アニメ「ユーレイデコ」×KOTARO SAITO|“2つの世界”を行き来する自分が歌う、コラボレーションソング「leaves」

7月から放送中のテレビアニメ「ユーレイデコ」。このアニメの各話をイメージしてさまざまなアーティスト陣が書き下ろしたコラボレーションソングが、毎週放送終了後にリリースされている。

「ユーレイデコ」は現実とバーチャルが重なり合う情報都市・トムソーヤ島をユーレイ探偵団が駆け抜ける近未来ミステリーアドベンチャー。物語は「らぶ」と呼ばれる評価係数が生活に必要不可欠になったトムソーヤ島で起こった、“0現象”という「らぶ」消失事件に少女・ベリィが巻き込まれたことから動き出す。ベリィは“ユーレイ”と呼ばれる住人のハックたちと出会い、怪人0と0現象の謎を突き止めるためにユーレイ探偵団に参加。トムソーヤ島に隠されたある真実に近付いていく。全12話から生まれた12曲のコラボレーションソングは、毎話異なるアーティストが担当。KOTARO SAITO(with leift)、Yebisu303×湧、TWEEDEES、ココロヤミ、Sarah L-ee×浅倉大介×Shinnosuke、YMCK×MCU、kim taehoon、スマイリー(CV:釘宮理恵)×DÉ DÉ MOUSE×パソコン音楽クラブなど、豪華アーティスト陣が参加している。

音楽ナタリーとコミックナタリーでは「ユーレイデコ」をさまざまな側面から紐解くため、複数の特集を展開中。先日はミト、KOTARO SAITO、Yebisu303の劇伴制作陣による座談会を掲載したが、今回は劇伴に加えて第1話のコラボレーションソング「leaves(with leift)」(※正式表記は「leαves(with leift)」)を手がけたKOTARO SAITOのインタビューをお届けする。作曲家、サウンドプロデューサーとしてCMソングなどを制作してきたSAITOは、プロデューサー名義のアーティスト活動に加え今年の6月よりleift(レフト)としての活動をスタートさせている。「leaves(with leift)」も彼自身が歌唱するナンバーだ。インタビューではコラボレーションソングがどのように生まれたのか、その制作背景に迫る。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 梁瀬玉実

「ユーレイデコ」ストーリー

現実とバーチャルが重なり合う情報都市・トムソーヤ島をユーレイ探偵団が駆け抜ける近未来ミステリーアドベンチャー。物語は「らぶ」と呼ばれる評価係数が生活に必要不可欠になったトムソーヤ島で起こった、“0現象”という「らぶ」消失事件に少女・ベリィが巻き込まれたことから動き出す。ベリィは“ユーレイ”と呼ばれる住人のハックたちと出会い、怪人0と0現象の謎を突き止めるためにユーレイ探偵団に参加。トムソーヤ島に隠されたある真実に近付いていく。

僕が歌って大丈夫ですか?

──SAITOさんはアニメ「ユーレイデコ」第1話のイメージソング「leaves(with leift)」を手がけていますが、本編の劇伴も一部担当していますよね。話としては、どちらが先だったんですか?

劇伴が先ですね。劇伴を納品したあと、「ユーレイデコ」の音楽プロデューサーの佐藤純之介さんから「1話ごとにアーティストを立ててコラボソングを作る企画をやるかも」という話を聞いて、ありがたいことに「SAITOさんにも1曲お願いしたいと思っています」と言っていただいたんです。

KOTARO SAITO

──オーダーはどのようなものだったんでしょうか?

「劇伴曲を再解釈するような楽曲を」というオーダーをいただきました。なので最初は劇伴の延長のような感じで、自分はトラックメイカーとして関わるつもりだったんですよ。誰かをフィーチャリングして歌ってもらう想定で、「誰に頼んだら面白いかな?」ということをずっと考えてたんです。

──それが結果的には、SAITOさんのシンガーソングライターとしての名義であるleiftをフィーチャリングするという形で、自ら歌うことになったわけですよね。これはどういう経緯で?

その頃ちょうど、「ユーレイデコ」とはまったく関係ないところで、僕自身の活動の展開として「新しい音楽の表現をやりたい」と考えて、模索していた時期だったんです。それが“歌う”ということだったんですけど、そのleift名義で最初にリリースした「bleach」という曲を佐藤さんが聴いてくれて、そのうえで「SAITOさんが歌うのもありだと思いますよ」と言ってくださったんです。「マジですか? いいんですか? 僕が歌って大丈夫ですか?」と思いながら、内心はすごくうれしくて。

──始めたばかりのシンガー活動をいきなり認めてもらえたということですもんね。

はい。それで、「ユーレイデコ」自体が超再現空間というバーチャル世界と現実世界とを行き来するような話でしたし、KOTARO SAITOとleiftとを行き来しながら自分の2つの側面を表現するというやり方は、テーマ的にもマッチするなと思ったんです。言ってみれば、「現実世界のKOTARO SAITOが超再現空間へ行ったときにleiftになる」みたいなことが今回の僕の役割なのかなと。その意味で、自分で歌う形にするのが一番整合性が取れると考えたわけです。

──leiftというアバターを着るような感覚?

そう。でも不思議なんですけど、どちらかというとleiftのほうが素の自分に近い感覚もあって。KOTARO SAITOは職業作曲家としても長く活動してきたので、クライアントなり関係各所の意向も汲み取りながら音楽として最高の表現をするという仕事への向き合い方に慣れているんですけど、leiftの場合はそうではなく、100%自分の内部から出てくるものを「自分はこういう人間なんだ」と表現するためのプロジェクトです。だから、leiftとして「ユーレイデコ」に関わるとなったときに「どういうことになるんだろう?」というのはあったんですけど。

──先日の劇伴座談会(参照:「ユーレイデコ」特集|ミト(クラムボン)、KOTARO SAITO、Yebisu303が語り合うアニメ劇伴の世界)でミトさんがおっしゃっていた、クラムボンと作家仕事の違いみたいなお話ですね。

そうですね。ミトさんはアーティスト出身で、僕は作家出身という違いはあるんですけど。僕は作家として「自分の思惑と他者の思惑を何%ずつ振り分けたら一番いい形の100%になるか」をけっこう自然とやれる人間になっている自覚があったので、あるときふと「じゃあ、それを自分100%でやったらどうなるんだろうな?」という発想に至りまして。それがleiftの出発点になっているんですよ。そういうことを意識的にやっていかないと、たぶん次に進めないなと思って。

──なるほど。

そういう自分の個人的な思いが、「ユーレイデコ」で描かれるストーリーともたまたま合致したんですよね。「leaves」はleiftとして100%自分のことを歌ったものではあるんですけど、それがそのままアニメと自分との掛け算にもなった。僕的にはとってもピュアな、まさにコラボだなという曲作りができた手応えがあります。

思い出深い1年

──「leaves」は、クレジット表記もすごく興味深いです。作詞がleift、作編曲がKOTARO SAITOとなっていて。

そうそう。もともと「ユーレイデコ」の劇伴として作った「Glow(feat. Charlotte is Mine)」というボーカル曲があるんですけど、それがベースになっているので、作曲者はKOTARO SAITOなんですよ。leiftのオリジナル曲は基本的に作詞作曲をleift、編曲とプロデュースをKOTARO SAITOというふうにしているんですけど、そういう意味では今回はちょっと作り方が特殊だったので。

──先日の座談会でも、そうしたチャンネルの切り替えがSAITOさんは得意というお話になりました。作詞をするときや歌うとき、アレンジをするときなど、スムーズにチャンネルを切り替えつつやっているわけですね。

そうですね。ただ、歌うことって思っていた以上に大変で……これは声を大にして言いたいんですけど、本当に歌うのって大変なんです。最初は技術的な要因で本当に苦しくて、leiftというチャンネルを開発中の段階ではまったく切り替えができず、つらい思いをたくさんしました。それが今となっては、ステータスはさておきleiftという形が1個できあがりはしたので、生まれたものを客観視できるようになったことで冷静にスイッチングできるようになった感覚はあります。

KOTARO SAITO

──新しいチャンネルの設定というか、仕様を固める期間が必要だったんですね。

そうです。それがしっかり固まって、最初の「bleach」という楽曲ができたあとに「leaves」をleiftでやれることになったので。そういう意味では、ちょうど「できるかも」と自分の中で思えるようになったタイミングだったのかもしれないです。

──アニメ制作の進行具合と、SAITOさんの音楽家としての進行具合がちょうど噛み合ったような感じ?

僕の中では、首の皮一枚でつながったような心境でしたけどね。「ユーレイデコ」の劇伴を作り終えて、放送が始まるまでの間が1年くらいあったんですけど、その間にleiftがデビューして、コラボソングをそのleiftでやることになって……本当にこの1年間は僕の中で思い出深く、正直、今後思い出したくない1年でした。