コミックナタリー PowerPush - るーみっくわーるど35~SHOW TIME & ALL STAR~

全作品のカラー画集&圧倒的データ量の大事典! 自宅訪問、35年の軌跡追うロングインタビュー

高橋留美子画業35周年インタビュー

登場人物にはみんなハッピーであってほしい

──画業35周年、おめでとうございます。あらためて35年間マンガを描き続けてきたことに、どんな感慨をお持ちですか?

う~ん、35年……あっという間でしたね。

──過去のご自身の作品を振り返って読むことはあるのでしょうか。

それが、ほとんどないんですよ。完結した後も読み返したりしないほうで。連載中の作品を、エピソードや話の流れを確認するために読むことはありますけど。あ、でも若い頃は、とにかく単行本が出るとうれしくて何度も読んでたな。

──「うる星やつら」や「めぞん一刻」の頃ですか?

そうです。完全に読者目線で楽しく読んでました(笑)。

高橋留美子

──今回発売されるスペシャルBOXには、これまでの作品に出てくるキャラクターやアイテム、地名などを網羅した大事典「ALL STAR」が収録されています。久しぶりに顔を見たキャラクターもいたのでは?

そうなんですけど、しばらく読まずにいても忘れてはいないものですね。やっぱり自分が生み出したものだからかな。「ALL STAR」は、ものすごく膨大な大事典になったんですよ。読み通すとなると、小説1冊くらいのボリュームはあります。

──カラーイラストをまとめた画集「SHOW TIME」も豪華です!

我ながら、よくこれだけ描いたなあと。「うる星やつら」の連載当時、単行本のほかに「少年サンデーグラフィックうる星やつら」というムックが年に4、5回出ていまして。それに毎号、3、4枚のカラーイラストを描き下ろしていたんです。若かったですねえ……いまはとても無理(笑)。

──その頃の「うる星」や「めぞん」もずっと読み継がれていて、いま読み返しても古くないのがすごいです。

そう……なのかな? 自分としては、「うる星」の始めのほうは、セリフの言い回しなど、さすがに「ちょっと古いなあ」と思ってしまうところがあるんですけど。コメディの場合、どうしても当時の流行語が出てきたりするから。ディスコが出てきたりね……今の読者、ディスコってわからないよね?

──言葉はどうしても移ろいゆくかもしれないですが、でもギャグのスピード感やテンションはまったく古びてないですよ。

大事典「ALL STAR」には、るーみっくわーるどに登場したキャラクターや地名などが網羅されている。

まあ古い作品にしては、ちゃんとノリツッコミをやってるなあ、と思いはします。当時はそんな言葉があるのも知らなかったけどね(笑)。

──ご自分ではマンガを描くにあたって、変わらないところはありますか。

やっぱり、楽しさを第一にするところかな。読んだら楽しくなるマンガ、それがずっと私の基本なんですね。人生楽しいことばかりじゃないし、それは子供だって(同じ)。でもそれを読んでる時間だけは楽しくいられるというのが、私にとってのマンガというものなんです。だから登場人物みんながそれぞれハッピーであることを心がけていて。シリアスものだとそうはいかない場合もあるんだけれども……、でも、たとえば死んでしまうキャラだとしても、何かその人のための花道を作れたらなと。そういうことを考えながら描いてきたのかな。

キャラクターが原稿用紙の上で絡んで初めて、その性格がわかる

──「うる星」「らんま1/2」のようなコメディにしても、大きいうねりのあるストーリーが用意されていて、キャラクターの生き方が提示されていますよね。

「らんま」の場合は、本当は最初からもっと大きい流れのドラマを作れと編集さんには言われてたんです。でも……できないものはできませんので(笑)。なんとか最後のほうに集約した形になったんですけど。

──編集さんからのそういう要求を受けて、「犬夜叉」のような大河ドラマが生まれたのですか?

高橋留美子

あ、それはまた別で。「犬夜叉」はシリアスな冒険活劇をやってみたいという思いから始まりました。

──昔から構想を温めていた?

いえ、そういうわけではないんですけど。私、新連載は、ひとつ(連載が)終わってその場になってから考えるほうなんです。「うる星」「らんま」と1話完結・ショートストーリーのものが続いたので、次はスケールの大きい大河ドラマも面白いなあ、自分でも描いてみたいなあと……そういう単純な憧れが募ったからですね。それでまた「犬夜叉」が完結したところで、今度はじゃあ原点に返ってもう1回コメディに挑戦してみようかと、「境界のRINNE」を始めたわけです。

──「境界のRINNE」は当初シリアスな感じかと思いきや、あれだけカッコいいりんねがお金に困っているというギャップがたまりません。

私、どうも、もともと貧乏ネタが好きみたい(笑)。「めぞん」の五代くんといい、「うる星」の竜之介といい。楽しく描いてます!

──マンガ家さんはよくネタ帳にアイディアをストックして、新連載に備えると聞きますが。

それ、やらないんですよねえ……。そもそも、描き始めるとどんどん変わっていってしまうので、構想を作りこんでおいても実際には使えなくなってしまうのがわかってるから。たとえば「めぞん」がまさにそう。連載を始める前に、キャラクターデザインやストーリーを作って、編集さんにOKをもらっていたのに、1話目を描き始めてみたら、それまで話していた内容が吹き飛んでしまったんです。別の路線が見えたら、もうそこに乗っかってっちゃうしかない。

──もともとは、どういうお話になるはずだったんですか?

「SHOW TIME」に収録されている「めぞん一刻」のカラーカット。連載前は恋愛色よりも、アパートに住む人々にスポットを当てた群像劇が予定されていたという。

当初はもっとアパートに住む人たちの群像劇みたいなものにするはずで。それが、1話目を描いたら、不思議と恋愛色が強く出てきてしまい……。

──いわゆる「キャラクターが勝手に動く」ということなのでしょうか。

自分が作ったキャラクターなんですけどね、原稿用紙の上で顔を見て、初めて、その人がわかってくるんです。ああ、こういう人だったのか。こういうことを感じてるのか、と。キャラクター同士が絡んで初めてわかるんですよ。1人ひとりのキャラ単体を作った時点では完成してないってことなのかな。キャラクター同士が出会ってしゃべっているうちに、それぞれ自己主張が出てくる。それに説得される形で、ストーリーの方向性も変わっていったんです。

──キャラたちがどんどんしゃべり出して、ストーリーを振り回していくんですね。

そうですねえ。「らんま」の九能なんかも、自分で描きながら「なんでこの人はこうなんだろう!?」「本当についていけない~!」と思いながら描いていましたね。

「るーみっくわーるど35~SHOW TIME&ALL STAR~」 / 2013年6月18日 / 9800円 / 小学館
>「るーみっくわーるど35~SHOW TIME&ALL STAR~」

高橋留美子画業35周年記念のスペシャルBOX。全作品のイラスト集「SHOW TIME」、大事典「ALL STAR」、未収録作品「MOON大ペット王」を各冊ハードケースに収め、まとめあげた決定版!5月31日までに予約をした人には限定特典、描き下ろしイラスト切手2枚組付き。

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高橋留美子(たかはしるみこ)

高橋留美子

1957年10月10日新潟県生まれ。日本女子大学卒業。大学在学中の1978年に「勝手なやつら」で第2回小学館新人コミック大賞少年部門佳作を受賞し、同作が週刊少年サンデー(小学館)に掲載されデビューとなった。同年、同誌にて連載を開始した「うる星やつら」で、1981年に第26回小学館漫画賞、1987年には第18回星雲賞コミック部門を受賞。同作はテレビアニメ化もされ大ヒット、ヒロイン「ラムちゃん」は時代を超えて愛され続ける人気キャラクターとなった。また、劇場版となる「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」は押井守監督の出世作としても高い知名度を誇る。以降も「めぞん一刻」「らんま1/2」など歴史に残る人気作を数多く生み出し、代表作の殆どが映像化され、いずれも不動のヒットを記録している。2002年、「犬夜叉」にて第47回小学館漫画賞少年部門を受賞した。2009年より最新作「境界のRINNE」を執筆中。