コミックナタリー PowerPush - 坂ノ睦「あやしや」

鬼退治から生まれた新しい時代劇 「忍びの国」の新鋭がその発想の源泉を語る

ゲッサン(小学館)にて連載中の、坂ノ睦「あやしや」3巻が発売された。和田竜を原作に迎えた前作「忍びの国」と同じく時代劇の体裁をとりつつも、前作の忍者ものから一転、鬼退治を題材にした伝奇アクション作品として描かれている。

発売を記念しコミックナタリーでは、作者の坂ノ睦へインタビューを実施。その発想のルーツや、影響を受けたものについて語ってもらった。

取材・文/安井遼太郎 撮影/唐木元

あやしや

あやしや とは

人を喰らう鬼が跋扈する「都」。鬼を滅する役人の組織「鬼導隊」の見習い・咲は、ある夜に呉服屋の若旦那・仁と出会う。鬼に皆殺しにされた呉服「綺糸屋(あやしや)」の生き残りである彼は、鬼を喰らう鬼「だまり」に憑かれ、その食事となる鬼を夜な夜な狩っていた。綺糸屋を襲った「顔の無い鬼」の正体、そして鬼導隊の闇をめぐる戦いが幕を開ける。

「綺糸屋」に集う人々

仁
仁
呉服「綺糸屋(あやしや)」2代目当主。12歳。「顔の無い鬼」に一家を皆殺しにされた事件から、鬼喰いの鬼「だまり」と一心同体となる。
咲
咲
「鬼導隊」の見習い。16歳。ある夜のピンチを仁に助けられたことで、彼とだまりの秘密を知ることとなる。仁のことを「若旦那」と呼ぶ。
楽
楽
身寄りのない少年。悪事を働いていたが、仁に諭され綺糸屋に居候することに。
花
花
鬼の少女。「自分を殺してほしい」と仁のもとを訪れたが、その真意は……?
坂ノ睦インタビュー

小さいころから地獄の本とかを読みあさっていた

──和田竜さんを原作に迎えられた前作「忍びの国」から、再び「あやしや」で時代物を志向した経緯を、まずはお聞きしたいんですが。

坂ノ睦

「あやしや」のキャラクターは、実は大学のときに描いた1枚絵のイラストが元になっているんです。「忍びの国」が終わってから、そのイラストのことを担当さんに話したら、世界観やストーリーといった軸の部分はできているので、それでやってみようということになりました。そういう意味では時代物を特別意識していたわけではないですね。

──「忍びの国」を連載するよりも前に、この作品の構想は完成していたということですか?

先にキャラクターと世界観だけはありました。イラストに描いたのは仁、だまり、花の3人だけでしたけど……。

──主人公・仁は最初から呉服屋の若旦那だったんですか?

そうですね。最初に描いたイラストのときから、お店のエプロンはしていました。そこに丸に呉って描いてあって。形が面白かったとか、多分そんな理由で入れたんだと思いますけど。あとは呉服屋の子にすればいろんな服を着せられるとか、主人公がそういう専門的なことをしていれば、ちょっと話の途中で遊べるかなと思って。

──花も最初期に作られたキャラクターだったんですね。坂ノさんが描かれる女性って、きりっとした目の印象が強いので、最初に目を閉じた子が作られていたっていうのは意外です。

花。最初は無表情だったが、いろいろな顔を見せるようになる。

強い女の子も好きですけど、柔らかいイメージの女の子も同じくらい好きなんです。目を閉じているので表情を作るのがすごい難しいんですけど……それでもどこまで表情を豊かにできるんだろうっていうのを、ちょっと挑戦したくなって。

──「忍びの国」「あやしや」を貫く、“和風なもの”のルーツはどこにあるんでしょうか?

母親が好きだった水木しげるさんの本とかで、妖怪とかに触れる機会はありました。あと地獄の本とかも小さいころから読んでました。

──地獄の本?

うん。そういうのを漁って読んでましたね(笑)。本やマンガもそうだし、絵本も家にいっぱいありました。

夢で見たことをスケッチブックにメモしているんですが

仁。左上に浮いているのが鬼の「だまり」。

──キャラクターはどんなところから着想するんですか?

いつも夢で見たものとかをスケッチブックにメモしてるんですけど……(と言ってスケッチブックを取り出す)。

──えっ、夢って夜見る夢ですか?

そうです。例えばこれなんかそうですね。

──この絵はどういう状況なんですか?

わかんないです(笑)。たぶん動物の体が絡まっちゃって、ずっと引っ張り合いをしてるんですよね……。なんだかよくわからないんですが、とりあえずこういう風景を見たんですよ、夢で。そのイメージを絵にして、そこからキャラクターを作るので、あんまりキャラクター作りで困ったことはないかもしれないです。

坂ノのスケッチブックより。下の部分に絡まりあった動物が描かれている。

──「あやしや」のキャラクターも、最初は夢で見たことがルーツになってたりするんですか?

そうですね、夢で見たことから決まった設定もあります。先にそういった人物設定があって、じゃあその周りのものはどうしようかって考えるんですよ。それで「鬼導隊」を作ったり、その中で1番えらい人は誰だろうとか、咲はどうして鬼導隊に入ったのかとか。そういうことを後から頭で考えて補填していく感じです。

──夢で見えてなかった部分のことを、考えて帳尻を合わせる感じですか?

そうですね。夢だと面白いなと思ったことしか書き留めてないので。

──そもそも動物が絡まってるとか、夢の内容が普通じゃないですけど。そういうのも、夢の材料になる要素が脳の中にあるっていうことですよね。

そうですね。それも昔見た絵本とかにルーツがあるんじゃないかって思いますけど。

坂ノ睦「あやしや(3)」 / 2013年8月12日 / 480円 / 小学館
坂ノ睦「あやしや(3)」
あらすじ

新たな鬼、そして新たな仲間……!!
仁の前に現れ、自らを殺して欲しいと訴える鬼の少女。
それを阻む「鬼神族」と呼ばれる存在。
その場に居合わせた鬼導隊最強の男、白陽。
事態は深度を増し、そして激化する一方、綺糸屋にはかつての面影が少しずつ……。

坂ノ睦(ばんのむつみ)
坂ノ睦

2006年、「ざんぶとふわり」にて、9・10月期まんがカレッジで入選。翌年、同作がサンデー超増刊(小学館)に掲載されて、デビューを果たす。2009年、ゲッサン(小学館)創刊号より、和田竜氏の原作小説をコミカライズした「忍びの国」で本格連載デビュー。2012年、「あやしや」で初のオリジナル連載開始。