コミックナタリー PowerPush - 坂ノ睦「あやしや」
鬼退治から生まれた新しい時代劇 「忍びの国」の新鋭がその発想の源泉を語る
若い子にトラウマを植え付けたい
──前作「忍びの国」は和田竜さんを原作に迎えられたのに対し、「あやしや」は完全なるオリジナル作品です。原作つきとオリジナル、どちらが大変でしょうか?
どっちも大変なところもあり、でもそれぞれにやりやすいところもある、という感じです。
──大変なところから伺いましょうか。
やっぱり原作があると、それに沿った世界観とか、押さえるべきところを意識して描くのが大変ですね。その反面、お話が最初から決まっているので、ネームを切るのはすごく楽でした。それに対してオリジナルはまったく逆で、ストーリーのほうですごく苦戦するんですけど、絵は自分の描きたいように描けるので。とはいえ最近は絵にも時間がかかってきちゃってるんですが……。
──ネームには結構描き込むほうですか?
それもあるんですけど……時間がかかってしまうときって、絵が浮かばないことが多いんです。どういう絵で描いていいのかとか、キャラクターがどういう顔をしているのかとか。そういうイメージが浮かばないと描けなくなっちゃう。
──絵が浮かぶときは、ご自分の絵柄で浮かぶんですか?
そうですね。夢は実写の場合が多いですけど。
──夢まで自分の絵柄だったらすごいですよね(笑)。
でもご覧くださった人が悪夢に見てしまうような、そんな絵が描けたらいいですよね。実際私もトラウマになっている絵とかあるので、今の若い子に、そういうトラウマを植え付けられるような絵を……(笑)。そういう子供の頃にトラウマになったものって、大人になって妙に惹かれたりすることがあるじゃないですか。
──坂ノさんのトラウマになった絵というと?
本当に怖いっていう意味では、漫☆画太郎先生と御茶漬海苔先生。あと小さい頃怖かったけど、今は惹かれるっていう絵になったのは、米倉斉加年さん。あの人の絵はすごい好きですね。
──なるほど。ほかにも影響された作家さんていらっしゃいますか?
最初に単行本を揃えたのは高橋留美子先生の「らんま1/2」です。女らんまとシャンプーが大好きだったので。もしかしたらその頃からアジアンテイストが好きだったのかもしれません。あとは冨樫義博先生と熊倉裕一先生と高橋葉介先生。今でも見返してるのはその4人の先生ですね。高橋葉介先生は、自分でこういう妖怪ものとか描こうって思ったときに、ひとつの理想として思い浮かべてました。冨樫先生の絵もすごく模写しましたね。
──どの先生方も、夢と現(うつつ)というか、現実世界から少し離れたような作風の持ち主ですね。
そうですね。熊倉先生はもう、世界観がすごいなって。読んでた当時は、ストーリーが全然わからなかったんですけど(笑)。
骨格がまだできあがっていない、子供のほうが描きやすい
──描いてて楽しいキャラクターはいますか?
やっぱり仁、楽、花、咲の4人は描きやすいですね。大人を描くのは苦手で……。
──それはなぜでしょう。
うーん。あまり描いたことないからかな。「忍びの国」の大膳もすごく大変でした(笑)。描こうとしても楽しくなくって、なんか申し訳なくて。カッコいいのはわかってるんですけど……。
──確かに「あやしや」にも、ゴツい男の人って少ししか出てきていないですね。
そうなんです。最初子供ばっかりだったのもあって、じゃあ鬼導隊で大人を出そうってなった部分もありました。なんか子供のほうが……骨格がまだできあがってないほうが描きやすいんですよね。
──子供が描きやすいのは骨格のおかげですか。
そう、骨格(笑)。まだ男性か女性ってわからないぐらいの年頃が描きやすいんです。カチッとした硬いものよりも、曲線を描くほうが好きなので。だから筋骨隆々の男性とか、描きたいなとは思いますけどちょっと苦手ですね。消しゴムかけたときにうわーってなる(笑)。
──じゃあ「忍びの国」でも、少年ぽいキャラクターのほうが描きやすかった?
そうですね。でも少年でも、美少年って設定のキャラクターは難しくて……美少年も描くの苦手なんですよ(笑)。改まって美少女、美少年って言われると意識しちゃって、何が美しいのかわからなくなって。「忍びの国」のお国も絶世の美女って原作では言われてましたけど、マンガでは周りが男だらけだったのに助けられましたね。
あらすじ
新たな鬼、そして新たな仲間……!!
仁の前に現れ、自らを殺して欲しいと訴える鬼の少女。
それを阻む「鬼神族」と呼ばれる存在。
その場に居合わせた鬼導隊最強の男、白陽。
事態は深度を増し、そして激化する一方、綺糸屋にはかつての面影が少しずつ……。
坂ノ睦(ばんのむつみ)
2006年、「ざんぶとふわり」にて、9・10月期まんがカレッジで入選。翌年、同作がサンデー超増刊(小学館)に掲載されて、デビューを果たす。2009年、ゲッサン(小学館)創刊号より、和田竜氏の原作小説をコミカライズした「忍びの国」で本格連載デビュー。2012年、「あやしや」で初のオリジナル連載開始。