コミックナタリー Power Push - 松本大洋 / Sunny

祝IKKI10周年、看板作家5年ぶりの帰還

松本大洋が月刊IKKIに帰ってくる。5年ぶりとなるオリジナル新連載「Sunny」をひっさげて。前作「ナンバーファイブ」の完結から、待ちに待ったというファンも多いことだろう。同誌の生誕10周年記念連載を謳った新作発表は、瞬く間に大きな反響を呼んだ。

コミックナタリーでは、大洋にこの新連載への意気込みを聞くべく、月刊IKKI編集長・江上英樹との対談をセッティング。IKKIの成り立ちと今後の展開、そして気になる新作「Sunny」について語ってもらった。作品の原風景から大洋の生い立ちにまで迫る、貴重な対談をお届けする。

取材・文/淵上龍一 撮影・編集/唐木元

 
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IKKIという雑誌は松本大洋ありきで誕生した

──まずはIKKI10周年おめでとうございます。IKKIを誕生から支えた重要作家・松本大洋さんも新連載「Sunny」を引っさげ戻ってくるということで、大きな反響を呼びそうですね。

江上英樹(以下、江上) まったくありがたいことです。IKKIがスタートするときは、描いてほしい作家さんを口説きに行くとき「5号くらいで終わるかもしれないけど、いいすか?」と言ってたのに、もう10年。

インタビュー写真

松本大洋(以下、大洋) 僕自身にIKKIを支えた、という思いはあまりないんですけど。でも改めて1号目を見返すと、ずいぶん大事にしてもらっていたんだなと思いますね。

──1号目の巻頭カラーはもちろん大洋さんだし、直筆サイン入り複製原画の通販までやってます。その通販の煽りもまたすごくて、「20世紀最後で最大の事件」。ずいぶん熱が入った文章ですね。

江上 その文章を書いたの、俺ですね。そもそもIKKIという雑誌は松本大洋という作家ありきで企画がスタートしたこともあり、さすが1号目は盛り上がってるな(笑)。

──大洋さんありきでスタートした、というのは。

江上 当時の大洋さんは週刊ペースで作品を量産することに限界を感じていて、新しい発表の場を求めていた感じがありました。同時期に僕は週刊ビッグコミックスピリッツの編集をしていたんですが、そういった週刊誌向きではない作家の方々に強く惹かれるところがあって。大洋さんをはじめとした、こだわり派の作家が活躍する場を作りたかったんですね。

大洋 アシスタントさんを何人か入れて、ある程度システマチックにできる人なら週刊連載もありかもしれないけど。僕みたいに背景からモブから何でも自分でやりたいようなタイプが週刊をやると、眠る時間も、コーヒーを飲んだカップを洗う暇もない生活になっちゃって。そういうこともあって「ピンポン」終了後に、全編描き下ろしの「GOGOモンスター」に挑戦しました。

──描き下ろしなら締め切りがないから、自由に描けるだろうと。

IKKI第1号

大洋 始める前、ベテランの作家さんには「締め切りがないのもキツいよ」と言われてたのだけど、自分はマンガを描くの好きだし、放っておいてもサボるようなことはないだろう、楽勝楽勝、って思ってたんです。ところが、あの、締め切りがないって思いのほかキツいもので(笑)。

江上 大洋さんの場合は、時間をかけられるのが逆に仇となったというかね。半分くらい出来上がったところで、全部最初からやり直したい衝動に駆られたりしてたよね。

大洋 どこにも発表せず自分だけで10回も20回も読み返していると、何が面白いかわからなくなってくるんです。それで結局1冊作るのに3年もかかってしまい、これでは描き下ろしもダメだということになり。そこで江上さんがIKKIを作るからと声をかけてくれたんですよ。

ショートしかいない野球チームみたいだった

──そのIKKIで大洋さんは「ナンバーファイブ」を自己最長の5年間連載。しかし、連載終了後は活動の場をスピリッツに戻して、以降5年間、IKKIとは距離を置いていました。これはなぜ?

大洋 「ナンバーファイブ」でシナリオ疲れしたところがあったので、次はお話を人に任せてマンガの演出や絵だけを楽しく描きたかったんです。それが永福一成さんに原作を頼んだ「竹光侍」で。IKKIから少し距離を置いたのは、単純に「竹光侍」で手いっぱいだったからですけど、雑誌をひとつのチームとして見たとき、自分と他の作家さんたちの担当してるポジションがかぶっている気がしたのもあるかなあ。

江上 この野球チーム、なんかショートばっかいるなあ、みたいな?

大洋 (チームIKKIは)「ノック練習するからポジションに着けー」って言うと、ショートにばかりずらーっと人が並んでるんですよ。これじゃピッチャーもキャッチャーもいねえじゃねえか、って。その点、スピリッツにいるとあんまし可愛がってはもらえないんだけど、みんな各々のポジションを持っている気がして。俺のポジションは全然人気ないんだけど、だからこそ逆に役割もあると思うし。

インタビュー写真

──でもチームIKKIにとっては、大洋選手に電撃移籍されたようなものですよね。新たなエースの育成など、なかなか厳しい5年間だったのじゃないでしょうか。

江上 やはり厳しかったですよ。残ったメンバーも皆ショートだし(笑)。

大洋 でも「ナンバーファイブ」の担当だった堀さんがスピリッツに移動になったとき、「そろそろ大洋さんを堀に返さなきゃね」って、江上さん言いましたよね。それ聞いて俺、「そっか、俺は堀さんから江上さんに貸し出されてたのか」って思ったんですよ(笑)。

江上 え、俺そんなこと言った!? そういう心ないひと言が大洋さんを5年間もIKKIから遠ざけてたのだとしたら……傷つけてゴメンね(笑)。IKKI読者の皆さんにもお詫びします!

「月刊IKKI 2011年2月号」 / 2010年12月25日発売 / 特別定価550円(税込) / 小学館

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月刊IKKI 2011年2月号ラインナップ

松本大洋「Sunny」/スエカネクミコ「放課後のカリスマ」/柴本翔「ツノウサギ」/土屋雄民「ガギグゲキッコ」/とんだばやしロンゲ「ぼくはツアコン」/道満晴明「ニッケルオデオン」/きづきあきら&サトウナンキ「セックスなんか興味ない」/芳崎せいむ「金魚屋古書店」/パンチョ近藤「ボブとゆかいな仲間たち2010」/長橋貴弘「第47回イキマン受賞作『青と鳥』」/中央ヤンボル「くま夫婦」/中村珍「羣青」/岩岡ヒサエ「土星マンション」/中川いさみ「ストラト!」/林田球「ドロヘドロ」/いがらしみきお「I(アイ)」

「Sunny」作品紹介

「こうして目ぇつぶって行きたい所思うてみ。どこにかって好きな所行かれんで」星の子学園──ここで、親と離れて暮らす少年少女たち。昨日も明日もなく、今日だけが彼らの全部だった。そんな時代が奏でる陽光の物語。Sunnyはいつも其処に……。

松本大洋(まつもとたいよう)

松本大洋

1967年東京都出身。1988年に月刊アフタヌーンの四季賞にて「STRAIGHT」が入選し、同作がモーニング(ともに講談社)に掲載されデビュー。代表作に「鉄コン筋クリート」「ピンポン」「ナンバーファイブ」や、友人の永福一世に原作を依頼した「竹光侍」などを持つ。2010年12月から、月刊IKKI(小学館)にて自身の少年期を題材にした「Sunny」をスタート。

江上英樹(えがみひでき)

江上英樹

1958年神奈川県横浜市出身。週刊ビッグコミックスピリッツの編集者を経て、2000年に同誌増刊IKKIを立ち上げ。2003年にIKKIが月刊誌として独立創刊。松本大洋の担当編集者であり、月刊IKKI編集長。