コミックナタリー PowerPush - 映画「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」

衝撃のクライマックス「蝕」がいよいよ開宴「進撃の巨人」の諫山創&窪岡俊之監督インタビュー

「よくここまで、すごいものにしてくれました」

──原作にはない細かいところも、ディテールを考え尽くして作られているんですね。今回「降臨」のいちばんの見所である「蝕」はマンガファンの間でも有名な衝撃のシーンで、映像化するにあたってかなりプレッシャーがあったのではないですか?

そうですね。でも「蝕」は、TVアニメやゲームでこれまでにも映像化されてるんですよ。どうせなら違うものにしたかったので、それが一番のハードルでした。

「蝕」に登場する祭壇。

──どのように世界観を作っていったのか、技術的な面から教えていただけますか。

まずは3DCGで作ってみたんです。「蝕」のシーンって出てくるものがずっと一緒なので、床や壁に並ぶ顔のデコボコを作って、手(祭壇)を生やして、カメラを回せば一応背景は手に入るんですけど、それだけだとCGにしか見えないんですね。で、「手描きのテクスチャを貼ってみよう」とか「ライトの当て方を変えてみよう」とか、思いつく限りやってみたんですけど、どれも納得できるものがなくて。結局は全部手で描きました。

──あの細かな顔、1つひとつをですか?

基本は手描きのテクスチャーです。それを手でレタッチすることでちょうどよく歪むんですね。CGの欠点として、床に並んだ顔が奥に行くにつれて、点になっちゃうんですよ。だけどマンガではもちろん、奥に行ってもある程度の大きさでしっかり描いてありますよね。そのほうが顔がいっぱいあるように見えて、怖い感じが出るんです。いろいろと試行錯誤しましたね。

──三浦先生から、何かオーダーはありましたか。

いや、特になかったですね。

──では完成したものをご覧になって、どんな感想を仰ってました?

「本当によくここまで、すごいものにしてくれました」と……。本当に喜んでくれていましたね。パートIの頃から、いつもお褒めの言葉をいただくんですよ。いろいろもっと気になるところを言ってくれていいのに、って思ってはいるんですけど……(笑)。

──原作者としてはシリーズを通して、終始満足されてるんですね。

「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」より。

ありがたいことに。ずっと1人でやってきている方なので、いろんな人のアイディアが乗っかってできるものには、自分1人では出来ない魅力があるって感じていらしたそうです。

──劇場パンフレット(豪華版)に掲載されている監督との対談で三浦先生は、「蝕」を執筆している間は、魔物の気分になって描いていたと明かしていました。

魔物のデザインとか1体1体ちゃんと違っていて、やはりこだわりが尋常じゃないですよね。三浦先生自身、「蝕」を描いているときは相当つらかったらしいです。サラサラと描いていたわけではなくて、かなり精神的にいっぱいいっぱいだったそうで。だから「今あれを描けと言われてももう描けない」って仰ってましたよ。何かがあのときの三浦先生に取り憑いていたのか……。それを自分たちが今アニメにするとなって、後追いで体験するしんどさはありましたね。

直接的な描写じゃないと力を持たない

──原作やTVアニメと比べても、今回の映画では魔物が生け贄を“食べる”といった、直接的な描写が多いように感じました。あれは何か意図があってのことでしょうか?

うーん……ある程度のエグさは、必然的にそうなっていった感じですかね。あんまり抑えてもしょうがないというか。

──コンテを描いていく中で自然に出てきたということですか?

まあ、そんな感じですね。結果がわかっているから表現を和らげるとか、寸止めのようなことはなるべくやりたくなかったんです。蝕の部分だけではないんですけど、「ベルセルク」は三浦先生がいろんなタブーにチャレンジしてく作品だと感じていて、その姿勢は映画の方でも合わせないと、と。直接的な描写じゃないと力を持たない、という思いでやってました。僕自身がとにかく過激なものが好きとか、そういうわけではないんですよ(笑)。

「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」より。

──(笑)。作品が必要としている表現だからやる、ということですよね。「降臨」は一度映倫に「R18+」指定を受けましたが、再審査を経て「R15+」の作品として封切られます。私は試写で両方観たんですが、差があまりわかりませんでした。「R18+」から「R15+」に至るまでに、どのあたりを調整したんですか?

当初から「R15+」として公開する予定でした。でも、何が「R15+」で何が「R18+」なのか、正解がわからなかったので、最初はとりあえず作りたいものを作ってみたんですよ。そしたらやはり「R18+」だと言われ。で、これこれここが問題だ、というリストをもらったんです。

──ひっかかったのは暴力表現ではなくエロスの部分なんですか?

はい。エロですね。なんだか明確に基準があるらしくて、「これは“全身割り込み体位”だからダメだ」とか、専門用語が出てきちゃって(笑)。 最終的にはぼかしを入れたりすることはなく、フレームを変えるなどの修正を加えることで、「R15+」で通すことができました。印象としてはノーカット版との違いはわからないと思います。

──エロスの描かれ方が気になっている読者も多いと思うのですが、ではそこは期待を裏切らないということですね。

はい。まあエロを見せつけたくてやっているというよりは、その残酷な画を見せつけられてるガッツの心情を描くために、わざわざやっているんですが。

窪岡俊之

──怒りにかられたガッツの腕がちぎれるシーンは目を背けたくなりました。あそこまで執拗に描くのか、と。

あれは本当にスタッフのがんばりですね。ちぎれる音もかなり痛そうに仕上がってます。必要なことは、すべて詰め込みました。

──最後に、これからご覧になる方へ向けて何かメッセージをいただけますか?

「ベルセルク」自体のゴールではないですが、黄金時代篇としてのゴールにやっと辿り着くことができました。気に入ってもらえるとうれしいですし、僕も含めスタッフ一同手応えを感じている作品ではありますので、どうぞよろしくお願いします。

映画「ベルセルク」

全世界累計3300万部を超えるダークファンタジー超大作コミック「ベルセルク」の、長大なる原作の世界観全てを映像化する「ベルセルク・サーガプロジェクト」の第1弾として、ファンの間でも最も人気の高い「黄金時代篇」を3部作で映画化。2012年2月4日に「ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵」、6月23日に「ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略」が公開され、そして完結作となる「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」が2013年2月1日に封切られる。

映画「ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨」ポスター

映画「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」2013年2月1日(金)全国ロードショー

あらすじ

ミッドランド王都ウインダムの地下深く―反逆罪によって囚われたグリフィス奪還のため、キャスカはじめ鷹の団の残党は、グリフィス幽閉の地“再生の塔”へ向かう。修行の旅から帰還し、力強く成長したガッツの剣はもはや無双、見事グリフィスを取り戻す。しかし、両手両足の腱を切られ、舌を抜かれたグリフィスに、かつての夢を追う術はない。ガッツ、キャスカ、そしてグリフィスの願いは……。

キャスト

岩永洋昭、櫻井孝宏、行成とあ、梶 裕貴、寿美菜子、矢尾一樹、豊崎愛生、中村悠一、三宅健太、大塚明夫

スタッフ

原作:三浦建太郎(スタジオ我画)/白泉社 監督:窪岡俊之 脚本:大河内一楼 キャラクターデザイン・総作画監督:恩田尚之 アニメーションディレクター:岩瀧智 美術監督:新林希文・中村豪希・竹田悠介 音楽:鷺巣詩郎
主題曲:平沢進「Aria」(テスラカイト)
製作:BERSERK FILM PARTNERS(ルーセント・ピクチャーズエンタテインメント・バップ・白泉社・Beyond C・KDDI・ムービック・Yahoo! JAPAN・グッドスマイルカンパニー)
アニメーション制作:STUDIO4℃
配給:ワーナー・ブラザース映画

諫山創(いさやまはじめ)

1986年大分県出身。2006年、週刊少年マガジン(講談社)のMGP(マガジングランプリ)にて「進撃の巨人」で佳作受賞。2008年、同誌の新人マンガ賞にて「orz」で入選、同作にてデビューを果たす。2009年、別冊少年マガジン(講談社)にて「進撃の巨人」の連載を開始。同作は2011年に第35回講談社漫画賞少年部門を受賞。実写映画化、TVアニメ化も決定している。