コミックナタリー PowerPush - タケヲちゃん物怪録
不幸な少女を妖怪たちが幸せに導くまっすぐで優しい“とよ田節”全開
とよ田みのるの最新作「タケヲちゃん物怪録」は、世界で一番不幸な少女タケヲの物語。タケヲは不幸体質が原因で妖怪だらけのアパートに住み始めるが、感情が希薄なため恐怖の色を見せず、逆に妖怪たちを驚かせてしまう。賑やかな物の怪との交流により、少女が人間らしさを得ていく様が見どころだ。
コミックナタリーでは、ヒューマンドラマの名手が妖怪という題材を取り入れた意欲作に注目。“とよ田節”とも言える作風の根本を探るべく、デビュー作「ラブロマ」からの一貫したテーマを語ってもらった。「タケヲちゃん」を執筆開始してからは初となる、貴重なインタビューをお楽しみいただきたい。
取材・文/大山卓也 編集・写真/淵上龍一
「幸せを知らない女の子が幸せになるまで」の話
──今日はよろしくお願いします。まずは「タケヲちゃん物怪録」を描き始めたきっかけから教えていただけますか?
あの、ある日担当の市原さん(ゲッサン編集長)に「とよ田さん、西部劇好きですか?」って言われたんですよね。「え、ぜんぜん好きじゃないですけど……」って答えたら「あ、わかりました」って。
──西部劇?
いや、西部劇に限らずなんですけど、市原さんはそうやって思いついたことを僕に伝えてくれるんです。ひっかかるネタがあったら広げてみてってことだと思うんですけど。それで「西部劇か……」って思いながら次に会ったら「とよ田さん、神様が住んでるアパートの話とかどうですか?」って。もうぜんぜん違う話をしてるんですよ(笑)。
──発想の飛躍がすごいですね。
で、それを聞いてふと思い出したのが、僕が好きな「稲生物怪録」っていう江戸時代の話で。30日間オバケが出続ける屋敷の話なんですけど、そのお話を下敷きにさせていただいて「タケヲちゃん」を作り始めました。
──とよ田さん自身、もともと妖怪ものは好きだったんですか?
子供の頃すっごい好きで、妖怪の絵とか毎日ノートに描いてました。特に妖怪屋敷の絵を描くのが好きで、なんかここの天井裏にはアカナメが住んでいるとか、そういう超精密なやつを(笑)。で、その「稲生物怪録」の何が好きかっていうと、妖怪に対して主人公が動じない。ぜんぜん驚かなくて、ついには妖怪が「参りました」って言うお話なんです。
──まさにタケヲちゃんのモチーフですね。
僕は豪胆なキャラクターがすごく好きで。芯があって動じない人。そういうキャラクターを書きたくて「タケヲちゃん」を始めたところはありますね。
──そういう意味では「ラブロマ」の星野くんも、「FLIP-FLAP」の山田さんも動じないタイプですよね。
そうなんです。だからずっと同じことを描き続けてる気がするんですよね。
──同じことっていうのは?
「タケヲちゃん」の中でズバリ言ってますけど「幸せってなんだろう」っていうようなことですね。場所が変わってもキャラが変わっても、出てくるのが妖怪でも人間でも、そこのテーマは変わらないというか。
──確かに、読者がとよ田さんの作品に惹かれるのもそこなんだと思います。一貫して、人にとって大切なものは何か?を問いかけているような。
「タケヲちゃん」のテーマは「幸せを知らない女の子が幸せになるまで」のお話なんです。だからそれ以外の妖怪屋敷とかそういう要素は、実は楽しく読んでもらうための“ガワ”というか(笑)。もちろんそういう部分も適当じゃいけないと思うのでいろいろ勉強して描きますし、それもぜんぜん楽しいですけどね。
自分の何かが欠落してる感覚がある
──「タケヲちゃん物怪録」は、主人公のタケヲちゃんが人間以上に人間らしい妖怪たちとの交流を通して、人間らしさに目覚めていくという物語ですよね。
僕、そういうロボットみたいな人間が感情を取り戻していく話っていうのがすごく好きなんですよ(笑)。なくしていたものをちょっとずつ取り返していくみたいな。そういう話になぜだか感動するんですね。
──それはどういう感情なんでしょうか。
なんなんですかね。僕自身「うまく大人になれなかったな」みたいな思いがあったりして。自分の何かが欠落してるっていう感覚が自分の中にあるんだと思います。そのぶん大人になってからいろいろ気づくことも多くて「今頃こんなことわかったよ!」みたいな(笑)。でもそれがうれしいんです。だからこの人たち(キャラクター)と一緒に僕も成長したいって思ってるのかもしれないですね。
──うーん、でもとよ田さんと今こうやってお話していると、とても快活でしっかりした方のようにお見受けするんですが。
あはは(笑)。全部鎧ですよ、そんなの。だから……どうなんだろうな。例えば星野くんにしてもタケヲちゃんにしても、すべてのキャラクターは僕のある側面を肥大化させたものなんだと思います。ないものは描けないですからね。
──確かに誰もがどこか欠けた部分を持っているのかもしれませんね。
でもなんかそういう人が時折見せる優しい表情とかにね、グッとくるわけですよ。「あ、今心開いてくれたの?」みたいな。でもよく見るとまた真顔に戻ってるっていう(笑)。そういう、ちょっと不器用な人が好きなんですよ。
──だから不器用でまっすぐで一生懸命な人が幸せになるお話を描くんですね。
そう、みんないろいろ傷つきながら大人になるわけで。だから大人になった今、「あのときもっとああしてればお前幸せになれたんだぞ」「おい、正解こっちだぞ!」って過去の自分に語りかけるような気持ちで描くこともありますね。そうすることによって過去の自分も救えるし、今現在同じことで悩んでる人も幸せになってくれたらうれしいなって。
タケヲちゃんに強敵出現……!?
少しずつ幸福を知り始めたタケヲちゃん。だけど臨海学校と聞けばトラブルの予感しかしない!!?
さらにタケヲちゃんを不幸にせんとする強敵も現れて……?
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直球すぎる、初々しすぎる少年少女の等身大ラブコメ!!
とよ田みのる(とよだみのる)
1971年生まれ。東京都出身。2000年に月刊アフタヌーン(講談社)の四季賞にて佳作、2002年に同賞にて大賞を受賞。2003年に初の連載作品「ラブロマ」を開始した。代表作に「FLIP-FLAP」「友達100人できるかな」など。ゲッサン2012年1月号にて「タケヲちゃん物怪録」を連載開始。