ナタリー PowerPush - 太田垣康男 機動戦士ガンダム サンダーボルト
宇宙開発ドラマの手練が取り組む 大人が血湧き肉踊るガンダム
本日3月23日に発売されたビッグコミックスペリオール8号(小学館)にて、「機動戦士ガンダム サンダーボルト」の短期集中連載がスタートした。1年戦争を舞台に新しいガンダム世界を提示するのは、「MOONLIGHT MILE」でリアリティ溢れる宇宙開発を描いてきた太田垣康男だ。
コミックナタリーはこの機会に太田垣を直撃。宇宙世紀という時代をどのように再現するのか、モビルスーツという兵器をどう捉え直すのか聞くとともに、モビルスーツを描く様子を動画で配信する。
文/小林聖 撮影・編集/唐木元
寿司屋で「太田垣さん、ガンダム描きません?」
──まずは太田垣さんがなんでまたガンダムを描くのかという経緯からお伺いしたいのですが、編集部からオファーがあったんですか?
そうです。スペリオールの編集長さんと寿司屋で食事してるときに「太田垣さん、ガンダムやらない?」って言われて。
──いきなり?
いきなり。その場で「やります!」って即答です(笑)。
──太田垣さんって、世代で言うと……。
ファースト(ガンダム)世代ですね。中学1年生のときに最初のテレビシリーズが放送されてて、それは部活やなんかあって観られなかったんですけど、そのあとのブームはガンプラとか含めてモロに波をかぶった世代。なので40歳過ぎても「ガンダムガンダム」言ってます。
──ならもうふたつ返事で引き受けちゃいますよね。
ただ最初は読み切り1本とかって話だったんです。けど、読み切りでガンダムやっても何も描けませんよ。ストーリーとアクションシーンを入れるとなると、どう少なく見積もっても単行本2冊分くらいにはなるだろうなと思って、編集長に「『MOONLIGHT MILE』を休んでいいなら引き受けますけど」って言ったんです。そしたら「う~ん……やりますか!」って。
関節部が布で覆われたモビルスーツ
──最初の段階でどういうガンダムを描くかっていうのは、すぐにピンときてたんですか?
きてました。オファーをもらったのが去年の6月とか7月頃だったんですけど、その前からTwitterでガンダムの落書きみたいなものをアップして遊んでたんですね。
──はい、Togetterで拝見してました。
そのときは基本的にファーストガンダムの名場面を選んで、モビルスーツをちょっとリファインして描くっていうコンセプトだったんです。でも、それをまたマンガでやっても面白くないんで、やるならMSV(モビルスーツバリエーション。アニメに登場したモビルスーツを下敷きに、そのバリエーションを創造・商品化していく企画)を描きたいと思って。
──高機動型ザクとか、トロピカルドムみたいな。
ええ。ただ既存のMSVって後々の設定の寄せ集めでゴチャゴチャした世界で、そこから物語を膨らますっていうのは難しいから、自分なりのMSVを考えてみよう、と。
──ということは、太田垣さんなりのモビルスーツを描き下ろすわけですか。
はい。若干モビルスーツのデザインもリファインしましたけど、やりたいのはMSVなので、フルアーマーガンダムや高機動型ザクを自分風にアレンジしてマンガのなかで動かそうと。
──どういうところをアレンジしましたか。
たとえば、背中にしかバーニア(姿勢制御用の補助エンジン)がないのは疑問に思っていて。ひとつじゃ姿勢制御ができないですし、戦闘でバーニアが1カ所壊されたら、もう動けなくなってしまう。だからモビルスーツの至るところにバーニア付けてみたり。あと長時間運用も考えないといけない。戦闘が終わってすぐ母艦に帰ってこれればいいですけど、途中で被弾して帰還できなくなって、2~3日宇宙をさまようことだってあるかもしれないでしょ?
──そう考えると燃料タンク欲しくなってきますね。スペースシャトルの腹に付いてるみたいな。
ええ。それでオプションタンクを装備させました。あとモビル“スーツ”っていうくらいですから、宇宙服をベースにした発想の延長じゃないかという意識がありました。
──パワードスーツみたいなイメージですか。
それもそうだし、もっと「服」って感じを……モビルスーツの関節ってアクチュエーターなんかがぜんぶ剥き出しじゃないですか。でも、スペースシャトルに積んでるカナダアームっていうロボットアームなんかは、関節部分がぜんぶ布で覆われてるんです。
──ああ、見たことあります。あれは保護のためですよね。
関節部分っていちばん脆い部分なので、破壊されずともゴミが入っただけで動かなくなるわけですよ。戦闘用なのにゴミで動かなくなるって最悪でしょ。だから僕が描くモビルスーツの関節部は布で覆ってしまおう、と。
──関節が布で覆われたモビルスーツ……。
ガンプラにしにくそうですよね(笑)。
「機動戦士ガンダム サンダーボルト」
作品解説
宇宙世紀0079年。スペースコロニーの残骸(デブリ)が放電を続ける通称「サンダーボルト宙域」では、連邦軍とジオン軍による激しい戦闘が行われていた。先の見えない閉塞感の中出撃する連邦の兵士達の中で、そんな状況を謳歌するMSパイロット、イオ・フレミング。そして彼らを待ち受けるジオン軍の狙撃手、ダリル・ローレンツ。宇宙という戦場で、彼らの運命は、どのように交わるのか。太田垣康男とガンダムがタッグを組んだ、渾身の集中新連載ついに開幕!!
太田垣康男(おおたがきやすお)
1967年大阪生まれ。1988年に漫画アクション(双葉社)にて「MY REVOLUTION」でデビュー。代表作に「一平」「一生」など。2001年よりビッグコミックスペリオール(小学館)にて「MOONLIGHT MILE」を開始し、現在も連載中。2012年3月より、長年ファンであったガンダムを題材にした連載「機動戦士ガンダム サンダーボルト」をスタートさせる。