メンバー脱退を経て前向きに
──去年の2月に加賀谷さんが加入したあと、8月にドラマーのサンキューまじまさんが脱退し、以降は3人組として活動されています。メンバーの脱退はバンドにとって大きな節目と言うか、バンドとの向き合い方を改めて考えたり、新たな覚悟が決まるタイミングでもあると思うんですけど、まじまさんが脱退したときの気持ちって思い出せます?
ナツコ どうやったかな。脱退と関係ないかもしれないんですけど、自分についてもっと考えないとアカンのじゃないかなって思った。アカンって言うか、うまく言えないんですけど、自分について考えることで、絶景クジラを好きな人のことも本気で考えられるって思ったんです。
──どういうことですか?
ナツコ さっき「セレンディピティ」の話をしましたけど、「セレンディピティ」って偶然をきっかけに幸運をつかみ取るということで。絶景クジラを好きだと言ってくれる人とか、これまで助けてくれた人にとって、絶景クジラが「セレンディピティ」の1つ目になれたらいいなと思ってるんです。絶景クジラを聴いたり、ライブに来たりすることが、幸運につながると言うか。そうなるためにはどうしたらいいか?と考えたときに、自分が嫌な気持ちを抱えていたり、もやもやしていたらいけないなと。そういう気持ちは、何か問題があるから生まれる感情であって、その問題を乗り越えるためには自分のことを知らなアカンなと思った。自分はどういう人なのか、自分が一番したいことや楽しいと思うことは何なのか、逆に嫌なことは何なのか。そういう単純なことをわかっていないと、どんな困難も乗り越えられないんじゃないかと思ったんです。こう考えるようになったのはメンバーの脱退とは関係ないと思ってたけど、やっぱり脱退前後の嫌な気持ちとか、そこからどうしようかと考えてたときのもやもやしてた気持ちが全部なくなって、前向きになってからこう思えるようになったから、関係あるんやと思う。
──それまでは前向きになれなかった?
ナツコ なんかずっとしんどかったんですよ。
──バンドをやっていることが?
ナツコ バンドじゃなくても、自分について考えることって必要だと思うんですけど、バンドをやることで、その必要性をずっと突きつけられていた感じがして。でもその必要性はわかるんだけど、「自分について考える」ことのやり方がわからんくて、それがしんどかった。インタビューとかでいろんなことを聞かれても、自分のことがわからへんからうまく答えられへんくて、「自分ではこんなに考えてるのに誰にも伝わらへん」って思ってた。
──メンバー脱退を機に、自分と向き合う必要が出てきて、その結果、しんどさから解放されたと。
ナツコ はい。しんどさが全部なくなったわけじゃないんですけど、これからは1つずつ解決していけるんじゃないかなと思えるようになりました。そうやっていろんな問題を乗り越えていくことで、結果的にメンバーや絶景クジラを好きな人のことも幸せにできるようになるんやと思う。
──ものすごく進化しましたね。
ナツコ いや、まだ不安定なので。もうちょっと修行を積まないと(笑)。
違和感が欲しい
──そんなひと皮向けた状態で制作されたのが「Seasick」です。1stミニアルバム「他撮り」(2016年4月発売)は歌に重きを置いた作品、2ndミニアルバム「自撮り」(2016年10月発売)は歌よりも演奏に重きを置いた、オルタナティブなギターロックの作品という印象があったのですが、今作は絶景クジラの持つその2つの魅力をバランスよく融合した作品になった感じを受けました。
ナツコ うれしい。ありがとうございます。
──今作はどのような気持ちで作り始めたんですか?
ナツコ どういう気持ちで作り始めたっけ?
nozo まじまが抜けて「ちょっと落ち着いたな、新曲作りたいな」みたいな感じやなかった?
ナツコ そうやったかな。全然覚えてない……。
──体制が変わると曲作りも変わりますか?
ナツコ メンバーが変わる直前くらいから、自分の中にやりたいことがあって。正直に言うと、抜けたメンバーとはそこで意見が合わなかったんですよね。だから脱退に関しては、誰が悪いかって言ったら自分が悪いんですけど、でもやりたいことに向かえるようになったという意味ではよかったんじゃないかなと思ってます。
──その、やりたいこととは?
ナツコ 曲調やパフォーマンス含めて、もっと違和感が欲しいなと。
──違和感?
ナツコ はい。例えば「モナ・リザ」の絵って、目の焦点が合ってないんですけど、あれを直すと魅力的に感じなくなるっていう話があって。モナ・リザに限らず、絵画で人、特に女性を描くときって左右対称にしないほうが魅力的に見えるそうなんです。その話を聞いたときに「自分がやりたいのはこれや」と思った。違和感のあるものに美しさを感じる、みたいなことを音楽で表現したいんかなと。
──変拍子などで感じる「こう来ると思ったら来なかった」という面白さみたいな?
ナツコ そう。あとは本当は合わへんもののはずなのに、合わせたらすごくきれいに聴こえるとか。そういうことをもっと追求していきたいなと。そこが「Seasick」ではうまく解放できた気がします。
音楽が言ってることを歌詞に
──今作はサウンドの面白さももちろんですが、歌詞とボーカルも魅力的です。歌詞はどのように作っていったんですか?
ナツコ 作品ごとに毎回違うことをしたいと思っていて、今作では「これが伝えたい」という思いや意味を込めるんじゃなくて、“音楽が言っていること”をちゃんと聴いてそれを言葉にしてあげたいと思ったんです。
──音楽が言っていること?
ナツコ ああ、ファンタジックな人みたいになってしまった(笑)。「ベースがこういうふうに鳴ってて、ギターがこんなフレーズを弾いてて、鍵盤はこういう音を出してて、こういうビートやったら、これ言うやろ」みたいな。曲が言ってることを言葉にしたいなって思ってました。
──鳴ってる音楽から何か感じるものがあったんですね。
ナツコ そう。しかもそういうときの自分は、誰かに指図やアドバイスをしたくなくて。何かをするときのやり方ってその人に合ったものがあるし、アドバイスって言われるタイミングもあると思うし、自分が欲しいときに求めるものであると思ってて。だから例えば歌詞でも「明日がんばって生きようぜ」って言うのって違うなと。例えば言いたいことがあったとしても、「マイナーコード弾いてるのに、そんなこと言う?」みたいな乗せ方とか嫌だし。それよりも音楽の言いたいことを歌詞にしたかった。
──ナツコさんは「音楽は人へのメッセージを乗せるものじゃない」と思っている?
ナツコ 聴いて励まされることもあるから、メッセージを乗せるものじゃないとは思わないけど、あくまでもメッセージは音楽が言ってほしいタイミングで言いたい。それが絶景クジラの言いたいときなんだと思います。
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ナツコがむき出しになった「Seasick」
- 絶景クジラ「Seasick」
- 2018年6月27日発売 / BAKURETSU RECORDS
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[CD]
1296円 / BKRT-110
- 収録曲
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- Get down
- Sumile
- Too Busy I Am
- KAIBUTSU
ライブ情報
- 絶景クジラpresents「船酔いクルーズ」
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- 2018年7月8日(日)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
出演者絶景クジラ / DIALUCK - 2018年7月14日(土)東京都 下北沢BASEMENT BAR
出演者絶景クジラ / DIALUCK
- 2018年7月8日(日)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
- 絶景クジラ(ゼッケイクジラ)
- 2013年12月に大阪で結成されたロックバンド。2015年にRO69が主催するコンテスト「RO69JACK 2015」で優勝し、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」に出場した。2016年4月に初の全国流通盤としてミニアルバム「他撮り」をリリース。同年10月に2ndミニアルバム「自撮り」をtricotの自主レーベルとしてスタートしたBAKURETSU RECORDSより発売した。2017年8月にナツコ・ポラリス(Key, Vo)、nozo(G)、加賀谷直毅(B)という現体制になる。2018年6月に4曲入りCD「Seasick」を発表。