コミックナタリー PowerPush - マダム・プティ

16歳の未亡人、波乱の旅路はオリエント急行からパリへ 新天地で生まれた高尾滋の新たな魅力

時は1920年代末、オリエント急行に乗車した16歳の万里子を待ち受けていたのは、大きな波乱含みの旅路だった……。「マダム・プティ」は、花とゆめで活躍してきた高尾滋が、執筆の場を別冊花とゆめ(ともに白泉社)に移して連載する初めての作品だ。

コミックナタリーでは単行本2巻が発売された機に、高尾を直撃。新たなフィールドで連載するにあたっての変化や、作品に込めた思いを尋ねた。作画に使用されている資料と、貴重な仕事場の写真も併せてお楽しみいただきたい。

取材・文/岸野恵加

オリエント急行の乗客たち

絢爛豪華なオリエント急行で、万里子は個性豊かな乗客たちと出会う。しかし翌朝、夫・俊の客室で異変が起きていた。

万里子
主人公。乗馬、外国語が堪能な16歳。父の借金を肩代わりするため、俊のもとに嫁ぐ。俊のことを一途に想っている。
青山俊
万里子の30歳年上の夫。実業家。万里子を連れ、新婚旅行でパリに向かう。
ニーラム
尊大な態度のインド人青年。オリエント急行で万里子と出会い、やたらと彼女のことを気にかける。
エドワード
俊の仕事仲間。英国出身。
ヴィクター / アリス
英国軍少佐と、その妹。俊の友人。
エミール / レティシア
仏外交官と、その妻。俊の友人。
アルトマン子爵夫人
俊の友人。万里子のことをあまりよく思っていない。

高尾滋インタビュー

最初はコミックス1巻分で終わらせる予定だった

──「マダム・プティ」は久々の異国ものですね。ヨーロッパ取材には行かれたんですか?

行ってないです。すごく行きたいです。

──舞台はアール・デコ華やかな1920年代末。絢爛豪華な背景や小道具など描くのが大変そうです。

「マダム・プティ」カット

そうですね。でも時代の空気感をなるべく忠実に描きたいという気持ちで連載を始めました。だから背景はできるだけ緻密に、部屋の飾り模様や調度品など、細部までできる限りはしょらないように……。パッと見の印象を優先してアレンジを加えることはもちろんありますけど、オリエント急行に関しても、できる限り資料と照らし合わせています。

──オリエント急行といえばアガサ・クリスティ「オリエント急行の殺人」を思い出してしまうのですが、物語もだんだんミステリになってきていますね。もともとミステリをやろうというお気持ちで始められたのですか。

いえいえ。私、ミステリを読むのは大好きなんですけど、トリックを考えたりはできないので……、そんなことをおっしゃっていただくと、ミステリを描かれている人に申し訳ないです。もともとの着想は、「16歳の女の子が未亡人」っていう設定ですね。これは結構前から温めていました。

──「未亡人は16歳」って、なかなかハードな話になりそうですが(笑)。

なんかキャッチーかなと思って(笑)。でも、どうストーリーを膨らませたらいいか、思いつかなくて悩んでたんですね。そしたらたまたま本屋さんで買ったデアゴスティーニの「(名探偵)ポワロ」シリーズの1冊目がとっても面白くて、DVD-BOXから映画の「オリエント急行殺人事件」まで一気に観たんです。それでオリエント急行っていう舞台が、未亡人のアイデアとうまく合体するんじゃないかと思って。旦那さんがいなくなるまでをコミックス1巻分くらいに収められそうだな、と。

──え、最初は1冊で完結の予定だったんですか。

ええ、オリエント急行の話だけで終わらせるつもりでした。編集の方には1話目のネームを出した段階ですでに「2巻以上とか考えてもいいよ」て言ってもらってたんですけど。まあとりあえず様子を見ましょうよ、と相談しながら……。

──単行本の柱でも書かれてますが、「オリエント急行殺人事件」へのオマージュが随所に登場しますね。

映画「オリエント急行殺人事件」にも登場する、雪で列車が立ち往生してしまうシーン。

はい。映画版で出発時に乗務員さんが食料を点検している描写とか、トルコから出発した列車が雪で立ち往生するエピソードなど。雪のシーンは、ディテールを突き合わせるのが結構大変でした。あの頃のオリエント急行って蒸気機関車なので、止まったらどのくらい燃料が持つんだろうとか、ぜんぜんわからなくて。実際に起きた事故では、10日以上雪で列車が動かなかったそうなんですよ。でもユーゴスラビアだと夜中は零下10度とか20度らしく、暖房も使えなくなるのかな……? 食料は? とか、調べ始めると収拾がつかなくて。

──きっちり描いていたら、サバイバルマンガになってしまいますしね。

そうそう(笑)。なので鉄道に詳しい方のお話を聞いたりして、とりあえず燃料がもっている間に事件を解決しようということになり、3泊4日くらいの尺に収めることにしたんです。

高尾滋「マダム・プティ(2)」 /発売日 / 000円 / 出版社
高尾滋「マダム・プティ(2)」
あらすじ

時は1920年代。16歳の万里子は新婚の夫である俊とイスタンブールからオリエント急行の旅に出る。俊は万里子の亡父の友人で、30歳ほどの年の差があったが、幼い頃から俊に憧れていた万里子は彼の良き妻になろうと決意する。車中は国際色豊かな乗客で溢れ、万里子は初めてのことばかり。尊大な態度のインド人青年・ニーラムとは微妙な軋轢(!?)も……。だが、翌朝、俊が客室で死亡していた!

高尾滋(たかおしげる)
高尾滋

2月15日埼玉県生まれ。1995年、「人形芝居」が第240回花とゆめまんが家コースHMCで1位にあたる優秀賞を受賞。その後、1996年に「写絵(しゃかい)」が第28回花とゆめビッグチャレンジ賞準入選+編集長期待賞を受賞し、同年花とゆめ13号(白泉社)に「不思議図書館」が掲載されデビュー。1998年、優秀な新人に贈られる第23回白泉社アテナ新人大賞デビュー優秀者賞を「人形芝居」で受賞し、期待の新人として注目を集める。叙情的なストーリーと緊張感漂うセリフ回しが特徴的で、2000年には「ディア マイン」を花とゆめにてスタートさせた。その他の代表作に、旧家のお姫様と彼女を守る忍者の少年の恋を描いた「てるてる×少年」、大正時代にタイムスリップしてしまった男子高校生が主人公の「ゴールデン・デイズ」などがある。 現在は別冊花とゆめ(白泉社)にて「マダム・プティ」を連載中。