バカリズムの頭の中|映画「架空OL日記」2.28公開記念「24時間バカリズム専門チャンネル」

バカリズムが考える理想の引き際

──質問のリストは事前に渡されていましたか?

バカリズム 送られてはきましたが、本当に普通の質問だから、わざわざ考えるほどのことでもなくて。大喜利でもないので、事実を言えばいいだけですから。逆に「ボケなくていいんですよね?」っていう確認だけはしました。全部嘘を言うこともできましたけど。

住田 ラボっぽくしたかったんです。実験室みたいなセットで、被験者のバカリズムを解剖する。升野さんのドラマや映画を観た人にとっては「こういうことを考えてる人なんだ」っていう面白さがあると思うし、作品に対してまた違う見方ができるんじゃないかなと思って提案しました。

──言ってほしい回答から質問を逆算したということは、住田監督としては意外な答えはなかったですか?

住田 幼少期のことは聞いている部分もあったんですけど、お母さんの話は新鮮でしたね。お写真は一度見せてもらったことがあって、升野さんと似ています(笑)。あと楽屋で話したのは、「やっぱり人格は幼少期に形成されるよねー」って。

バカリズム

バカリズム 何事も根性で乗り切ろうとする感覚とかは、権力争いが熾烈な環境で育ったからっていうのはあると思います。

──「芸人をいつまでやるか」という質問に対する、「気が済んだら」という回答が印象的でした。「気が済む」なんてことはあるのでしょうか。

バカリズム 難しいですよね。やめるときはスパッとやめたいという理想はどの芸人も考えていると思うんです。たぶんそれは全芸人にとっての永遠のテーマで。例えば上岡龍太郎さんのように潔くやめるのってやっぱりカッコいいじゃないですか。それに対する憧れはあるけれど、自分がいざどこでやめるかってなったときに、なかなか決断はできない気がします。「気が済んだら」とは言ったけど、いつ気が済むかは自分でもわからないですね。

──何を成し遂げたら「気が済む」と思いますか?

バカリズム 「出し切ったな」って思えたら、ですかね。自分がやりたいことをやり切って、納得のいくものを作って、それを最高の形で見せることができて、たくさん面白いって言ってもらえて、爆笑が取れて、「もういいや!」ってなったとき。衰えを感じたり、ちょっとしんどくなってきたときより、もうちょっと手前でやめられたらなっていうのは理想としてはある。でも、本当にそうなるかはわからないです。

昔から“無意味”なお笑いが好き

──番組の中では「純度の高いお笑い番組をやりたい」という回答もありました。具体的にはどんなイメージですか?

バカリズム 同世代の人たちとゲラゲラ笑いながらやれるようなものとか。コント番組はやっているけれど、お笑い芸人だけで笑わせる番組というのをあまりやってこなかったので、何の情報性もメッセージ性もない、バカバカしくて笑わせることだけを目的とした番組を1つくらいはやりたいです。僕がやらせてもらう番組って、自分1人のものや、そこにゲストを迎えたり、少ない人数でロケをしたり、という形式が多いんですよ。

──同世代で「こんな番組をやりたいね」という話はしますか?

バカリズム あまりしないですね。僕、ほかの芸人さんとコミュニケーションをとる機会がそんなになくて。昔はライブで気の合う芸人同士が集まってわちゃわちゃするっていうのをやっていたんですよ。以前バナナマンさんと3人でやっていた番組(「そんなバカなマン」)はそれに近くて、すごく楽しかったから、またそういう番組ができたらなと思います。

ドラマ「架空OL日記」より。

──今回映画化された「架空OL日記」の始まりは、バカリズムさんがOLになりすまして綴っていたブログでした。誰に言われたわけでもないのに3年にわたって更新し続けていたこと自体が狂気的に思えるのですが、なぜ続けることができたのでしょうか。

バカリズム 仕事ではなく、純粋に面白いこと、それも人がやらなそうなことをやりたいという気持ちがあって。僕は昔から“無意味”なお笑いが好きなんですよ。意味のない行動や意味のない嘘が。どうせやるんだったら、変にオチをつけたり、笑わせたりする文章ではなく、OLさんがブログを書いたらこんな感じだろうなっていうのを淡々とやったほうが、より無意味になるから面白いなと思って始めました。URLを送って見てもらっていた友達が更新を楽しみにしてくれるようになって、その状況も面白くてなんとなく続けていたら、もっと見せたいという欲が出てきて、名前を出すようになっていきました。

──「続けることがカッコいい」と考えるもう1人のバカリズムさんが監視していてやめられなかったわけではなく、純粋に楽しんでいた?

バカリズム そうですね。楽しくなっちゃってやめられなくなったというほうが正しいかもしれません。ケータイを開いてブログを書いているときは、家に帰ってゲームの電源を入れている感覚です。その世界に入って現実逃避しているような。

新しい笑いで時代を繋いでいく意識

──今さらではありますが、初歩中の初歩の質問をさせてください。バカリズムさんはなぜ芸人になろうと思ったんですか?

バカリズム あはははは(笑)。やっぱり、子供の頃からずっとお笑いは好きで。マンガ家やプロ野球選手になりたいとも思ったんですけど、一番憧れた、自分が一番好きだったのがお笑いだったということが理由になるのかな。男子校だったので、卒業してそのまま就職するのが嫌だったから、とにかく女子のいる学校に進学したいと思ったんですね。でも入れる大学がないから専門学校を探してみたら、日本映画学校だけは座学がなくて一芸入試だから入れそうだぞ、と。お芝居をやって、しかも僕の憧れの女子がいて、毎日文化祭をやっているような楽しそうな学校に見えたんです。そして卒業生にはウッチャンナンチャンさんがいて、あわよくばああなれるんだっていうのも魅力に感じました。いろいろな要素があったんですけど、シンプルに言うとお笑いが好きだったからっていうのが一番大きいです。

──特に憧れた芸人さんは?

左から住田崇、バカリズム。

バカリズム ウッチャンナンチャンさんはやっぱり憧れでした。僕が小学校から高校くらいまでは、お笑いの歴史がどんどん変わっていく時代だったんです。「オレたちひょうきん族」とかドリフターズのあとにとんねるずさんが出てきて、ウンナンさんとダウンタウンさんが出てきて……っていうのを目の当たりにしていたので、オリジナリティのある新しい笑いを発信する人が売れるんだなと自然に刷り込まれていたと思います。だからウッチャンナンチャンさんには憧れてはいたけれど、何かもう一つ自分でオリジナルの笑いを探さなければいけないなと、ぼんやりと思っていました。

──バカリズムさんのオリジナルの笑いは、やはり(構成作家の)オークラさんが言うところの「新しいシステムを生み出すこと」「ハードの量産」でしょうか?

バカリズム そういうことなのかもしれないです。当時は、ほかの人にはない感覚のくすぐり方を模索して、とにかくいろいろな方法をたくさん生み出せば何かしら見つかるだろうという感じでやっていました。

──自分の型を見つけてその中でネタを作っていくスタイルが主流な中、バカリズムさんは最初からさまざまな型を発明しようとしていた。

バカリズム 僕が当時の先輩たちにそういう印象を持っていたので、それが当然というか。今までの固定観念をぶっ壊すようなものじゃないと、芸人になっちゃいけない、売れちゃいけないと思っていたんです。それで売れたら、前の時代の人たちに失礼なので。新しい笑いで時代を繋いでいる先輩たちの姿を見ていて、そこを衰退させてはいけないなと。

住田 そういう意識、最近はなくなりましたね。

バカリズム 僕らくらいの世代が最後かもしれないですね。むしろ僕はそういうのを意識しすぎたっていうのもあるかもしれないですけど。

住田 進化への意識。

バカリズム だから同世代の芸人はすごく尖っていて、ピリピリしている人が多かった(笑)。僕らの世代に比べると、下の世代はもうちょっとお笑いを楽しもうという人たちが多いからか、コンビ仲もいいですしね。それはそれぞれの時代の色だと思います。

──自分の作ったネタに対して、あえてあまり愛情を持たないようにしているという発言もありました。それは進化を意識しているからでしょうか。

バカリズム 毎年自分の感覚を更新していく作業をしていかないと、一瞬で古くなっちゃうと思うんです。もちろん昔のネタをやることもあるんですけど、基本的にはいつでも去年までのネタを捨ててもいいというつもりでいます。特にお笑いは、音楽と違っていつまでも残るもの、笑えるものではないですよね。今思いつくことが一番面白いという状況にするには、自分が過去に作ってきたものをどんどん否定していかなきゃいけない。と言いつつ、ずっと残るものもいつか作れたらなという思いもあるんですけど、なかなか難しいですね。

楽しさと褒め、天秤にかけて褒めを取る

──バカリズムさんは褒められることやチヤホヤされることがモチベーションだとおっしゃいますが、芸人さんや世間の反応を見ると十分評価されているようにも思います。

バカリズム (小声で)そんなに褒められてないんですよね……。

ドラマ「架空OL日記」より。
ドラマ「架空OL日記」より。

──ドラマ「架空OL日記」で受賞した向田邦子賞はこれ以上ない“褒め”なのでは?

バカリズム 向田邦子賞を獲ったのに……みたいなのがどっかにある(笑)。

住田 あはははは(笑)。

──まだ足りないですか(笑)。

バカリズム あんまり生活が変わらないんですよね。僕が外に出ないっていうのもあるんですけど。芸人が、芸人の武器を使って別のジャンルに乗り込んでいくところまではあると思うんですけど、そこでちゃんと結果を出すのって、相当大変だと思うんですよ(笑)。

──はい(笑)。

バカリズム ドラマの脚本は「芸人が変に手を出して」とか「何になりたいんだよ」とか、いろいろ言われるリスクがある世界じゃないですか。そんな状況で一歩目を踏み出して何作も続けてきて、さらに賞までもらったのって、「あっぶね!」みたいな感覚があるんです。「こんなに危ない橋を見事に渡りきったんだから、もうちょっとなんかあってもいいんじゃないの」みたいな気持ちですね(笑)。

──満足しきれない気持ちをモチベーションに変換して、また机に向かう。

バカリズム ずっとこういうのが続くのかもしれないですね。

住田 街で声をかけられたりします? 「よ!」って。

バカリズム それは「うるせえ!」って返しますよ(笑)。

──最後にプレイヤーとしてのバカリズムさんについても聞かせてください。自分で書いたコントを基本的には自分1人で表現するのはなぜですか? 面白いことを発信するには提供という形でもできるわけですが、自分で書いて覚えてという大変な労力のかかる単独ライブを毎年欠かさずにやっている理由を教えてください。

バカリズム 自分がやるのが手っ取り早いっていうことですかね。で、まあ、ほどよく目立ちたいっていう。

住田 あはははは(笑)。

バカリズム うまいと思われたいんですよ(笑)。楽しさだけ考えたら、いろんな人とコントをやったほうが楽しいし、セリフ量も減るから楽だし、お客さんも湧いてくれると思うんです。でも、1人で舞台に立って2時間やるのってかなり大変なことなので、「毎年ああやって1人で舞台に立ってすごいね」って言ってもらえる。2人で同じことをやったらそこまで言われないじゃないですか。“褒め”が減るんです。楽しさを増やすと評価や褒めが減るのがわかっているから、厳しいことを自分に課すんでしょうね。

──楽しさと褒めを天秤にかけて、褒めを取る。

バカリズム 1人で舞台に立って小道具も何も使わないのが一番カッコいいし理想的。自分もそう思われたいから、そうしています。

──ある質問に対する回答で「ガンダムは機械で戦うのがずるい」とおっしゃっていましたね。バカリズムさん自身もガンダムには乗らない。

バカリズム ガンダムには乗らないです。男らしくないです。僕は素手の殴り合いで決着をつけたいんで。

住田 ガンダム、好きじゃないですよね(笑)。

バカリズム 好きじゃないです。アムロに憧れない。弱い人間が好きじゃない。「なんで俺がこいつの挫折とか見なきゃいけないんだよ、勇気づけられねえわ」って思う。創作の世界くらいは強い人間がひたすら勝っていく姿を見てすっきりしたいじゃないですか。

バカリズム

住田 升野さんからガンダムの話を聞くの、初めてでした。

バカリズム 全然しないですね。もちろん周りの人がみんな好きだから多少の情報はありますし、ロボットの造形はカッコいいと思うんですけど、乗ってる奴が嫌い。

住田 アムロが嫌いっていうのも初めて聞いた。

バカリズム 「父さんにもぶたれたことないのに」とか言う奴に憧れない!

──(笑)。住田監督は、「架空OL日記」でも自ら“私”を演じたバカリズムさんのプレイヤーとしての魅力をどんなところに感じますか?

住田 升野さんは芝居が抜群にうまい。僕は基本的に、升野さんが書いたものを一緒にやらせてもらうときは升野さんに出てほしいので、「出てください」とお願いしています。升野さんの世界を一番理解しているのは升野さんだし、升野さんが演じることでバカリズム印がより際立つと思うので。単純に、升野さんのああいう温度の芝居が圧倒的に好きなんですよ。さすが映画学校卒業生。

バカリズム 俳優科ですからね(笑)。