コミックナタリー Power Push - 「昭和元禄落語心中」
落語はハードルが高いのか?雲田はるこ(作者)・小林ゆう(小夏役)・立川志ら乃(落語家)が読者を落語沼へ誘う
関さんには天性のフラがある(志ら乃)
──与太郎役の関智一さんは、なんと志ら乃師匠のお弟子さんだそうで。
志ら乃 2014年の4月に関さんと一緒にトークショーをやって、盛り上がったんです。ちょうど女子プロレスラーの華名(現・ASUKA)さんを弟子にした頃で、関さんにも「弟子にならない?」ってシャレで言ったら「なるなるなる、なるー!」って。
雲田 与太ちゃんみたいですね(笑)。
小林 本当に(笑)。
志ら乃 リップサービスだと思ってたんだけど、その日のうちに「立川志ら乃の弟子になる」って関さんの公式Twitterに投稿されてた。で、その後しばらくしてアニメ「落語心中」の主役と聞いてびっくり! 弟子入りのことを知って選ばれたのかと思ったら、アニメスタッフは全然知らなかったという(笑)。関さんは落語のシーンを絶対やるだろうから、落語家が聞いても「これは落語だね」と言わせたいと思いました。
雲田 石田さんも山寺さんもおっしゃっていたんですけど、声優さんは落語シーンを“演じて”しまうから、それを殺さなければいけないことにすごく苦心されてるようです。
志ら乃 その通り、落語は演じないんですよ。いや、演じはするんだけど、役者さんの演じ方とはアプローチの仕方が違う。落語は歌とほぼ同じなんです。このキャラの気持ちでこのセリフを言って……ではなく、リズムとメロディがあって、サビがある。関さんにはそれを繰り返して言いました。
雲田 それが聞いていて気持ちがいい落語に繋がってくるんですね。
──「与太郎放浪篇」では与太郎が「出来心」を高座でかけましたが、お聞きになっていかがでしたか?
志ら乃 「与太郎放浪篇」はまだちょっと演じてる。でもそれは、作品として演じてくれというオーダーに応えているからなんです。去年の11月に落語会を一緒にやったときはもう完全に落語の調子でした。うちの前座が関さんの落語を聞いて衝撃を受けてましたよ。それに与太郎はフラ(持って生まれた独特のおかしみ)があると八雲が言っていましたが、関さんもまさにそう。天性のものってこういうことなんだと思いました。
アニメを観ていると、いい落語を聞いたときのように気持ちいい(雲田)
──先ほど「落語はリズムとメロディ」とおっしゃっていましたが、マンガではどう表現されているんですか?
雲田 マンガだとコマやフキダシの大きさ、形、位置などで、声のメリハリをお伝えできるんです。それからフォントではなく文字を手書きして大きさのバランスをとることでも、リズムを出せるんじゃないかと思っています。文字を大きく強く書けば、一目でそこは強調されたセリフだと伝わりますし。
志ら乃 伝わってきます。落語は筋(フシ)なんですよ。例えば「死神」の筋は決まっているけど、落語家によってリズムとメロディが違う。落語のリズムは、そういう手法じゃないと表現できないと思いますね。
小林 先生の手書き文字はすごく味わい深いです。
雲田 ありがとうございます。初めて「落語ってこう描けばいいんだ」と自分で掴めた落語シーンは、2巻の「八雲と助六篇」で助六がやった「夢金」。自分の見たいシーンだけを選んで描くという方法から、噺のあらすじが伝わるように描くようにしました。そうすると「本物の落語を見てみたい」と思ってもらえるかなと思ったんです。その頃からページが増えて、落語シーンをじっくり描けるようになったという事情もあるんですが。落語シーンを読み飛ばしているという落語をご存じない読者さんの声を聞いて、読んでいただくにはどうしたらいいんだろうと、今も試行錯誤中です。
小林 単行本の巻末とか手書きのページとか、随所に先生の「初心者の方でも安心して楽しめるんだよ」という落語愛を感じます。アニメの「八雲と助六篇」もスタッフの皆様とキャストの皆様が一丸となって試行錯誤を重ねた情熱溢れる作品なので、ぜひ1人でも多くの方にご覧になっていただけたらうれしいです。雲田先生の考えた粋で印象的なセリフの数々を、小夏さんとして演じさせていただくのは本当に幸せでした。ろうにゃくにゃんにょ(老若男女)……ちょっと言えませんでしたけど、すべての方に楽しんでいただけるアニメです。
雲田 (笑)。そうですね、私もアニメを観ていて、いい落語を聞いたときのように気持ちがよくなりました。
──ありがとうございました。
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- 1巻 / 607円
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雲田はるこ(クモタハルコ)
2009年に東京漫画社から発売された「窓辺の君」で商業デビュー。以降、BE・BOY GOLD(リブレ出版)などBL誌を中心に活躍する。2010年、ITAN(講談社)にて連載を開始した初の非BL作品「昭和元禄落語心中」では、「このマンガがすごい!2012」オンナ編第2位を獲得した。
小林ゆう(コバヤシユウ)
「まりあ†ほりっく」の衹堂鞠也(しどうまりや)役でブレイク。元気な少年から可憐な少女、外人、変態、正体不明の宇宙人まで幅広い役をこなす実力派。落語CD「モエオチ」も発売しており、定期的に独演会を開催している。
立川志ら乃(タテカワシラノ)
落語立川流の真打ち。大学在学中より立川志らくの主催する落語塾「らく塾」で学び、卒業と同時に入門。2005年にNHK新人演芸大賞で大賞を受賞し、2012年に真打ち昇進。著書に「談志亡き後の真打ち」「うじうじ」など。