コミックナタリー PowerPush - 坂ノ睦「あやしや」
鬼退治から生まれた新しい時代劇 「忍びの国」の新鋭がその発想の源泉を語る
「都」には台湾のイメージも入っているんです
──今日の坂ノさんのお召し物や持ち物を見てても、和柄とかテキスタイルみたいなものがお好きなのかと思ったんですが……。
そうですね。そういうエスニックな雑貨屋さんに行って民族衣装とか装飾品を見るのは好きです。
──そういう文様とか服のデザインとかが、「あやしや」の中で活きているところってありますか?
そうですね……好きなように好きな柄を描いてる感じです。舞台をはっきり「日本の何とか時代」とは決めてないので。例えば「都」の雰囲気は「千と千尋の神隠し」のモデルになった、台湾の九フン(フンの漢字はにんべんに「分」)というところがあるんですけど、そこのイメージも入っていたりとか……。
──確かに読んでいて、この「都」というのはどこの国なんだろうと不思議に思っていました。
一応江戸時代をベースにしつつ、でも場所は江戸じゃなくて京のほうをイメージしていて。はっきり日本というよりは、日本列島と中国大陸の間にある、つまりアジア圏の架空の島国というイメージ。台湾の日本バージョンみたいな感じですかね。
──鬼の造形も禍々しくて、目を引きますよね。
鬼もインドネシアのバリ島とか、アジアの独特なお面のイメージが根底にあります。あとは昔美術館とかに行って、幼心に怖いって思った仏像とかお面がモチーフかな。
──鬼導隊の皆さんもお面を付けてますけど、お面がお好きなんですか?
言われてみれば。でも好きですね、お祭りの感じがして。鬼導隊はすごくシンプルにしちゃったので、もうちょっと凝ればよかったなって思ってますけど(笑)。
──お面に漢字1文字があしらわれたデザインもインパクトがあります。
10隊編成で考えたとき、何かモチーフがほしいなと思って文字を先に決めたんですよ。あの漢字の元は「南総里見八犬伝」の八犬士の文字なんです。「仁」は主人公の名前に使ってしまったので、それを「愛」に変えて。さらに10隊なのでもう2文字増やして、その文字のイメージからキャラクターを作りました。
1巻は手加減しすぎたかなと思っている
──坂ノさんって、仁が優しく笑うところを描くのと同時に、仁がボロボロになっていく様とかも容赦なく描かれますよね。
そうですね……もっとやってもいいんじゃないかって思いますけど。1巻では手加減しすぎたかなと思ってるんですけどね。
──手加減?(笑)
なんでしょう。描写とかセリフ回しだったり、ストーリーの展開だったりを結構寸止めしてる感じ(笑)。だから第1話は本当に加減がわからなくて、何度も書き直しました。
──なるほど。ここ数回はバトルがクライマックスに達しようとしていますが……。
そうですね。これはこれでかなり大変です。バトルよりは日常のほうが描きやすいですね。どうやら読者さんの反応も日常のほうがいいみたいだし。
──このバトルが一段落したら、日常を描いていく方向にシフトするんでしょうか。
あ、そうですね。もちろん謎はちょいちょい出てくるとは思うんですけど、とりあえず鬼導隊はしばらく出ないでほしい……(笑)。
──(笑)。では最後に、読者へのメッセージをお願いできますか。
綺糸屋はこれからにぎやかに、楽しくなっていくと思います。仁もご飯を食べられるようになってきたし、遊んだり、また商売を始めたりできるかもしれない。そういう、仁が人間性を取り戻して、普通の男の子になっていくところを描いていけたらと思います。最後まで読んでくださったら、いいことがあるかもしれません(笑)。
あらすじ
新たな鬼、そして新たな仲間……!!
仁の前に現れ、自らを殺して欲しいと訴える鬼の少女。
それを阻む「鬼神族」と呼ばれる存在。
その場に居合わせた鬼導隊最強の男、白陽。
事態は深度を増し、そして激化する一方、綺糸屋にはかつての面影が少しずつ……。
坂ノ睦(ばんのむつみ)
2006年、「ざんぶとふわり」にて、9・10月期まんがカレッジで入選。翌年、同作がサンデー超増刊(小学館)に掲載されて、デビューを果たす。2009年、ゲッサン(小学館)創刊号より、和田竜氏の原作小説をコミカライズした「忍びの国」で本格連載デビュー。2012年、「あやしや」で初のオリジナル連載開始。