コミックナタリー PowerPush -「コンクリート・レボルティオ」

氷川へきるの猛投を水島精二がキャッチ キャラクター原案と監督の理想的な関係

執事に見えないよう、警官だけど吉川晃司ぽい派手なスーツに

──3話から登場する柴来人は? 警視庁機動隊の刑事という役柄ですが。

氷川 「カッコいいキャラクター」ってご依頼でしたよね。

水島 爾朗も来人も熱血という点は同じなのだけど、立場の違いから見え方が異なる、って描写をしたいんだと説明しました。そしたら候補の中にクールなメガネくんがいて(笑)。

刑事・柴来人の設定画。

氷川 熱血の設定なのにメガネキャラを選んでいただけたのがうれしかったですね。

水島 相反する要素を合わせる面白さっていうのがあって。来人は2つの要素をすごくうまく形にしてもらえてるのがよかったなと。

氷川 こういうクールなメガネくんって見た目の印象が勝つじゃないですか。だから逆に面白いんですよね、共通認識を使って意外さを出せるので。

水島 見た目クールで年上なのに、なぜか爾朗といがみ合う感じが面白いよねって。その意味では想像の膨らむデザインになったと思います。実際は2人とも、熱血なのにナイーブだもの。

氷川 僕も途中からは第2の主人公ってくらいの思い入れでデザインしてました。今はド直球に「人気が出てほしい!」って思います。

水島 来人はアニメ史の枠からも本編からもはみ出たキャラクターになりましたね。でも、ほかと組み合わせて見ると腑に落ちるはず……。あと手袋の意味はあとでわかるんですが、女性には執事っぽく見えるらしいんですね。その印象を消すためにスーツの色は氷川さん案とは違う派手めの紫に変えています。

氷川 元はもっと黒っぽい色でしたよね。

水島 そう、それを吉川晃司ぽい派手さに(笑)。ただ警察の重みも大事なので浮かない程度のトーンには留めましたが。

氷川 公式サイト用のイラストは初期のカラーパレットで描いたんですが、本番を見たら全然違っててびっくりしました(笑)。

水島 先生方には各自でキャラクターに色を着けてもらっているので、どうしても並べて見たときに被りが出るんですね。そこを僕らで調整するんですが、来人はかなり変更が入ってしまって。当然先生方の意図は尊重するのですが、キャラ被りせず、背景にも埋没しないよう揃える必要がありますので、そこはもう僕が全責任を負う形でやっています。ちなみにキャラクターの色はカットごとに調整してるんですよ。

氷川がデザインした超人課の責任者・秋田大司。

──超人課の上司にあたる秋田大司はどうでしょう。

氷川 怖いマフィアだけど表ではニコニコしていて二面性があるな、と。それで怖さを突き詰めた結果、藤村俊二さんぽい表情になったんです。

水島 僕が軽い気持ちで「『SPEC』の竜雷太みたいな」って氷川さんに言ったので、すごく悩んでいたのを覚えてますよ。

氷川 最初はもう少しコミカルな感じでしたからね。でも、その後に要素をまとめて提出したら、事前に聞いてた諸々の展開がまるごとなくなってたのには驚きました。

水島 會川さんも変化する人だから仕方がなくてね。色と同じで、ストーリーにキャラをどう落とし込むかも任せてほしい、その責任は僕らで負いますからという関係性なんですね。いろいろ盛ってもらっても消化できないことは多いです。でも、その描写があったからこそ生まれる背景もあるし、絶対何かの形で生きてるんですよね。

氷川 確かにそうですね。

水島 會川さんの場合は、言うだけ言ってから自分の発言について思考を巡らせたり、人の意見を聞いて考え直したりという逡巡をした分だけできあがってくるものが面白くなる作家なんです。僕がやりたい展開を出すたびに、必ず遡って考えを巡らすから説得力がある話も出てくるし。

氷川 じゃ僕、意見として「第3のヒロインを出したいです!」と言っておきます。

いとうのいぢ原案の女性キャラクター・鬼野笑美。

水島 うーん、これから書くネームに入れられるかな……。

氷川 絵を描いて「どうですか?」って提案する形はどうですか。

水島 それいいね! 描いちゃって絵があれば、どっかで使ってくれそう。

氷川 そんな感じで虎視眈々とね(笑)。

水島 デザインは脚本に影響を与えますからね。

氷川 だからやりがいがすごくあります。

水島 氷川さんのデザインって「こう描けばいい」って要素がきちんと全部入ってるんですよ。この脚本でこのキャラクターなら表情や表現はこうだ、とか。1話では、制作を進める中で爾朗のストイックさがキャラ絵から見えてきたりね。

「さすがギャグマンガ家!」と唸ったビーンボール

──「デザインは脚本に影響を与える」とおっしゃいましたが、話作りにキャラクターのビジュアルが関わってくるんでしょうか?

「コンクリート・レボルティオ」場面写真。

水島 もちろん計算しますよ。キャラ作りの段階から「この見た目ならこのエピソードでもすんなり見てもらえるな」とか考えますから。そういう感性的な部分では、世代は僕が上ですが氷川さんとは面白いと感じるものが近いので楽ですね。絵コンテを描くうちに展開や小物が加わるときもあるし、キャラクターから材料をいただくときもありますし。

氷川 ああー。

水島 ざっくりすぎる依頼だけど大丈夫かな?って思っていても、きちんと完成されたものが来て驚くことがよくあるんです。保留にしていたキャラクターでも突然「イケる!」ってひらめく瞬間が僕の中に生まれたり。さっき話にでてきた第4話のヒロユキなんかはその代表で、悩んだけど形にでき、しかもその後の描写の幅を広げる存在になってくれたキャラクターです。だからほぼリテイクはないです。

氷川 と言いつつ1個だけダメ出しもありましたけど(笑)。

水島 ビーンボールを平気で投げてくれるのが氷川さんの良さで。変態すぎるものが来たらこっちはちゃんとダメっていうけど、面白い球をくれることはうれしいし期待してる。メインより面白い、1発で話題をさらいそうな強烈なキャラクターを描いてくれるから、さすがギャグマンガ家だなって感心します。

──キャラクターと世界観のバランスなどはどうお考えですか? 「コンレボ」は現実世界と異なる歴史を辿った“神化”という時代を舞台にしていますが。

舞台の美術ボードより「大ガード」を描いた1枚。国鉄新宿駅近く、線路で隔てられた東西を結ぶ道路交通の要所。その向こうには建築されたばかりの高層ビルが、ただひとつだけ見える。

水島 この歳になると「このバランスなら混乱せずに楽しんでもらえる」って黄金律が自分にできるんですよね。今回は絵柄のバラエティ感を重視したので、特にそこは意識して整理しました。でも実は、半年前まではすごく迷ってたんです。オリジナルだからなにか参考にするモノサシもなく、自分しか信じるられるものがないし、作家さん全員のよさをどうまとめるべきかと考えたら混乱しちゃって。でも悩み続けるうちに狙いも定まってきて、今はずいぶんスムーズになりました。最終的にみんなが「思ったのとは違ったけど関われて面白かった」と思ってもらえるよう、粛々と進めてます。

入口は気軽に、引っかかったら深くハマってほしい

──では最後に、改めて今作の見所をお願いします。

氷川本人が描いた人吉爾朗と柴来人。

氷川 1話1話が楽しいんですよ。各話で見せ方や物語が独立しているので、その回のキャラクターにぜひ感情移入して見てほしいですね。

水島 短い尺の中でキャラクターを掘り下げるから大変なんですけどねー。

氷川 そういう部分もあるから、できれば深いハマり方をしてもらえるとうれしいですよね。キャラクターの背景とか、どこまで伝わるんだろうって心配になるくらい要素が詰まってるので。

水島 見る年齢でも印象が違うんじゃないかな。作品内で社会情勢を描いているので、そういう面での捉え方も変化すると思いますよ。とはいえ、間口は広くしていますからぜひ気軽にね。氷川さん渾身の爾朗などカッコいいキャラクターが活躍したり悩んだりする様子も含めて、楽しんで観ていただければと思います。

TVアニメ「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」
TVアニメ「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」
放送情報
  • TOKYO MX:2015年10月4日(日) 23:00~23:30予定
  • サンテレビ:2015年10月4日(日) 24:30~25:00予定
  • KBS京都:2015年10月4日(日) 23:30~24:00予定
  • BS11:2015年10月6日(火) 24:30~25:00予定
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水島精二(ミズシマセイジ)

1966年、東京都生まれのアニメーション監督。1998年の監督デビュー以来「シャーマンキング」、「鋼の錬金術師」シリーズ、「大江戸ロケット」、「機動戦士ガンダム00」シリーズなど、人気作・話題作を数多く手がける。そして2015年10月、「鋼の錬金術師」シリーズでもタッグを組んだ脚本家・會川昇とともに制作したオリジナルアニメ「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」がオンエアされる。またアニメ音楽誌「リスアニ!」で連載を持ち、アニメソング系DJとしてクラブイベントに出演するなど、音楽マニアとしての横顔も。

氷川へきる(ヒカワヘキル)
氷川へきる

代表作は「ぱにぽに」全17巻、「まろまゆ」全2巻ほか。月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)で「キャンディポップナイトメア」を、コミック電撃だいおうじ(KADOKAWA)で「女子高生VS」を連載中。