コミックナタリー Power Push - 松本大洋 / Sunny

祝IKKI10周年、看板作家5年ぶりの帰還

作家がここ一番をみせる舞台になりたい

──10周年に、松本大洋というエースの帰還。まさにターニングポイントを迎えたIKKIですが、今後の展望は。

インタビュー写真

江上 マンガ界そのものが激動期を迎えているわけで、「これだっ!」と断言するのは非常に難しい状況にありますが、やはり1つは電子書籍ですよね。先ごろ「ナンバーファイブ」の電子版をリリースしたんですが、これは英語と日本語の2カ国語入りになっていて。電子の一番の強みは、世界と繋がることだと思うんですよ。まだ見ぬ60何億という世界の人々に、松本大洋とIKKIを知ってもらえたらと思いますね。

大洋 僕はパソコンもiPadも持っていないんですが、江上さんが近くにいるおかげで最近は電子書籍のことばかり考えていて。描き手も電子書籍に合わせたやり方に変えたほうがいいんじゃないか、雑誌の電子化をやるなら同じサイズのiPadが出ないとダメじゃないかとか。

江上 それに、何もモニターで見るばかりが電子書籍じゃないですよ。まったくの空想ですが、いずれはネットでつながったオンデマンド印刷機みたいなのが世界中に置かれて、どこの国でも、その国の言葉で翻訳されたIKKIを同日出版できるような日が来るかもしれない。地球の裏側で、ジャパンのIKKIってMANGAがCOOLだ!ってなるんです。想像力をかきたてられた子供が、棒とか使って村の地面にマンガ描いてさ。いずれIKKIに投稿してくるんです。そんな世界中と結びつきたいって気持ちが電子版「ナンバーファイブ」には込められてます。

──先ほど電子化に合わせたやり方が必要とおっしゃってましたが、そこでIKKIのラインナップが変わるとは思いますか。

江上 大きくは変わらないと思いますね。もちろん今の状態がベストというつもりもなく、常にもっとすごいものにしたいという気持ちはありますが。このレーベル感みたいなものは絶対に残したいですよね。

──IKKIのレーベル感って、なんだと思います?

インタビュー写真

江上 ひと言で上手く言えないけど、あると思うんですよ、レーベル感。奇しくも大洋さんが少年期の落とし前を「Sunny」で描いてくれるように、いがらしみきおさんも「I(アイ)」という作品で自分の分身を題材にしたストーリーを連載中です。マンガ家として死ぬまでに絶対描いておきたいものがある、それをIKKIで描きたいと言ってくださって。その作家の人生にとって大事な1作を描きたいと思ってくれる場所。10年かけて、IKKIがそんなレーベルになっているとしたら、すごく嬉しいですね。

──10周年を迎えて、ますます盛り上がるIKKIの今後が楽しみです。

江上 「海獣の子供」の新章もスタートするので、個人的には大洋さんと五十嵐大介さんが誌面に揃うのも楽しみですね。今まで同時掲載はなかったので。

大洋 始めてみたら、「あー、またこのポジションかよ」と思って、すぐスピリッツに戻りたくなるかもしれないけど。しばらくはショートのポジション争い、がんばります(笑)。

「Sunny」生描き動画

月刊IKKI2011年2月号発売の12月25日から、「Sunny」の連載スタートを記念して同作の巨大パネルがSHIBUYA TSUTAYAに出現。パネルに入ったサインは今回のインタビュー中に描かれたものだ。ここに大洋の貴重な執筆風景を公開する。

「月刊IKKI 2011年2月号」 / 2010年12月25日発売 / 特別定価550円(税込) / 小学館

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月刊IKKI 2011年2月号ラインナップ

松本大洋「Sunny」/スエカネクミコ「放課後のカリスマ」/柴本翔「ツノウサギ」/土屋雄民「ガギグゲキッコ」/とんだばやしロンゲ「ぼくはツアコン」/道満晴明「ニッケルオデオン」/きづきあきら&サトウナンキ「セックスなんか興味ない」/芳崎せいむ「金魚屋古書店」/パンチョ近藤「ボブとゆかいな仲間たち2010」/長橋貴弘「第47回イキマン受賞作『青と鳥』」/中央ヤンボル「くま夫婦」/中村珍「羣青」/岩岡ヒサエ「土星マンション」/中川いさみ「ストラト!」/林田球「ドロヘドロ」/いがらしみきお「I(アイ)」

「Sunny」作品紹介

「こうして目ぇつぶって行きたい所思うてみ。どこにかって好きな所行かれんで」星の子学園──ここで、親と離れて暮らす少年少女たち。昨日も明日もなく、今日だけが彼らの全部だった。そんな時代が奏でる陽光の物語。Sunnyはいつも其処に……。

松本大洋(まつもとたいよう)

松本大洋

1967年東京都出身。1988年に月刊アフタヌーンの四季賞にて「STRAIGHT」が入選し、同作がモーニング(ともに講談社)に掲載されデビュー。代表作に「鉄コン筋クリート」「ピンポン」「ナンバーファイブ」や、友人の永福一成に原作を依頼した「竹光侍」などを持つ。2010年12月から、月刊IKKI(小学館)にて自身の少年期を題材にした「Sunny」をスタート。

江上英樹(えがみひでき)

江上英樹

1958年神奈川県横浜市出身。週刊ビッグコミックスピリッツの編集者を経て、2000年に同誌増刊IKKIを立ち上げ。2003年にIKKIが月刊誌として独立創刊。松本大洋の担当編集者であり、月刊IKKI編集長。