コミックナタリー Power Push - 「アトム ザ・ビギニング」

佐藤竜雄監督×シリーズ構成・藤咲淳一対談 「天馬とお茶の水の“一番いい時間”」の作り方

アニメのオリジナルエピソードといえば、やはり水着回か文化祭(藤咲)

──シリーズを通じてのストーリー展開はどうなっていくのでしょうか?

藤咲 本作の脚本は、本読み(脚本打ち合わせ)に、カサハラ先生と手塚眞さんがほぼ全回参加されたうえで決めていきました。そういう意味では話が早かったですね。わからないこと、確認したいことがあればその場ですぐ聞けましたから。その一方でハードルが上がったところもありました。基本的に原作通りのアニメ化なんですが、原作のエピソードを膨らませたものを含めオリジナルのエピソードが5話分あります。そのプロット打ち合わせではカサハラ先生から結構ダメが出ましたね。

──どういう理由でダメが出たのでしょうか。

藤咲 この作品の社会や世界がどうなっているか見せようとなると、どうしても「事件もの」になっていくんですよね。何か事件が起きて、それを天馬やお茶の水、A106が解決する、という。でも、そういう事件について、カサハラ先生から「この世界でそういう事件は起きないです」という指摘を受けることが多かったです。

佐藤竜雄

佐藤 そこは、単に原作の世界観を守るというより、カサハラ先生が面白いと思ってもらえるエピソードを思いつけるかどうかがポイントでしたよね。

──オリジナルエピソードにはどのようなものがありますか?

藤咲 オリジナルエピソードといえば、やはり水着回か文化祭だろう、と(笑)。どちらにするか考えて、今回は文化祭にしました。もちろんちゃんと理由があって、ロボットって何ができる存在なのかをちゃんと見せようという狙いがあります。そこで、うどんを作るエピソードにしました。

──うどんですか。本広克行総監督は香川県出身だし、「UDON」という映画も監督していますね。

藤咲淳一

藤咲 そうですね(笑)。実は僕もうどんが好きで、Production I.Gで「うどん部」をやっているんです。部員は僕ぐらいしかいませんが(笑)。なので、うどんの資料を担当の脚本家さんに渡して書いてもらいました。

──ほかにどんなオリジナルエピソードが出てきますか?

藤咲 天馬とお茶の水の最初の出会いのエピソードも出てきます。A106ができあがるよりも前のお話ですね。原作で描かれるかどうかわからないので、アニメで描いてしまおうと。このあたりもカサハラ先生が脚本打ち合わせに参加してくださったから可能になった内容ですね。

佐藤 本読みのときに話題にのぼったネタが原作のほうにひと足先に反映されることもありました。そんなときは、絵コンテを発注する際に、原作の連載のほうを見せて「これを参考に描いて」と言ったりしましたね(笑)。

A106のしゃべり方は、原作の読者が想像していなかったものになる(佐藤)

──では、2人が開発したロボット、A106はどんな描かれ方になるでしょうか。やはり3DCGですか?

ロボット・レスリングで戦うA106。

佐藤 前半はあまり動くことがなく、ほぼ置き物みたいな状態なので手描き中心の予定です。中盤から後半にかけてはロボット・レスリングが出てきますから、アクションが増えて、3DCGになります。A106をはじめメカについてはカサハラ先生が詳細なメモを描いてくれました。A106の人間型とは異なる肩関節の構造や省略されがちなディティールも全部描いてあって、そういうポイントをはずさないでほしい、と。カサハラ先生のやりたいことが事前にそうやって伺えたのはよかったです。

──A106のキャストを男性にするか女性にするかも大きなポイントだったと思います。

佐藤 そうですね。オーディションは男性、女性ともに行いました。ただ、女性はどうしても「鉄腕アトム」でアトムを演じた清水マリさんにひっぱられてキビキビしがちか、あるいはダウナー系な感じが多くて。男性は男性でナイーブな方向に振れがちでしたね。それで決めきれなくて、もう一度、いろんな人に声をかけてオーディションして決まったのが井上雄貴さんだったんです。

藤咲 最初にもお話しした通り、一番の核になるのは「A106の自我の芽生え」です。では、その自我をいかに表現していけばいいか。そこについては、佐藤監督と話をしながら進めていきました。セリフの表現ひとつとってもハードルを挙げちゃったなと思います。

佐藤 A106のしゃべり方は、普通のしゃべり方とは全然違うものになります。おそらく原作読者の方が想像していなかったものでしょう。聞いている人が「こいつは何を考えているんだろう」と思ってしまうようなお芝居になるといいなと思っています。そこから始まって、最終的に読者が頭のなかで思っている“A106のしゃべり方”に到達できればよいかな、と。

著名人からのコメント / ストーリー&キャラクター 佐藤竜雄×After the Rain 座談会  第2回特集はこちらから

テレビアニメ「アトム ザ・ビギニング」2017年4月よりNHK総合テレビにて放送

ストーリー

大災害後の日本に、未来を夢見るふたりの天才がいた。ひとりは天馬午太郎。もうひとりはお茶の水博志。天馬はその手で「神」を作り出すことを、お茶の水はその手で「友」を作り出すことを夢見て、日夜ロボット研究に明け暮れていた。そしてふたりの友情が生み出した1体のロボット、A106(エーテンシックス)。A106は果たして「神」となるのか「友」となるのか。若き天才コンビは、来るべき未来を垣間見る──。

スタッフ
  • 原案:手塚治虫
  • プロジェクト企画協力・監修:手塚眞
  • コンセプトワークス:ゆうきまさみ
  • 漫画:カサハラテツロー(「月刊ヒーローズ」連載)
  • 協力:手塚プロダクション
  • 総監督:本広克行
  • 監督:佐藤竜雄
  • シリーズ構成:藤咲淳一
  • キャラクターデザイン:吉松孝博
  • 総作画監督:伊藤秀樹
  • 音響監督:岩浪美和
  • 音楽:朝倉紀行
  • アニメーション制作:
    OLM×Production I.G×SIGNAL.MD
  • オープニングテーマ:After the Rain「解読不能」
  • エンディングテーマ:南條愛乃「光のはじまり」
キャスト
  • 天馬午太郎:中村悠一
  • お茶の水博志:寺島拓篤
  • A106:井上雄貴
  • 堤茂理也:櫻井孝宏
  • 堤茂斗子:小松未可子
  • お茶の水蘭:佐倉綾音
  • 伴俊作:河西健吾
  • 伴健作:飛田展男
    ほか
佐藤竜雄(サトウタツオ)
佐藤竜雄

1964年7月7日生まれ、神奈川県出身。アニメーション監督、演出家。大学卒業後、亜細亜堂で動画を担当した後、演出に転向。1994年に「赤ずきんチャチャ」の演出で脚光を浴び、1995年「飛べ!イサミ」では監督を務め、1996年の年の「機動戦艦ナデシコ」では初脚本。2012年の「モーレツ宇宙海賊」では監督、シリーズ構成、脚本を担当した。そのほか監督としての代表作に「学園戦記ムリョウ」「輪廻のラグランジェ」「ねこぢる草」など。

藤咲淳一(フジサクジュンイチ)
藤咲淳一

1967年8月6日生まれ。茨城県出身。Production I.G所属の監督、脚本家。押井守が主催していた企画会議「押井塾」にて「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の原案となる企画を発表。同作の小説、ゲーム制作にも携わり、テレビアニメ「BLOOD+」では監督、シリーズ構成も務めた。そのほかの主な参加作品として「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」「劇場版xxxHOLiC 真夏ノ夜ノ夢」「ダイヤのA」など。

本広克行(モトヒロカツユキ)
本広克行

1965年7月13日生まれ、香川県出身。CM製作会社を経て、共同テレビジョン入社。深夜ドラマで監督デビューを果たし、「NIGHT HEAD」、「お金がない!」などで注目される。自身が演出した人気ドラマの映画化「踊る大捜査線 THE MOVIE」が大ヒットを記録、その後も続編やスピンオフ作品「交渉人・真下正義」などを手がけた。2012年10月にはアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」の総監督を務めた。


2017年3月24日更新