ナタリー PowerPush - コロッケ
DVDが2タイトル同時発売 芸歴33年、新たな挑戦を語る
やりそうでやらないことっていうのが大前提
──普段、モノマネはどうやって題材をインプットしているんでしょうか?
あんまり構えて考えてないです。テレビを見ていてなんとなく。記憶の中に残っているものを広げていくやり方ですね。例えば平井堅さんをやるとするじゃないですか。平井堅さんの何をマネするか。そこが一番のポイントなんです。声? 顔? 音程をはかってる手の位置? どこにポイントを置くか。みなさんの記憶の中で、どこが一番記憶にあるのか。で、だいたいみんな声にいくじゃないですか。もちろん声は僕の中でも同時進行で練習するんだけど、一番大事なのは歌のちょうど切れ目切れ目でブレスをする場所。やっぱり僕はブレスをするところを一番マネしてるんですよ。
──そうだったんですね。題材を見つけたあとのアレンジも、ロボットしかり、早送りしかり、アイデアの宝庫です。そういうアイデアはどうやって思いつくんですか?
これも何も意識してないんです。なんとなく「あ」って。ポンと思いついた段階でやってるだけなんで、「どうして五木ひろしさんでロボットなんですか?」って聞かれても、「『ロボコップ』観てて五木さんだなと思った」っていう。特別な理由ではないんですよ。『ジュラシック・パーク』の恐竜を見たときに森進一さんに見えたとか、河村隆一さん見たら一反木綿(いったんもめん)が浮かんだとか。もともとそういうことばっかり考えてる人なんで。僕のモノマネっていうのは、やりそうでやらないことっていうのが大前提になってるんです。こないだ朗読みたいなものもできないかなと思って、「この方が朗読をしたら」みたいなことをちょっと考えて。昔話の花咲かじいさんを志村けんさんがやったら、武田鉄矢さんがやったら、トシちゃんがやったら、っていう形で考えていくだけで、そこから無限に広がっていくじゃないですか。じゃあバックミュージック誰かに歌ってもらったらどうなるだろうとか。
──アイデアが尽きないですね。
尽きないですね。「どうやってネタ作ってるんですか?」って後輩とかにも言われるんだけど、「いや、そこらへんに落ちてるでしょ」って。例えば信号機の音が誰かの声だったらみんなもっと注意するんじゃない? 車の「バックします」とかも誰かの声だったら、もっと気にするんじゃないかって。(武田鉄矢のモノマネで)「はい、いまからバックしますから。危ないだろうが!」。
──あははははは(笑)。
カーナビが出たときから言ってるんですけど、「これ誰かが言ってたらもっと売れるんじゃないか」って。バージョン2つか3つくらい作って。真面目なやつと、志村さんバージョン、あと田村正和さんバージョンとか(笑)。頭の中で1個考えたり喋ったりすると、そっからわさわさわさわさ増えてくるんで、枝葉でいっぱいになっちゃうんですよ。最近は超人ハルクの動きに興味を持っていて、生身の体でCGの動きができないかなって。ああいう衝撃を受けたときの動きとか、あの顔のグニュっていう動きっていうのは、CGで見た中では一番ハルクがはっきりしてると思う。痛いはずなのに痛さを感じさせない。そういうの何人かでできないかなと思っていて。僕の中では55才までにやりたいなと思ってるんで、いまはそういう精鋭を募ってます。
──ところで、コロッケさんは「ものまねキャラバン」をはじめ、東日本大震災の復興支援活動にも力を入れられていますよね。
「モノマネで役に立てるんであればいいんじゃないの?」っていうくらいの軽いノリでいつもいるんです。なんでかって言ったら、(モノマネの元になる)本人にこんなに迷惑かけて飯食わせてもらってるんだから、せめてボランティアは、ちゃんとまっとうにやりましょうよっていうのが自分の中であって。そういうことは基本的にはあんまり表には出していないんですけれども、震災とか関係なくボランティアはやってるんです。いい意味で軽く、「どうする? 行ける? じゃあ行こっか」っていうノリですよ。1人よりはみんなでやったほうがいいだろうし、モノマネで何かの役に立つんだったら、じゃあやろうって。
──「文七元結」もそういう気概のある男の話ですね。困っている人がいたら自分を犠牲にしてでも助けるっていう。
自分が一番好きなパターンの物語なんです。自分のことはさておいて人のためにっていう。僕が好きな言葉は、「相手が1番、自分が2番」。自分が1番、相手が2番だと、すべてが上から目線になりますからね。「すいません、水とってもらえませんか?」ってお伺いを立てるのと、「ちょっと水取ってよ」っていうのは大きな違いになる。街を歩いていて、「なんで避けないんだよ」でドーンとぶつかるのと、「よければいっか」っていうのと違いますよね。笑いってそこが一番大事だと思うんです。最近は減ったけど、一時期は押し付ける笑いが多くて。それって結局、不協和音になると僕は思うんです。それが正しいか正しくないかは別で、僕は違うなって思う。それがもしかすると、コロッケのモノマネの方向性みたいなものにつながってるのかもしれませんね。
コロッケ
1960年3月13日生まれ、熊本県出身。1980年に「お笑いスター誕生!!」(日本テレビ)でデビューした。モノマネのレパートリーは300以上。モノマネ番組のほか、全国各地でのコンサートや座長公演など精力的に活動している。自著「母さんの『あおいくま』」が好評発売中。