アニメ「ユーレイデコ」×KOTARO SAITO|“2つの世界”を行き来する自分が歌う、コラボレーションソング「leaves」 (2/2)

自分100%で書いても、絶対にアニメとしっかり噛み合う確信があった

──実際の曲作りはどんなふうに進めていったんでしょうか。劇伴曲「Glow」が元になっているというお話は先ほど出ましたけども。

元になったメロディはあったんですけど、そのままだとleiftとして歌うにはスタイル的に合わない部分があったので、メロディの譜割やコード進行をちょこちょこ変えて、「どうやったらleiftの人格で歌える曲になるか」という調整をソングライティングの部分で加えていった感じですね。

KOTARO SAITO

──歌詞は新たに書き下ろしているんですよね。どんなふうにアニメ世界に寄り添おうと?

まず一番強く意識したのは、ネタバレだけはしたらダメだということです。第1話のイメージソングということもありますし、アニメの“答え”を歌詞で言ってしまわないように。とはいえ、このアニメが自分にとってどういう話なのか、ある意味で読書感想文になっていないといけないと思ったので、事前にしっかり全話を観たうえで、自分にものすごくズシンと当てはまったところを歌にしていきました。ちょうど「対外的な自分と、新しく生まれ変わろうとしている自分、元の自分」みたいなことをすごく考えていた時期でもあったので、偶然ではあるんですけどアニメで描かれるドラマと実際の自分が図らずもリンクしたんですよね。そういう意味で、「これは自分100%で書いても、絶対にアニメとしっかり噛み合うな」という確信がありました。

──それで「他者からの評価と自分の中にある価値基準」というようなテーマになったと。

そうです。例えば第1話では「らぶ」がどういうものなのかという基本設定について描かれますけど、あれって現実に置き換えたらSNSの「いいね」みたいなものですよね(「らぶ」はトムソーヤ島で生活するための評価係数。面白い動画やかわいい写真を共有し、他人から評価されることで「らぶ」を入手できる)。そういうエンゲージメント指数が直接貨幣になるという発想はすごく現代的だなと思っていて、例えばフォロワーの数字がそのまま収入や社会的地位に結び付いている部分って現実にもありますよね。「この人はフォロワーが多いから影響力がある。じゃあこの人の話は聞こう」みたいな。そうなってくると、そこでは他人に好かれるためのコツであったり、目を引くタイトルだったりが必要になってくる。いわゆる「SNSで注目されるためのハウツー」みたいなものが。

♡と数字で表示されるらぶ。

♡と数字で表示されるらぶ。

──テクニックというか。

そう。まさにそれが「leaves」の「出会い頭 次が見たいタイトル」という歌詞の部分なんですけど。人より注目されたいと思っていると、本質を表現せずに「世の中ウケしそうな」言葉や表現を使おうとしてしまう。世の中のフォーマットの一部に自らを組み込めば、結果どうしても自分自身も他人と比べてしまうし実際比べられる。そこから逃れられずにつらくなる部分だったりもするんですよ。

──他者の価値基準に依存する生き方の苦しさ、みたいなことですよね。

たぶん、僕は根本が、その生き方に向いていないんです。もちろん他人から評価されている状態に心から幸せを感じられる人もいると思うし、どちらが正しいかを議論するつもりはありません。少なくとも僕は、自分が思う「僕らしさ」が表現できてる前提で世の中に存在しないと、苦しくなる局面がここ数年増えてきていた。だから、自分の言葉で世の中に提示して生きていきたいなと思ったんです。ただ、それは「他が求める自分を無視」という意味ではないですよ。他者の評価基準や視点を理解できていないと、何より他者からの評価をまったく得られていない状態だと、それはそれで苦しいんです。他人と生きる社会の中で、自分の弱さも認めて、そのうえでどう自分にピント合わせしていくかが大事になってくるんだと思います。

KOTARO SAITO

──その両面をうまく表現した歌詞になっていますよね。冒頭が「必要なのは 他人に好かれるコツ」、ラストが「必要なのは 自分主導の自信」と対になっていて、まったく逆のことを歌っている。

そうなんです。これまでの自分が定量社会の中でちっぽけすぎる存在だと深く落ち込んでいた時期にこの歌詞を書いていたんですけど、そんなときにアニメ本編を改めて観たことで得た「より前進するには、新しく生まれ変わる自分だけじゃなくて、本来の素の自分を大切にしないとな」という気付きが影響して、こういう歌詞になったんです。つい、従来の自分を否定しがちだったんですけど、自分が決して見せかけだけじゃないと思えるのは、本来の自分あってだなと。歌詞を書きながら、そう思えるようになりました。

──さらに面白いのが、それだけ言葉に重きを置いた歌詞であるにもかかわらず、あまりはっきりしない発音で歌うボーカルスタイルなんですよね。

僕が普段あまり日本語の曲を聴かないというのもあるんですけど、第一印象でそんなに言葉が入ってこない音楽のほうが好きなんですよ。まず音楽として感覚的に「好きだな」となって、そこで初めて「何を歌っているんだろう?」と気になるみたいな。それで歌詞を見たときに「こんなことを歌ってたんだ!」というふうになったらいいなという気持ちで作っています。

──僕が勝手に思ったのは、最初に言葉として入ってきすぎることで説教臭く聞こえてしまうのを避けたかった部分もあるのかなと。

音楽全体で捉えると、そうかもしれない。leiftは基本的にとても「コア」を歌うシンガーなので、あまり歌詞だけが先行して頭に入ってこないほうが音楽として重くならずに済むかなと。かと言って、メロディとサウンドの質感だけで勝負する音楽にもしたくはないんですよね。外側は音楽的な美学でガチガチに固めながらも、歌っている内容は人間としての弱さであったり、本当は恥ずかしくて見せたくないようなところを100%の正直さで言葉にしたい。leiftとして作る音楽は、そういうものを目指しています。

「ユーレイデコ」チームの懐の深さ

──劇伴とコラボソングの両方を手がけられて、その違いはどんなふうに感じました?

まるで違いました。劇伴は作曲家としての仕事にすごく近い部分があって、制作チームの作り上げる世界観にどうアプローチするか、自分もチームの中の1人みたいな感覚だったんですけど、コラボソングのほうはもうちょっと自分主導というか。もちろん、俯瞰で見ればこちらも「ユーレイデコ」チームの一員であることに変わりはないんですけど、特にソングライティングの段階ではアニメ制作におけるいろんな事情をいったん置いといて、なるべく深く考えずに書こうと思っていた気がします。

──そもそもコラボソングにはそれが求められているでしょうしね。各アーティストのカラーをできるだけ色濃く出してほしい、みたいな。

最初に佐藤さんもそういうふうにおっしゃっていましたね。なので、普段の作家仕事みたいに「自分に何を求められているのかな?」と聞き手に回ることはしないようにしようと。

──あくまで語り手として作ったわけですね。だからこそleiftの入る余地があったと。

そうですね、「ユーレイデコ」チームの懐の深さを本当にリスペクトしています。しかも、わざわざミュージックビデオまで作ってくれてるんですよ? びっくりしちゃって。それも15秒や30秒のスポットではなく、まさかフルサイズで作ってもらえるとは。その労力を惜しまず、最大限いい形で音楽との掛け算をしようという気概がすごいです。僕の曲だけじゃなく、12曲分全部やるってことですもんね。

──そもそも「12話全部にイメージソングを用意しよう」という発想からして普通じゃないですよね。

本当ですよ。しかも、それを手がけるアーティストのラインナップも普通じゃない。ベテランの方から気鋭の方までいらっしゃいますけど……これはもしかしたら失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、知名度とかではなく「純粋にアニメと掛け算したら面白いアーティストは誰か」という基準で選ばれているのが伝わってきました。無名の新人、読み方さえも分からないであろうleiftを参加させてくれたことがまさにその証明だと思うんですけど。

──確かに、そろばんをはじいて考えた人選ではない感じがします。

最初に「『leaves』には誰かをフィーチャリングするつもりだった」という話をしましたけど、むしろ僕のほうが「誰に歌ってもらったらSNSで話題になるだろう?」みたいに考えていましたから。それを僕が歌っていいとなったときは「だとすると、これは量的な効果ではなく質的な効果を求めて書くべきなんだろうな」と思いましたね。

──広く撒くのではなく、1点を刺しにいく方向で。

効果範囲は広くないかもしれないけど、刺さったら深いぞと。そういう作り方を許容してくれたというか、なんなら要求してくれた「ユーレイデコ」チームの器の大きさには本当に感謝しかないです。

KOTARO SAITO

プロフィール

Kotaro Saito(コウタロウサイトウ)

作曲家 / サウンドプロデューサー / ピアニスト。思春期をインドで過ごし、独学で作曲とピアノを取得。ピアノと弦楽器、ビンテージのシンセサイザーやリズムマシンを基調に、繊細さや優雅さ、骨太さを共存させた音楽を得意とし、これまでに4枚のアルバムをリリースしている。ファッション、ビューティ、ジュエリーを中心としたCM音楽も数多く手がける。また、ホテル「アロフト東京銀座」の館内ライブイベントをプロデュース。文筆家として音楽メディアなどへの寄稿も行っている。2022年6月より、作曲活動と並行してシンガーソングライター・leift(レフト)としての活動を開始。