コミックナタリー Power Push - 松本テマリ&芝村裕吏「キュビズム・ラブ」

前代未聞の「箱」ヒロインを生んだ 原作者と作画者が語るコミカライズの裏側

世界一感情表現の激しい箱を描く覚悟

──脚本を絵にするとき、ほかにはどんな工夫がありますか?

松本 うーん、工夫というか、逆になるべく最初に脚本から受け取った印象をそのまま出すようにしています。ト書き部分はセリフには表せないので、なるべく脚本が過不足なく表現できるように。

──それは登場人物の衣装であったり、背景であったり?

松本 いちばん見せようと思っているのは、やはり表情や目線ですかね。ほぼ箱と篠田先生のやり取りだけで進んでいくお話なので……。

篠田先生に接近されて照れるノリコ。まわりには花が。

──箱の表情を出すのは、とても難易度が高そうですね。

芝村 これが映像作品だったらライティングなどでどうとでもなるんですけど、マンガはそれができないので。マンガがいちばん向いてない表現ジャンルなのに、テマリさんは見事に表現してきてくれたので、すごいですね。

松本 最近は、例えば泣き顔した女の子がここにいるんだって自分で思い込みながら箱を描くことにしてます。あとヒロインが箱だと少女マンガにしては華がないなーと思って、花を散らしてみたり。

芝村 文字どおり、花を。

編集部が制作した等身大ノリコ。言わば1/1フィギュアだ。

松本 あとデッサン的な問題で言うと、立方体を描くこと自体が難しいですね。編集部が制作してくれた等身大ノリコちゃん、資料としてうちに欲しいくらいです(笑)。

──立方体が難しいというのは?

松本 幾何学的な図形って、歪んでるとひと目でわかっちゃうんですよ。

芝村 人物って絵にするとき誇張を入れるものですが、隣に幾何学的な対象物があると急にデフォルメが難しくなるんですね。

松本 普通ならキャラクターを入れて、表情で見せるはずのコマにポンと箱だけ描いてると、私何描いてるんだろう?って思うときはありますけどね。

窓の外から覗き込まれるノリコ。箱なのに、とても寂しそうに見える。

芝村 ですよねー。それを聞いて安心しました。淡々と絵にしてくださるから、なんか不安だったんですよ(笑)。でも、お話が進むにつれて、どんどん箱の見せ方に工夫が凝らされていってますよね。箱とベッドだけを窓の外から描いて、すごく寂しそうに見せるとか。これぞ言ってみりゃ箱芸というか(笑)。

松本 まあでも最初のプロットをもらったときに、これは世界一感情表現が激しい箱を描かなきゃいけないんだって思ったので、覚悟はできてましたけど。

芝村 「感情表現の激しい箱」って(笑)。

セリフがそのまま出るのは、テマリさんの手腕

──しゃべってるときに限れば、フキダシでもある程度箱の感情表現ができますよね。

松本 そうですね。元気良さそうなフキダシの形にしたり。

──セリフは芝村さんが考えたセリフそのままでしょうか?

松本 ほぼそのままですね。

芝村 でも、僕の書いたセリフがそのまま世に出るのって、テマリさんと組んでるときだけじゃないかな。ほかの作品だと結構変更が出ますよ。大ゴマにしたいから少し省きたいとか、入りきらないからもう1回セリフを作ってもらっていいですか、っていうオーダーを受けたりもします。でも、テマリさんの場合は渡したテキストそのままなのですごく怖い。それはもう、テマリさんの手腕というか。

ノリコのモノローグ。

松本 怖いですか、すみません(笑)。でもノリコちゃんの独白的なところだけは、ほんの少し変えて出してたりもします。ト書きの文章だけだとわかりづらいところもあるので。確かそこだけですね。

──そういったところは、やはりお会いして打ち合わせされるんですか?

松本 たまにお会いしたりはしますけど、基本的にはメールのやり取りですよ。

芝村 どんな人とお仕事するときも、いちばん大変なのって序盤で。連載開始の3カ月前あたりがいちばん入念に打ち合わせしますね。連載が安定して6カ月あたりを超えると、言わずともわかってくれるフィーリングみたいなものが生まれます。でも、もともとテマリさんとはそれ以前に付き合いがあったので、最初の3カ月も割とスムーズに。この人はこういうことが描けるだろうとか、無茶振りはこれくらいまで大丈夫だろう、というのがわかっていたので。

松本 元々は私が芝村さんのファンだったので、以前から交流はあったんです。お仕事でご一緒するのは今回が初めてですが。

松本テマリ 原作:芝村裕吏 / 「キュビズム・ラブ」1巻 / 2011年6月1日発売 / 651円(税込) / エンターブレイン / B's-LOG COMICS

  • 「キュビズム・ラブ」1巻をAmazon.co.jpでチェック
  • Amazon.co.jp
あらすじ

陸上の試合に向かう途中で、事故にあったノリコ。目が覚めるとそこには、ノリコを心配そうに見つめる青年医師・篠田の姿があった。笑うと子供っぽくなる篠田に好感を持つノリコ。 だが、篠田の口から、衝撃の事実が伝えられる。事故に遭ったノリコは肉体を失い、小さな黒い箱に入った“脳”だけになってしまったのだと──!? 松本テマリ×芝村裕吏の豪華クリエイターがお贈りする、究極のピュアラブストーリー。

松本テマリ(まつもとてまり)

松本テマリ

4月8日生まれ。2000年12月に発売された「今日からマのつく自由業!」(著:喬林知、角川書店刊)に始まる「まるマ」シリーズの挿絵とコミカライズを担当。現在はコミックビーズログ キュン!(エンターブレイン)で「キュビズム・ラブ」を、月刊ASUKA(角川書店)で「今日からマのつく自由業!」を連載中。

芝村裕吏(しばむらゆうり)

4月30日生まれ。ゲームデザイナーにして原作者。「高機動幻想ガンパレード・マーチ」「絢爛舞踏祭」などのゲームを手がけ、高い評価を得る。現在はコミックビーズログ キュン!(エンターブレイン)で「キュビズム・ラブ」を、電撃マ王(アスキー・メディアワークス)で「ガンパレード・マーチ アナザー・プリンセス」を連載中。