お笑いナタリー Power Push - 永野
芸歴20年で到達した“究極”の映像作品
永野が5月18日にDVD「Ω」を発売する。お笑いナタリーでは永野へのインタビューを実施するとともに、永野を中心とした「永野軍団」と称する芸人たちの座談会をセッティング。永野による語りと後輩芸人の証言から、苦節20年、本作リリースまでの道のりを辿った。
取材・文 / 狩野有理 写真 / 辺見真也
永野 ソロインタビュー
ミュージックビデオやスポーツブランドのCMなど、幅広いジャンルで活躍する清水康彦監督がディレクションを担当し、これまでに類を見ないお笑いDVDが完成した。「クマさん応援大会」「浜辺で九州を1人で守る人」といった永野のネタを収録した作品ではあるが、全体に一貫して流れるアングラな雰囲気からは「Ω」を単なるネタDVDと呼ぶのは難しい。このスリリングな作品がどうやって制作されたのか、永野本人に聞いた。
普通に面白いDVDになるくらいなら面白くなくなってもいいから清水監督との化学反応に賭けたかった
「お笑いDVD」と聞いてイメージする、どこかの劇場で撮ったネタを収録するだけの作品には絶対にしたくなかったんです。それだったら劇場に行けばいいじゃないですか。だからライブでもテレビでも見られない、YouTubeなどのネット配信でもできないことを僕はしたくて。あと自分が子供の頃からレコードやCDってパッケージ含めて好きだったので、昔のレコードじゃないですけど、ジャケットからこだわりたかった。そう考えたときに、最初に浮かんだのが清水康彦監督で。清水監督は僕が出演させていただいた、GLAYさんの「everKrack」(2011年)のMVを作った方で、お笑い業界の方ではないんですよ。でもバラエティのディレクターさんとかにお願いして普通に面白いDVDになるくらいなら、面白くなくなってもいいから清水監督との化学反応に賭けてみたいなって思ったんです。
清水監督って、僕のこと大好きなんですよ。僕が売れてもいない2011年にGLAYさんのMVに使ってくれるくらいですから。とは言ってもすごい方ですから、ダメ元で今回オファーしたんです。そうしたら二つ返事でOKしてくれて。「2016年の代表作にしたい」とまで言ってくれました。
とんでもないクリエイティブ集団がチャクラを開いてくれた
ただ、最初に打ち合せしたときはまったくアイデアはありませんでした。ただの無駄話で終わるときもあって。そんな中、「どうしよう」って言いながら、マイケル・ジャクソンの「ムーンウォーカー」っていう映画を流し見していたんです。これがハッピーだけどすごく変な作品で、監督と「これヤバいですね」「こういうの作りたいですね」って盛り上がっちゃって。それと最近、N.W.A.っていうヒップホップグループの伝記映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」を観たんです。それに影響されてヒップホップや不良少年の感じを出したいとか、どうしてもCGはやりたいとか、僕がやりたいと思う“材料”を監督に丸投げして「悪いけど調理はお任せします」っていう感じでお願いしました(笑)。
僕が「このDVDでしか見られないものを作りたい」って発破かけたら、監督もすごくノッてくれて。すごいキャリアを持つスタッフさんたちを集めてくださった。ジャケットに関しても「外側はストリートっぽく、中はケミカルなレイヴっぽい感じで」とか、いろんな希望を断片的にお伝えしているんですが、すべて形にしてもらうことができました。「Ω」は僕がずっとアンダーグラウンドでやってきたものを題材に、とんでもないクリエイティブ集団がチャクラをバーッて開いてくれた、という感じです。
今作では僕のネタ「手から光を出す魚屋さん」をストーリー仕立てに映像化していて、斎藤工くんと金子ノブアキくんが友情出演という形で参加してくれているんです。これは「ムーンウォーカー」を観ていたときに、「斎藤工くんが出たら面白いですよね、はははー」とか冗談で話していたら実現してしまいました(笑)。金子ノブアキくんも監督のツテで出演してもらうことになり、「俳優2人に何をしてもらおうか」と相談していて、自然と「手から光を出す魚屋さん」を撮ろうということになったんですよ。実はこれには、いい話があって。監督が最初に見た僕のネタが「手から光を出す魚屋さん」だったみたいで、「everKrack」のMV撮影のあと、1回監督と飲みに行ったときに、「手から光を出す魚屋さん」で僕を主役に短編を撮りたいとおっしゃっていて。それが5年後、こんな形で夢が叶ってしまいました。すごいことですよね。
次のページ » 純粋に「面白いものができたぞ!」としか思ってない
収録時間91分 / 特製スリーブケース仕様
<出演者>
永野 / 斎藤工(友情出演) / 金子ノブアキ(友情出演) ほか