Amazon Prime Video「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」シーズン6|松本人志の追求する笑いとは?「カメ止め」上田慎一郎監督が語る

過去最多となる4名の女性芸人や芸歴42年の大ベテラン・村上ショージが参加し、これまでにない戦いが繰り広げられている「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」最新作シーズン6。お笑いナタリーでは本作の配信開始にあわせて3つの特集企画を展開する。その第1弾に迎えたのは、ダウンタウン、そして松本人志の大ファンを公言する映画「カメラを止めるな!」の監督、上田慎一郎。「テレビの中の松本人志より先にボケる」という特殊なトレーニング(?)を積んでいたらしい松本フリークに、「ドキュメンタル」の魅力や自身の作品づくりにおける松本人志の影響について、たっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 狩野有理 撮影 / 小原泰広

松本人志は笑いの天才でありフォーマットを作る天才

「ドキュメンタル」について語る上田慎一郎。

──上田慎一郎監督は松本人志フリークということですが、「ドキュメンタル」のスタートは何で知りましたか?

ダウンタウンさんとか松本さんがやっているものに対しては常にアンテナを張っているので、Amazonをチェックしているときに自然と目に飛び込んできたんだと思います。「また松本さん、面白いフォーマットを考えたなあ」と。松本さんって笑いの天才でもありますけど、「すべらない話」しかり「IPPONグランプリ」しかり、笑いを生み出すためのフォーマットを作る天才でもありますよね。「笑ってはいけない」シリーズも大好きで、初期のガキ使メンバーとスタッフ陣だけでキャッキャ笑っている頃から今のような超大作エンタテインメントになるまで観てきている身としては、また松本さんの新たな企画の出発に立ち会えるっていうワクワクがありました。

──シーズン1から欠かさずチェックしているんですか?

シーズン5だけ、時期的に「カメラを止めるな!」(一部劇場で上映中。Blu-ray / DVD発売中)でいっぱいいっぱいでまだ視聴できていないんですが、それまでは配信開始されたその日に観ていたと思います。妻(アニメ・映画監督のふくだみゆき)もこの番組の大ファンで、1人で勝手に観ると怒られるから基本的には一緒に。

──「なんで先に観るの!」と。

そうです(笑)。観終わったあとにレビューし合ったり、やってみたりしたこともありますよ、“2人ドキュメンタル”を。妻がめちゃくちゃ笑いに弱いので話にならないんですけどね。

──なんと素敵なご夫婦! お笑い好きとしては「芸人10人による密室笑わせ合いサバイバル」という企画内容を聞いただけで興奮したと思うのですが、実際にご覧になってどう思いましたか?

「ドキュメンタル」シーズン6より、イエローカードを出す松本人志。

まず衝撃だったのが、「ちょっとニヤけただけでもアウトなんや!」っていうことです。バラエティやお笑いって、ボケて笑いが起きて、それを受けてだんだんと走っていくものですが、「ドキュメンタル」では誰も笑わない中でボケ続けなければいけない。これはなかなかなもんやなと思いながら観ていました。

──上田監督はどのシーズンが好きですか?

各シーズンに名場面があるので1つに決めるのは難しいですね……。シーズン1は何が起こるかわからないうえに、このフォーマットが成功するかどうかということ自体がサスペンスでもあって印象に残っています。どういう身構えで、どれくらいのテンションで観ればいいのか、視聴者である自分も探り探りで。シーズン2、3は「ドキュメンタル」がどういうものなのか把握できて、落ち着いて観られる態勢が整ったことで身を委ねて大笑いしながら楽しめました。

「ドキュメンタル」シーズン4より、野性爆弾くっきー。

──「ドキュメンタル」を観て印象が変わった芸人はいますか?

野性爆弾くっきーさんは異端児というか、考えずにやっている天才肌なのかなと思っていたんですけど、意外と真面目にプランニングしてくる人なんだなあと(笑)。それを知ってすごく好感が持てましたし、シーズン4でくっきーさんが優勝したときはうれしかったです。何度も出演して、すごくこの番組に貢献しているだろうに、笑い上戸なせいでいつも早々に消えていくから寂しかったので。くっきーさんの写真シリーズ、好きなんですよ。

「ドキュメンタル」シーズン4より、スピードワゴン井戸田(左)と安田大サーカス・クロちゃん(右)。

──ご本人にお話を伺ったら、「笑え、笑え」と言いながら準備していると冗談交じりにおっしゃっていました(参照:「断る理由なかった」野性爆弾くっきー「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」“防御力0”でも出続けるわけ)。ほかにはいますか?

同じシーズン4のスピードワゴン井戸田さん。「あ、ここまでやるんだ」っていう驚きがありました。でも、やらざるを得なかったのかもしれない。普段はそういうところまでは行かないような方でさえ、第一線の芸人に囲まれて戦うとそんなふうになってしまうほど追い込まれるわけですよね。改めて「ドキュメンタル」の過酷さを思い知らされた気がしました。

「ドキュメンタル」シーズン6より。

女性陣のコントはジャズのセッションのよう

──最新作シーズン6についても聞いていきたいと思います。今回の出場者のラインナップを見て、どんな戦いになると予想しましたか?

これまでより女性の割合が多くなっていたので、どうなるんだろうと思いました。男だらけの状況と比べて絶対に場の空気は変わるでしょうから。女性陣がどんな戦いぶりなのか、そして女性陣が入ってきたことによって男性陣はどう動くのかという期待がありました。下ネタも自然と制限されてくるのかなと思っていたんですけど、とんでもなかったですね(笑)。

──女性芸人が自ら露出するシーンもありましたね。

いやあ、ゆりやんレトリィバァはすごいです。途中から、「ゆりやんレトリィバァ優勝してくれ!」って思いながら観てましたもん。「優勝しないと元取れないよ!」っていう(笑)。

上田慎一郎

──確かに、それくらいの体の張り方をしていました。

どういう気持ちなんですかね? でも“決死の覚悟”っていう感じでもなく、飄々とアレを……(笑)。

──そのカジュアルな感じが笑えるのかもしれません。

あと、個々の力だけでなく女性陣のチームワークが圧巻で。打ち合わせもなしに、ジャズのセッションのごとくコントを展開していくさまは感動すら覚えました。

──反対に、男性陣はどうだったでしょう。

情けない男と強い女というのは僕も映画で描きがちなんですけど、今回は本当に「男子情けないぞ」と思ってしまったところはあります(笑)。女性陣の防御力が異様に高かったのも驚きました。

「ドキュメンタル」シーズン6より。

──印象に残ったシーンや芸人は?

村上ショージさんが好きでした。「ポンコツである」という前提のうえでああいう正当な戦いの場に立たされているとは思うんですが、そのポンコツな部分をイジられたり、うまくフリに応えられなかったりする、あの空気感はやっぱりたまらないです。またFUJIWARA藤本さんがそういうところにちゃんとツッコんでくれるのもいいんですよね。例えば、変な格好に着替えてきたとして、藤本さんが「それでよう出てこれたな!」とツッコむ。それに対してショージさんがなんて返すか、というのが最大の山場だったような気がします。みなさんプロなので、ちょっとふざけた格好したくらいでは笑わないじゃないですか。登場でスベって、ツッコまれて、次に発せられる一言。これがどっちに転んでも大きな笑いになりうるっていう。だからお互い戦ってはいるものの、みんなで笑いを作り出すチーム競技にも見えて、それが「ドキュメンタル」の魅力の1つなのかなと思います。


2018年12月28日更新