「ユーレイデコ」特集|ミト(クラムボン)、KOTARO SAITO、Yebisu303が語り合うアニメ劇伴の世界

ミト(クラムボン)、KOTARO SAITO、Yebisu303が劇伴を手がけるテレビアニメ「ユーレイデコ」が7月より放送されている。

「ユーレイデコ」は現実とバーチャルが重なり合う情報都市・トムソーヤ島をユーレイ探偵団が駆け抜ける近未来ミステリーアドベンチャー。物語は「らぶ」と呼ばれる評価係数が生活に必要不可欠になったトムソーヤ島で起こった、“0現象”という「らぶ」消失事件に少女・ベリィが巻き込まれたことから動き出す。ベリィは“ユーレイ”と呼ばれる住人のハックたちと出会い、怪人0と0現象の謎を突き止めるためにユーレイ探偵団に参加。トムソーヤ島に隠されたある真実に近付いていく。アニメーション制作はサイエンスSARU、監督は霜山朋久、シリーズ構成・脚本は佐藤大が担当。アニメのオープニング主題歌にはクラムボンの「1,000,000,000,000,000,000,000,000 LOVE」、エンディング主題歌にはパソコン音楽クラブが制作したHack’nBerryの「あいむいんらぶ」が使用されている。さらに各話をイメージしたコラボレーションソングも毎週配信中。コラボレーションソングはKOTARO SAITO、Yebisu303、TWEEDEES、ココロヤミなど、各話ごとに異なるアーティストが制作している。

音楽ナタリーとコミックナタリーでは「ユーレイデコ」をさまざまな側面から紐解くため、複数の特集を展開予定。今回はミト、KOTARO SAITO、Yebisu303の劇伴制作陣による座談会をお届けする。座談会には本作の音楽プロデューサー・佐藤純之介も同席した。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 星野耕作

劇伴はコライトでやったほうが絶対面白い

──今日はアニメ「ユーレイデコ」で劇伴を担当されたお三方にお集まりいただきました。まず、作品に対する皆さんのご感想を聞かせてください。率直にどんな印象を持ちましたか?

ミト やっぱり「(佐藤)大さんと湯浅(政明)監督が作ったんだな」っていう、業のようなものを感じたかな(笑)。

KOTARO SAITO ははは、なるほど(笑)。僕は、怪人0という存在がすごくいいなと思いましたね。怪人0は“らぶ”(社会的な評価を数値化したもの)を消失させる“0現象”というものを起こすんですけど、それを現実のSNSとかに置き換えてみると、積み上げてきたものがゼロになるのってSNSをがんばってきた人にとっては恐怖だろうし、逆にSNSに悩んできた人にとっては希望かもしれない。そんなことを想像させられました。Web2.0からWeb3への価値基準の転換みたいなところに重なる部分もちょっとある感じがしますし、発想としてイケてるなあと。

Yebisu303 私はユーレイ探偵団の立ち位置が好きですね。彼らは、トムソーヤ島の一般的な価値基準の外にいる人たちで。でも社会を完全に捨てきっているわけではなくて、活動の報酬に“らぶ”をもらっていたり、生活に必要な部分はうまく利用して暮らしているわけです。一般社会の価値観に振り回されることなく、クレバーに利用していく図太さがあるんですよね。そういう人たちをメインキャラクターに据えているところが、世界設定としてすごく面白いなと思いました。

♡と数字で表示されるらぶ。

♡と数字で表示されるらぶ。

ユーレイ探偵団

ユーレイ探偵団

──皆さんも一般的な勤め人とは違う生き方をされているわけですし、ユーレイ探偵団に対して共感のような気持ちがある?

Yebisu303 確かに、ちょっとシンパシーを感じるところはありましたね。ちなみに私、実はまだ最終話を観ていないんですよ。最後は視聴者の皆さんと一緒に観たくて。

ミト めっちゃわかるー。

Yebisu303 観ちゃうと、視聴者を差し置いて自分の中で終わってしまうような気がして。ゲームとかでもそういうことをしがちなんですけど。

ミト ラスボスを倒さずにうろうろしてたり? どんどん経験値だけがたまっていって、必要以上に強くなってしまうみたいな。

Yebisu303 で、最終的にラスボスに圧勝しちゃうという(笑)。

左からYebisu303、KOTARO SAITO、ミト。

左からYebisu303、KOTARO SAITO、ミト。

──(笑)。そんな作品で皆さんが担当された劇伴についてなんですけど、複数人で劇伴を担当するというのは、わりと珍しい形なのかなと思うんですが……。

ミト 僕の知る範囲だと、最近のアニメ案件ではけっこうある形ですね。それに、常日頃から自分は「劇伴はコライトでやったほうが絶対面白いものになる」と思っていて。もっと言うと、劇伴作家って例えば「スコアを書くのは得意だけど打ち込みは苦手」みたいな人の場合、打ち込み作業はほかの作家に投げていたりするものなんですよ。そういう、表面には見えない部分をもっとちゃんとフックアップしたほうがいいよなとずっと思っていて。自分がトーマス(TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST。松井洋平、伊藤真澄とのユニットで、「ももくり」「彼女と彼女の猫」といったアニメ作品の劇伴を担当)をやっていたり、デデくん(DÉ DÉ MOUSE)を編曲で絡ませたりしているのも、その意識の表れではあるんです。

SAITO なるほど、なるほど。

ミト そういうことを前々から純さま(佐藤)とはプライベートでもよく話していたので、たぶんそこをちゃんと踏まえてくれたうえで、このお二方を呼んでくれたんだと思います。

佐藤純之介 そうですね。まずSAITOさんに関しては、彼の作った「Mother Spaceship」という80年代的なSF感のあるカッコいい曲の印象が個人的に強く残っていまして。絵コンテを見ているときにそのイメージが湧いてきたので、お声がけしました。

SAITO それがきっかけだったこともあって、僕がずっと“自分の音楽”として作り続けてきたものの延長線上にあるような曲ばかりをオーダーしていただいたので、非常に作りやすかったです。僕は普段、CM音楽を作る仕事を多くやっているんですけど、そちらでは本当に幅広くいろんな音楽性を必要とされるんです。そういう意味では、そのときの自分らしさを生かす形で曲作りに臨めました。

佐藤 そしてYebisuさんに関しては、譜面も何もない状態でシンセを何台もつないでリアルタイムに音楽を作っていくマシンライブを拝見したことがありまして。それがすごく楽しかったので、本当はアニメの画を観ながらパフォーマンスで音楽を当てていく手法で作ってもらいたかったんですけど、タイミング的にそれは叶わず。

Yebisu303 それでも、私もSAITOさんと同じ印象ですね。自分がいつも作っている音楽の延長線上にあるイメージの作品だなと思いましたし、安心して作ることができました。

──3人の役割分担はどういうふうになっているんですか?

佐藤 「トータルの世界観を作る役割をミトさんにお願いしよう」というのがまず大前提としてありまして。そのうえで、キャラクターの感情や人同士のつながりに関する曲はミトさん、シチュエーション別で使う曲はSAITOさんとYebisuさん、という形で分担してもらいました。

ミト 確かにそうかも。今言われて初めて気付きました(笑)。

佐藤 その中で、SAITOさんには主に超再現空間の部分、Yebisuさんには学校など日常のシーンを担当してもらった感じです。お二人は劇伴の仕事が初めてということもあったので、ボリューム感も含めてある程度こちらで限定したうえでお願いしました。

贅沢な時間の使い方をさせてもらえた

──作曲を進める中で、何か苦労したことはありましたか?

ミト すごく難しかったのが、「我らユーレイ探偵団」かな。事件が起きたときにみんなで対策を練るシーンで使われるんですけど、最初に作ったのがけっこうわちゃわちゃした感じの曲で。ただ、画面上のキャラクターたちもすごくわちゃわちゃしてるから、霜山(朋久)監督的には「なんか、もうちょっと……」があったんだと思う。

Yebisu303 キャラクターもみんな濃いですしね(笑)。実際に画と合わせてみないと、なかなかつかみづらいところなのかもしれません。

ミト そう、「ユーレイデコ」のキャラって意外と濃いんですよ。それが一堂に会するシーンとなると「え、俺どこまで書いたらいいの?」みたいな(笑)。どんどん引き算していく作業だったんですけど、監督の「もうちょっと……」を汲み取るまでにけっこう時間を要しました。リテイクもわりとありましたよね。

ミト

ミト

佐藤 そうですね。今回ちょっと特殊だったのは……普通は劇伴の作業って最初に数曲作っていただいて「この方向性でOK」となったら残りの何十曲かは一気に作って納品してもらうパターンが多いんですけど、今回は1話分ずつ出してもらってはチェックして戻して、を繰り返していって。

ミト そういう意味では、すごくぜいたくなシチュエーションでしたよね。霜山監督が逐一「この曲よかったです」とか言ってくれるんですけど、「いちいちそんな丁寧にリアクションくれて、自分の仕事は進むの?」と思ってました(笑)。

SAITO 僕は劇伴仕事が初めてだったので、もちろん通常の案件がどういう感じなのかは知らないんですけど、確かに贅沢な時間の使い方をさせてもらえた印象はありますね。ミトさんと違って曲数が10曲前後と少なかったからというのもありますが、まったく徹夜もしませんでしたし。

Yebisu303 噂では「一晩で4、5曲作って納品」みたいな話も聞いたりするので……。

──ミトさんは実際にそういうご経験があったりします?

ミト え、それは答えないといけませんか?

一同 あはははは!

Yebisu303 もうそれが答えになっていますね(笑)。

SAITO CM音楽の世界でも厳しいスケジュールの中での作業はなくはないので、やろうと思えばもちろんできるんです。でもやっぱり、ちゃんと考える時間をいただいて作るのと、ただがむしゃらにやるのでは意味が違いますね。今回は本当に1シーン1シーン、シナリオを読み込んでキャラクターの動きを僕なりに想像しながら作ることができたので、クライアントワークのわりにはすごく“自分事”として進められたなと感じています。

Yebisu303 私もそうですね。それなりにリテイクもありましたけど、最終的には「すごく納得できるものが作れた」という感覚です。いいお仕事だったなあという。

左からYebisu303、KOTARO SAITO。

左からYebisu303、KOTARO SAITO。

──ミトさんとしては、今回のやり方と普段のやり方ではどちらがやりやすいですか?

ミト うわー、難しいところですね。もちろん2人と同じように1曲1曲をしっかり噛み砕きながら作れたという喜びはあるんだけど、1個のコンテンツに対する集中力を持続的に維持するのが意外と大変だった面もあって……その都度チャンネルを切り替えるなんていう器用なことはできない人間ですから(笑)。ほかの仕事も挟みながら、ずーっと「ユーレイデコ」を背負ったまま過ごしていた気がします。

佐藤 通常であれば「この1カ月をうちの作業にください」というふうに短期集中で進めるんですけども、今回に関しては「今月のうち、この1週間を」というのが何カ月も続きましたもんね。

ミト 1年くらい続いたんじゃないかな? だから、どちらにもよさはありますよね。集中して一気に作り切る案件であれば、それが終わっちゃえばもうそのチャンネルは必要なくなるんで。