Dr.ハインリッヒが語る、原点のライブと楽園みたいだったNGK初単独

取材 / 狩野有理

忘れられない“出た”ライブ

原点のライブ

幸　ミキに呼んでもらった「どすえライブ」（2016年8月に祇園花月で開催）は、主宰のミキと、てんしとあくまさん、コマンダンテ、ロングコートダディ、さや香、ZAZYと我々で、ネタと大喜利をやるシンプルなライブやったんですけど、異様に盛り上がりまして。というのも、大喜利コーナーで私たちが勝手に大喜利をし始めたんです。MCに指されてもいないのに答えを出したり（笑）。一緒に出ていた後輩たちとはその頃はまだあまり交流がなかったんですが、終わったあとに「ハインリッヒさんのおかげですごい楽しかったです！」って言ってくれて。このライブ、何年も前のことなんですが、今でもミキと会うたびに話すんですよ。「あれ楽しかったなあ」って。当時の私たちは、（大阪・よしもと）漫才劇場の出番数がほとんどない時期やったんです。でも、その大喜利コーナーがただただ面白かったというのを、このライブに出ていた誰かが劇場の担当のスタッフさんに言ってくれて、「ほんならハインリッヒさん呼んで、漫才劇場で大喜利ライブやりましょう！」となった。その子にはすごくに感謝していますね。

彩　それ以来、幸さんが漫才劇場をはじめいろんな劇場の大喜利イベントに呼んでもらえるようになって。「どすえライブ」に出ていたロングコートダディの堂前が主宰している企画とか。

幸　大喜利に呼んでもらえる機会が増えた、始まりの種みたいなライブでしたね。それと、「どすえライブ」のネタコーナーでは、私たちの前がコマンダンテやったんです。コマンダンテって2人とも背が高いから、センターマイクが私たちの身長より高くなっているんですよ。出ていって、まずそれをギュンッと下げたらめちゃくちゃウケた（笑）。それ以来、囲碁将棋さんとか自分たちよりデカい人たちの次に出ていくときは「Dr.ハインリッヒはマイクをギュンッと下げる」というのが定番のようになっていて。その原点でもありますね。

彩　マイクギュンッと大喜利、「どすえライブ」からすべてが始まっています（笑）。

“楽園”みたいだった初のNGK単独

彩　私は今年2月にやった、初のなんばグランド花月での単独ライブです。これまで単独ライブを何回かやってきて、“初のNGK”は芸人たるものやっぱりうれしいもので。出囃子が鳴って、そこにバーっと出ていったときに、満席のお客さんがうわーっと拍手してくれはった感じが……。人生で1回じゃないですか、「初NGK単独」は。あれはうれしかったですね。しかもその日は私の誕生日で。ハインリッヒの初単独ライブは幸さんの誕生日だったんです。これは偶然でしたけど、NGK単独は当時のマネージャーが「彩さんの誕生日にしましょう」って言ってくれて、その日にしました。

※編集部注：Dr.ハインリッヒは双子だが、出産が日をまたいだため彩は2月4日に、幸は2月5日に誕生した。

幸　いい誕生日プレゼントですよね。そこにいる800人、自分たちだけを観に来た人なわけですから。

彩　楽園みたいな感じでした。

幸　出ていったときはうわーっと感動するんですが、いざ始まってしまったら、「この800人の人らを絶対に笑かさなければ」という気持ちになります。

ウケる、スベるの繰り返しの日々

幸　「スベりすぎて忘れられない」ライブもいっぱいありますよ！

彩　それこそ、祇園花月はいつも難しいです。「どすえライブ」の祇園花月は楽しかったですけど、平日の祇園花月の昼寄席は最近でもめっちゃスベりますね（笑）。

幸　芸人たちの中で、祇園花月は「一番難しい」でおなじみなんですよ。でも、みなさん「難しいなあ」って言いながらも笑い声は起こっているんです。私らはほんまに無音のときがある。たまに、すごい無音が続く中、一瞬だけ「ふふっ」っていう声も聞こえるから「ちゃんと話、聞いてくれてたんや！」って驚きます（笑）。祇園花月は大阪や東京の劇場と違う、独特な雰囲気がありますね。お笑いを観に来たというより、なんやろ、「椅子に座りに来てはるのかな？」みたいな……。もちろんお笑いを観に来てくださっていると思うんですが、私たちのことはきっと知らんのやろうな、という雰囲気。

彩　もうね、無音が一番嫌！ でも、そういうことの繰り返しですね。ウケる、ウケへんの落差がすごい日々です。

幸　だから甘やかされないですね。自分を知らん人とか、自分のネタがツボじゃない人の前でネタができるので、つらいですけど、腕は鍛えられます。ちょいちょいスベって……、スベらさせてもらえて（笑）、調子に乗ることを防いでもらっていますね。

忘れられない“観た”ライブ

妙に引き込まれたポスター

幸　2人で文楽（人形浄瑠璃文楽）を観に行ったことがあって。これがめちゃくちゃ面白かったんです。人形を複数人で動かしているのが最初は気になるんですけど、だんだん、人形しか見えへんようになるんですよ。人形を動かす人形遣いの一番トップの方（主遣い）って黒衣と頭巾を着けていないので、はじめは「あの人だけ顔出てるやん！」と人形より気になるんですね。

彩　「この人が一番偉い人なんや！」って（笑）。

幸　でも、だんだんその人がいなくなる、見えなくなる。これが浄瑠璃か！と思いました。

彩　上手に太夫の方と三味線弾きの方がいて、この語りがいわゆる“漫才”の始まり。「これが元祖の芸能かあ」と思いながら観ていました。

幸　太夫の方が絶妙なタイミングでお茶を飲んだのも素晴らしかった。演目に絶対邪魔にならないタイミングで。

彩　めちゃくちゃ所作に品がありました。湯呑の蓋をパカ……って取ってスッと飲んで、サッと蓋を閉じて置くんですけど、それもショーの一部みたいにきれいやった。

幸　文楽は昔から観てみたいと思っていたんですけど、けっこうお値段もしますし、そんなに気軽に行けるものじゃなかった。でも、ポスターを見かけて「あ、やっぱりどうしても行きたい」と。

彩　そのポスターがね、素敵やったんです。いつも電車乗るときに「貼ってあるなー」と思っていて、なんか妙に引き込まれて。何回か見るうちに、ついに「これ、観に行こか？」って幸さんに言って、一緒に観に行きました。

生の醍醐味は？

幸　やっぱり、その空間にいないと感じ取れないものってあるんですよ。

彩　波動。

幸　波動やな。まさに波動。

彩　生のほうが絶対面白い。その人から出ているエネルギー、波動って生じゃないと感じ取れない。

幸　所作、雰囲気、行間とか、言葉にできない部分も伝わるのが生のよさ。五感、六感を使って波動を感じられると思います。幕張メッセでやる「LIVE STAND」はフェスっていう感じですよね。どうなるんかな。

彩　ステージも大きいし、何しようか？ ネタ。

幸　いつもよりは大きめに動いて。

彩　声も大きめに出そうとすると思います。

幸　本番までにオーラを大きくしたい。チャクラを整えておきたいです。お客さんに準備してもらうことは特にないですが……、できるだけスニーカーで来ていただいたほうがいいでしょうね。今注目してほしい芸人は、デルマパンゲです。

彩　「LIVE STAND」に出るかな？

幸　出ないか？（笑） 出えへんかったとしても注目していただきたい。迫田も波動で行く人なので、言葉を生で聞いてほしい。

彩　パワーあると思いますね。

※編集部注：デルマパンゲは「LIVE STAND 22-23」大阪公演への出演が決定している。

Dr.ハインリッヒ

幸（ミユキ）
1981年2月5日生まれ、京都府出身。

彩（アヤ）
1981年2月4日生まれ、京都府出身。

NSC大阪校27期生。2004年5月に結成。拠点としていた大阪・よしもと漫才劇場を今年7月に卒業し、全国の劇場で漫才を披露している。「LIVE STAND 22-23」東京公演に出演予定。8月9日に発売されたフォトブック「大阪芸人生活」（鹿砦社）には2人のインタビューのほか、幸による書き下ろしエッセイが収録される。10月7日（金）には東京・浅草公会堂にて単独ライブ「原液､刑而上学」を開催。吉本興業所属。

Dr.ハインリッヒ単独ライブin東京「原液、形而上学」

日時：2022年10月7日（金）18:30開場 19:00開演 20:30終演
会場：東京・浅草公会堂
チケット：FANYチケットにて8月20日（土）～8月22日（月）まで先行抽選販売。8月27日（土）に一般発売。

「LIVE STAND 22-23」東京公演

日時：
2022年8月19日（金）10:00開場 12:00開演 20:00終演
2022年8月20日（土）10:00開場 12:00開演 20:00終演
2022年8月21日（日）10:00開場 12:00開演 20:00終演
会場：千葉・幕張メッセ 国際展示場9～11ホール
Dr.ハインリッヒは2日目の「OTSU NA ネタ STAGE」（14:00～15:00）に出演予定。