コミックナタリー Power Push - 「遊☆戯☆王」

作品誕生から原作のその後を描く劇場版まで「遊☆戯☆王」の20年

海馬は原作では消化しきれていない部分があったかもしれない

──「遊☆戯☆王」の20周年を記念して公開される新作映画についてもお伺いできればと思います。高橋先生は今回の映画に脚本、キャラクターデザイン、製作総指揮と、とても綿密に関わっていらっしゃいますね。

劇場版「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」のビジュアル。

自分の中では「遊☆戯☆王」という作品は終わったものだったので、映画のお話をいただいたときはあまりピンと来ませんでした。時間も経っていて、原作を覚えてくれている人も少ないんじゃないかと思いましたし、僕自身も忘れちゃってる(笑)。でも改めて考えてみると、海馬について原作では消化しきれていない部分があったかもしれないと思い始めました。海馬を軸に、キャラクターのその後の成長も描けるかな、という思いもあり。あと加々美(高浩)さんに作画監督として参加していただけると聞いて、僕自身が映画を観てみたい気になりました!

──昨年アメリカで行われたコミックコンベンションに先生がご登壇された際には、「原作のアフターエピソードとして、これまで描かれてこなかった謎の部分を描いています」とおっしゃっていましたが(参考:映画「遊☆戯☆王」ポスターに新キャラ、高橋和希は米でインクポット賞受賞)、映画のストーリー構想はいつ頃からあったのでしょうか。

今回のエピソードは原作本編で描く予定だったのですが、ストーリーの流れの中で入れるタイミングを失ってしまいまして。それが映画で明らかになります。

──では脚本の執筆は割とスムーズに。

脚本は2、3カ月程度で書きあがりましたが、それを映画にするととんでもない長さになることが判明し……。上映時間の枠に収めるために脚本を削る作業に、1年ぐらいはかかってしまいました。でも、内容はその分濃いものになっていると思います!

原作の終盤で遊戯はアテムとの戦いに臨む。

──ただ、「原作のその後」のエピソードを描くというのは、もちろん楽しみでもありつつ、一体どうなるのかと、少しだけ不安に感じるファンもいたのではという印象もあるのですが。

遊戯や城之内、杏子、本田や獏良が、みんな相変わらず童実野町で元気に仲良く学園生活を送っている──そんな空気感は大事だと思っていました。そのあたりに関しては桑原(智)監督に気を遣っていただいてとてもよかったです。原作のラストは自分なりに納得して完結させたので、今回の劇場版ではもうひとつのエンディングを描くつもりで臨みました。ファンの皆さんがどう感じて下さるか。そこはもうお任せします。

──先ほど「海馬について原作では消化しきれていない部分があった」とおっしゃっていましたが、やはり今回の映画では海馬がキーパーソンになるのでしょうか。高橋先生が描かれた映画のポスタービジュアルでも海馬が中央に陣取っていますが。

劇場版「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」のポスタービジュアル。

はい。彼の中ではまだ終わっていない物語があるはずだと思いました。遊戯、海馬、そして初登場の藍神。3人の視点で現在、過去、未来を描けたらと。人の絆、集団性、進化、それらの光と闇の部分がテーマになってると思うのですが、正直テーマはひと言では語れないんですよ。観てくださった皆さんが何かを感じてくださればうれしいです!

──アフレコの際には、遊戯役の風間俊介さんや海馬役の津田健次郎さんに何かアドバイスはなさいましたか? 津田さんは高橋先生に「海馬は海馬だよ。海馬の強さみたいなものが物語を引っ張っていく」と伝えられた(参考:映画「遊☆戯☆王」イベントで風間俊介「成長した遊戯が観られる」)とおっしゃっていました。

アフレコ現場では風間くんと津田くんの演技を直に体感させていただいて、僕自身が「遊戯だ!海馬だ!」とファンとしてはしゃいでしまいました(笑)。演技については絶対の信頼を寄せていましたので、特にアドバイスなどはせず、好きにお任せしていた状態でしたね。彼らが演技をした瞬間に遊戯と海馬が出現してしまう、本当に素晴らしいアフレコでした。

海馬のアテムに対する想いと内なる狂気を描く

──映画の公開に合わせて「遊☆戯☆王」の新作読み切り「TRANSCEND・GAME 遊☆戯☆王」も週刊少年ジャンプに掲載されました。高橋先生が長編マンガを執筆なさるのは、2013年に少年ジャンプに掲載された「DRUMP」以来約2年半ぶり、「遊☆戯☆王」の新作としては実に約12年ぶりとのことです。読み切りで遊戯ではなく海馬を軸に据えたのは、なぜでしょうか。

「DVD付分冊マンガ講座 ジャンプ流!」vol.8

今回の読み切りは映画のネタバレになってはいけないので、海馬コーポレーションのデュエルディスク開発秘話という形にしました。その中で描かなければならなかったのが、海馬のアテムに対する想いと、内なる狂気ですね。

──久々にマンガをお描きになって、以前と変わった部分などはありましたか。

自分自身がマンガ家というよりデザイナー気質が強いので、絵の比重が大きくなってしまいました。マンガの中で出てくるモンスターもそうですが、キャラクターの台詞で進行する物語よりもどこか造形なりデザインされたものが画面に描かれてないと、物足りなさを感じてしまうのです。フルカラーのマンガに挑戦したこともあるのですが、とんでもなく時間がかかる! まだヘタですよ。

──いえいえ、そんなことはないです(笑)。絵を描くということでいうと、この特集の公開日には、ジャンプ作家のマンガ創作術を紹介する分冊百科「ジャンプ流!」で高橋先生にスポットを当てた号も発売されますね。こちらには高橋先生が「海馬&青眼の白龍」のイラストを執筆する様子を収めたDVDが付属します。

「遊☆戯☆王」のカラーカット。

絵を描いているところって普段見ることができないので、ファンにとってはうれしい企画ですね。僕はデジタルで着彩しているのですが、何か参考になることや、絵を描くのが楽しそうだと感じてくださる部分があれば、「ジャンプ流!」に参加させていただけてよかったと思います。「青眼の白龍」のOCGのカードも付けさせてもらったのですが、モンスターのイラストを描く手順などを紹介できたのも、「遊☆戯☆王」ならではなので楽しかったです!

──ありがとうございました。では最後に読者にメッセージをお願いします。

「遊☆戯☆王」も生誕20周年ということで映画も公開されます。作品を支えてくださっているファンの皆様に心から感謝申し上げます。カードやアニメでファンの方々が繋がり、より多くの友達ができること……それが僕にとって一番うれしく、「遊☆戯☆王」を描いて本当によかったと思う瞬間です。ありがとう!

「Vジャンプ6月特大号」 発売中 / 550円 / 集英社
「Vジャンプ6月特大号」

劇場版「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」公開直前号となるVジャンプ6月特大号は、特集冊子や付録のOCGカードなどが付属する「遊☆戯☆王」づくしの一冊に。
付属のOCGカードの「チョコ・マジシャン・ガール」は、高橋和希がデザインしたモンスター。特集冊子では、劇場版のストーリーについての初公開情報をはじめ、関連イベントやキャンペーンなど、映画に関するあらゆる情報を網羅。さらに映画に登場するカードをも紹介している。

「『DVD付分冊マンガ講座 ジャンプ流!』vol.8」 発売中 / 1393円 / 集英社
「『DVD付分冊マンガ講座 ジャンプ流!』vol.8」

「DVD付分冊マンガ講座 ジャンプ流!」第8号では「遊☆戯☆王」の高橋和希を特集。付属冊子「ジャンプ流!秘伝ガイド」には高橋へのインタビュー、「ジャンプ流!DVD」にはカラーイラストの作画風景などを収録。このほかカラーの複製原画、「遊☆戯☆王」のワンシーンを模写用紙にした「ジャンプ流!モ写用紙」、描き下ろしイラストを使用した「青眼の白龍」のOCGカードも付属している。

劇場版「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」2016年4月23日ロードショー
劇場版「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」

千年パズルを完成させたことにより、闇遊戯という、もう1人の人格を呼び覚ました武藤遊戯。 海馬コーポレーションの社長にして決闘者の頂点に君臨する海馬瀬人や、仲間たちと数々の死闘を繰り広げたが、過去との因縁により、もう1人の自分との闘いを余儀なくされ、遊戯と闇遊戯はついに決別し、別々の道へ旅立つこととなった──。
そうして、闇遊戯との最後の決闘を終えて、日常を取り戻したかに見えた遊戯たち。 その前に現れた謎の少年・藍神。そして、世界中で次々と起こる謎の失踪事件。 ただひたすら千年パズルを探し求める海馬。 すべてのピースが合わさるとき、再び決闘の幕が切って落とされる!

出演

風間俊介 津田健次郎
花澤香菜 日野聡 / ジャングルポケット
齊藤真紀 高橋広樹 近藤孝行 竹内順子 松本梨香
ケンドーコバヤシ
林遣都

高橋和希(タカハシカズキ)

高橋和希

1963年10月4日東京都生まれ。1990年に週刊少年ジャンプ(集英社)にて読み切り「闘輝王の鷹」を発表して以降、同誌を活躍の場とし、1996年に「遊☆戯☆王」の連載をスタートさせる。同作はアニメ化やゲーム化も果たし、派生したカードゲームは世界中で人気を博している。「遊☆戯☆王」の連載終了後には、シリーズ作品の原案や監修を担当。2016年、「遊☆戯☆王」の生誕20周年に合わせ、自身が製作総指揮を務める劇場版「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」が公開される。また同年には約12年ぶりとなる「遊☆戯☆王」の新作エピソードも週刊少年ジャンプに掲載された。

©高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社
©高橋和希 スタジオ・ダイス/2016 劇場版「遊☆戯☆王」製作委員会