バカリズムの頭の中|映画「架空OL日記」2.28公開記念「24時間バカリズム専門チャンネル」

『24時間バカリズム専門チャンネル』に寄せて Base Ball Bear 小出祐介

小出祐介(Base Ball Bear)

バカリズム=升野英知は開発者であり発明家だ。

お笑い、ドラマをはじめ、様々なフィールドで新たな手法を生み出し続けている。異常ともいえるペースで。

このあいだ升野さんとの雑談のなかで、手塚治虫先生が生涯で描いた総ページ数の話になった。漫画家の平均を遥かに上回る量を描いているそうだ。それを知って「自分もネタや脚本をたくさん書いてきたと思っていたけど、手塚先生はこんなにも描いている。上には上がいる。だからさらに作るようになった」と言っていた。「いや、張り合う相手が……」と言いかけてやめた。「この人なら追いつけちゃうかも」と、かなり本気で思った。

今回の『24時間バカリズム専門チャンネル』では、そんなバカリズムの発明の数々(の一部)を一気に観ることができる。

『バカリズム THE MOVIE』(2012年)では、頭の中に蓄積されているのだろう膨大な数の作品フォーマットを参照し、通常は混ぜないはずのフォーマット同士を掛け合わせたような作品や、御株であるモニターを使ったネタにも通じる“考察”の作品など、バカリズムの地肩の強さを体感できる。
冒頭の『(株)Rock』の構成と、作品と作品の間に差し込まれるインタールードを含めた全体図とが、実は相似形となっているのも美しく恐ろしい。
『トップアイドルと交際する事への考察』では思わず「 (*^^*) 」となってしまうだろう(*^^*)。

今回の特集ではその一部が放送される、一昨年のバカリズムライブ『ドラマチック』(2018年)では『~THE MOVIE』からの6年間で、バカリズムが更にバケモノと化していたことを見せつけられる。
バカリズムライブの恒例でもある冒頭の“コンセプト説明”『プロローグ』から各コントを経て、『ドラマチックなバカリズム』へと発展していく構成が見事すぎる。いわゆる伏線の回収、というより、伏線を大爆破するような展開にも震えた。

『言い残す男』『NANDEYANEN!』でのコントジャンルにおける手法の新発明的なコントはもちろん押さえておきつつ、実は歌ネタも得意とするバカリズム。『ミュージックあげるよ』では、曲も良ければ歌も上手いから普通になんか悔しい。“Perfumeに提供したい”「夜霧のディスコ」は必見。

また、本作には『素敵な選TAXI』『架空OL日記』とも関連するエッセンスがちりばめられているため、リンクを感じる人も多いはず。(『素敵な選TAXI』と『架空OL日記』には「トイレットペーパー」という本当にちょっとしたリンクがあったりもする。)ドラマ脚本の経験が、自身のコント作品にもフィードバックされているのだろうと想像する。
時に「○○が食べたくなる」「△△に行きたくなる」映画があったりするが、本作はとにかく『ドラゴンボールZ』が観たくなるコントライブだということも付け加えておく。

『素敵な選TAXI』と、同スペシャル『~湯けむり連続選択肢~』はそもそも、“タイムトラベルもの”として抜群である。

“タイムトラベルもの”は「物語の主体者」がタイムトラベルによって、どうなるか、どうするかという作劇になっていることが多い。しかし、序盤のエピソードで「物語の主体者ではない人物のタイムトラベルによって問題が解決」という、掟破りがいきなりくり出されて驚いた。こんなことをする“タイムトラベルもの”作品はパッと思いつかない。これは「物語の主体」と「タイムトラベルの主体」とが分けられているからこそできることだ。この設定もかなりの発明と言っていいのではないかと思う。

他にも定石崩しはいくつも見られるのだが、中には「“タイムトラベルもの”といえば」というような因果律めいていて哲学的なエピソードもある。意識的なのか無意識的なのか、いずれにせよそのバランス感が恐ろしい。

また「タイムスリップ関係の取締りの存在」や、「枝分」「標道雄」というキャラクター名、エピソードのSF(すこし・不思議)エッセンスからは、藤子・F・不二雄テイストを。枝分が第四の壁を越えて語りかけてくる演出などからは『古畑任三郎』のテイストを感じる(ちなみに、音楽は同作品の本間勇輔さんが担当)。TVドラマという場を使って、好きなもの同士の掛け合わせも楽しんでいたのではないだろうか。

『架空OL日記』そして、近日公開の映画『架空OL日記』は本当にすごい。

向田邦子賞を受賞した当時「いよっ! 邦ちゃん! いまだかつてない!」なんて冷やかしながら祝福をしたけれど、すさまじい作品だと思う。
原作の成り立ちは言わずもがなどうかしており、これ自体がやばすぎる発明だが、淡々と続く日常と、そのくりかえしの中で発生する些細なドラマだけで1話30分×10話のTVドラマと、100分の劇場版を作ってしまった。

ここまで紹介した作品では、抜群の発想力や、緻密な構成力・構造美にまず目がいくが、この作品では極めてミニマルな作劇と、なのにダレないグルーヴィーさに驚きと共に新鮮さを覚えた。こんなこともできるのか、と。
第一話では「更衣室のハロゲンヒーターが壊れたこと」、第二話では「副支店長がコンタクトレンズにしたこと」、第三話では「食堂のメニューが入れ替わったこと」などが、この作品内で起きる“事件”である。

しかし、書籍『架空OL日記』発売時のインタビューで、

「OLさんの日常が好きなんで。何も起こらない中にもちっちゃいドラマ性を感じるというか」(参照:OLさんの日常が好き、バカリズムが自著の狂気性を語る

と答えていることから、このテイストもすでに彼の中にあったものだったと気が付き、本格的にやばいなこの人、となった。

同じ“女性の日常”が題材でも『女子と女子』(バカリズムライブ『なにかとなにか』)のような凶器ではなく、『架空OL日記』はそれこそハロゲンヒーターの前で温まるような作劇とキャラクター造形により、じんわりとずっと眺めていたくなる作品世界である。
それだけに最終回では「バカリズム作品だった」「バカリズムが作ってるんだった」と思い出させられ、妙にさみしくなり、「また彼女たちに会いたい!」と思った。同じような思いをする人は多いだろう。是非映画『架空OL日記』で温まってきてほしい。

最後に。
先日、升野さんが、次に脚本を担当する作品のプロットを話してくれた。これがまた発明すぎて、頭の中どうなってんの?!と感服した。というか、その場で「頭の中どうなってんの?!」と言った。発表が待ち遠しくて仕方ない。

※編成の都合上、バカリズムライブ「ドラマチック」は一部放送されないネタがあります。

小出祐介(コイデユウスケ)
1984年12月9日生まれ、東京都出身。2001年にロックバンド・Base Ball Bearを結成し、2006年4月にミニアルバム「GIRL FRIEND」でメジャーデビューを飾る。これまで2度にわたり、東京・日本武道館でのワンマン公演を成功させた。2019年にEP「ポラリス」「Grape」を発表し、2020年1月22日には3年ぶりのニューアルバム「C3」をリリース。3月にツーマンツアー「LIVE IN LIVE~I HUB YOU 2~」、5月から7月にかけてワンマンツアー「LIVE BY THE C3」を行う。

「24時間バカリズム専門チャンネル」放送ラインナップ

2月23日21:00~ドラマ「架空OL日記」(全10話)

ドラマ「架空OL日記」

監督:住田崇

脚本:バカリズム

出演:バカリズム / 夏帆 / 臼田あさ美 / 佐藤玲 / 山田真歩 ほか

バカリズム演じる“私”を中心とした銀行員たちの日常をリアルに描いた、住田監督いわく「バカリズム脚本の中でも、もっとも独創的でクレイジー(笑)」な作品。バカリズムが“女性”を演じようとせず等身大のままOLたちと会話を繰り広げているのが見どころ。本作は「第55回ギャラクシー賞」テレビ部門特別賞に輝き、また脚本は「第36回向田邦子賞」を受賞した(参照:バカリズム「今後も形にとらわれず面白い作品を」向田邦子賞の贈賞式で意欲)。

※2月24日15:40~も放送。

2月24日1:00~「バカリズムのクリエイティブ脳に迫る質問」

「バカリズムのクリエイティブ脳に迫る質問」

出演:バカリズム

「架空OL日記」の監督・住田崇から投げかけられる100以上の質問に、バカリズムが淡々と答えていく特別番組。「バカリズムの趣味は?」「本気で怒るとどうなる?」「生まれ変われるなら誰?」などの問いから、意外と知られていないバカリズムのルーツや考え方が明らかに。

※2月24日20:00~も放送。

2月24日2:20~「バカリズム THE MOVIE」

「バカリズム THE MOVIE」

“ほぼ”監督・脚本・主演:バカリズム

出演:山崎樹範 / 石井智也 / 津田寛治 / 渡辺哲 / 岡野真也 / 鎌苅健太 / Bose(スチャダラパー) / 池田鉄洋

演出・プロデューサー:住田崇

特殊能力を持つ孤独な少年・魔スノの復讐劇を描く学園サスペンス「魔スノが来たりて口笛を吹く」、現代サラリーマン社会に切り込んだ社会派ドラマ「(株)Rock」、真実の愛を模索する感動ラブストーリー「トップアイドルと交際する事への考察」、メンコをこよなく愛する少年が壮絶なメンコバトルに挑むアニメーション作品「メンコバトラーM」、バカリズム主演のアクションヒーローもの「帰ってきたバカリズムマン」という5つの短編で構成されるオムニバス。バカリズムは「みんなでコント番組を作ったっていう感覚に近いです」と語っている。

2月24日4:15~「素敵な選TAXI」(全10話)

「素敵な選TAXI」

演出:筧昌也 / 星野和成 / 今井和久

脚本:バカリズム

出演:竹野内豊 / バカリズム / 南沢奈央 / 清野菜名 / 升毅

過去に戻ることができる不思議なタクシーの運転手・枝分(竹野内)と、さまざまな事情を抱えた乗客たちの人生再生エンタテインメント。バカリズムにとって初めての連続ドラマ脚本作で、「第3回市川森一脚本賞」奨励賞を受賞した。劇中ドラマ「犯罪刑事」にはバナナマン日村もゲスト出演(参照:「うっすら感動しています」日村がバカリズム脚本ドラマに登場)。

2月24日12:35~「素敵な選TAXIスペシャル~湯けむり連続選択肢~」

「素敵な選TAXIスペシャル~湯けむり連続選択肢~」

演出:筧昌也

脚本:バカリズム

出演:竹野内豊 / 玉山鉄二 / 瀧本美織 / 清水富美加 / 松重豊 / バカリズム / 南沢奈央 / 清野菜名 / 升毅

選TAXIの運転手・枝分が1人旅で訪れた温泉地を舞台に、人生の選択に失敗した宿泊客たちのストーリーを描く。複数の乗客が人生のやり直しを図ろうと奮闘するドラマが同時に展開され、それぞれが複雑に絡み合ってクライマックスに向かっていく。バカリズムならではの巧妙な仕掛けに注目を。

2月24日14:40~バカリズムライブ「ドラマチック」

バカリズムライブ「ドラマチック」

脚本・演出・出演:バカリズム

2018年5月に東京・草月ホールで行なわれたバカリズムライブ「ドラマチック」。すべての伏線を華麗に回収する爽快でドラマチックなオープニングからエンディングまで、バカリズムの笑いを堪能しよう。

日本映画専門チャンネル 「24時間バカリズム専門チャンネル」

2020年2月23日(日)21:00~2月24日(月・振休)21:00