最初から皆さんにお伝えしていたのは、武士道の話であり、しかしそれが全世界で共通する観念だということですね。武士道の中では“誉”っていう、いわゆる今で言うところの誇りはもうどこに行ったって共通するんです。あなたが今大事に思ってるものはなんですか? それを守るためには何をしますか?ということなんですよ。例えば家族なのかもしれない、自分の国なのかもしれない、アイデンティティなのかもしれない。そこにアクセスしてくださいっていう言い方ですよね。各地に武士がいるんですよ。

──武士が点在していると。

うん。その精神を各地から持ってきてやってくださいと。アン・ソンギさんが一番最後にクライヴ(・オーウェン)と向き合うシーンがありますよね。あそこは、僕、本当にやってよかったと思った。アジア人の代表としてソンギさん、そしてヨーロッパやアメリカも含めた代表としてクライヴが出てきて。そこで2人がセリフもまったくなくただ見つめ合って、すれ違う。これまで自分たちが生きてきたこと、そしてまたその先祖がやってきたことが結局同じだったんだと、そこで分かり合うんですよ。そして1つの線になっていく。人種の壁や偏見、既成概念から自由になってやっていこうっていう。これは、今日「イレイザーヘッド」で言った「これだけの自由があってうらやましいな」って思うところに対して、今僕ができる提案の1つですよね。

ナタリー×Hulu 語りたくなる1本がある。
監督 紀里谷和明編
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紀里谷和明の語りたくなる作品リスト

  • イレイザーヘッド
  • 皇帝のいない八月
  • スカーフェイス
  • メタルヘッド
  • SHAME -シェイム-
  • アポロ13
  • シンドラーのリスト
  • エリザベス
  • イントゥ・ザ・ワイルド
  • ロスト・ハイウェイ

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紀里谷和明(キリヤカズアキ)

1968年4月20日生まれ、熊本県出身。1994年より写真家として活動をスタートさせ、SMAP、サザンオールスターズなどのCDジャケットやMVの撮影を手がける。2004年に「CASSHERN」で長編監督デビュー。2009年発表の「GOEMON」以来6年ぶりとなる最新作「ラスト・ナイツ」が11月14日に公開される。

「ラスト・ナイツ」

「ラスト・ナイツ」

紀里谷和明のハリウッド進出作。架空の封建国家を舞台に、忠誠心や名誉、正義、尊厳などをテーマにした人間ドラマ。主君の不当な死に報いるため、彼に忠誠を誓った騎士たちが立ち上がるさまを描く。出演はクライヴ・オーウェン、モーガン・フリーマン、伊原剛志、アン・ソンギら。11月14日より全国でロードショー。


2016年1月8日更新