優河が4年ぶりニューアルバムで描く“夜明け”に託した希望|ドラマ「妻、小学生になる。」のプロデューサーと語る家族の愛情

優河が約4年ぶりとなるニューアルバム「言葉のない夜に」を完成させた。

「言葉のない夜に」の制作には、2018年発表の前作「魔法」でタッグを組んだ“魔法バンド”(岡田拓郎、千葉広樹、神谷洵平、谷口雄)の面々も参加。本作は2020年上演のミュージカル「VIOLET」への出演を経てたくましさを増した優河の歌声、普遍的な魅力のあるソングライティング、モダンなサウンドデザインが光る1枚となっている。またTBS系金曜ドラマ「妻、小学生になる。」の主題歌「灯火」も収められている。

音楽ナタリーでは優河と、その歌声に惹かれ彼女にオファーしたというドラマ「妻、小学生になる。」のプロデューサー・中井芳彦氏にインタビュー。「灯火」の制作秘話や、亡くなった妻が小学生に生まれ変わるという一風変わったドラマで描いた“家族の愛情”について語ってもらった。また、特集の後半には優河が「言葉のない夜に」について語る単独インタビューも掲載する。

取材・文 / 金子厚武撮影 / 廣田達也(ソロカット)、 草野庸子(対談)

優河×中井芳彦プロデューサー 対談

左から優河、プロデューサー・中井芳彦。

左から優河、プロデューサー・中井芳彦。

優河との出会い

──まずは中井プロデューサーが、優河さんにドラマ主題歌を依頼した経緯を教えてください。

中井芳彦 このドラマをやることが決まった頃に、優河さんのお母様(原田美枝子)が監督された映画「女優 原田ヒサ子」をユーロスペースに観に行ったんです。不思議な映画だなという印象で、そのときに挿入歌を担当した優河さんのプロフィールもいただいたんですね。で、去年の秋に今度は立川で「女優 原田ヒサ子」を上映するという話を聞いて、もう1回観たら感覚が違うかなと思い、また観に行ったんです。しかも優河さんが登壇する回で、生で歌声を聴くことができて。「妻、小学生になる。」をドラマ化するにあたって制作チームが求めていた母親としての強い声、生命力のある声にピッタリなんじゃないかと思い、オファーをさせていただきました。

優河 ありがとうございます。

──立川では何を歌われたんですか?

優河 映画の挿入歌として「魔法」(2018年発表の2ndアルバム)に入っている「瞬く星の夜に」という曲が使われていて、上映後にその曲を生で歌わせていただいたんです。

中井 その演奏を聴いてすごいと思って、出演者の事務所に主題歌の話を持って行ったんです。そしたら事務所の皆さんがもともと優河さんのことをご存知で、ミュージカルもご覧になられていたらしく「すごい才能の方です」と逆に僕が教えられました(笑)。

──実際に曲を作るにあたっては、どんなやり取りがあったのでしょうか?

中井 まだ台本はなかったので、原作をお持ちして、「こういうイメージで」というのを事務所でお話しました。家族の話なので、家族の背中を後押しするような歌にしてほしいということと、とはいえドラマの内容をなぞらなくてもいいです、ということをお伝えしました。

優河 家族や近しい人に「ありがとう」という気持ちが伝わるような歌にしてほしいと言っていただいたことを覚えています。

──原作を読んで、どんな印象でしたか?

優河 「これがドラマになるんだ」とびっくりしましたね。堤さんが演じるお父さん・圭介も、蒔田(彩珠)さんが演じる娘・麻衣ちゃんもけっこう序盤で生まれ変わりを信じるじゃないですか。私も読み進めていくうちに、あまり違和感がなくなっていって。ファンタジーではあるけど、違和感なく読めて、それがすごいなと思いました。麻衣ちゃんの「私とお父さんの信じるものはお母さんだった」という台詞がすごく大きいと思って、2人が信じるものが明確だったから、こっちも迷いなく信じることができたんだと思います。

左から優河、プロデューサー・中井芳彦。

左から優河、プロデューサー・中井芳彦。

「灯火」の制作秘話

──曲作りはスムーズに進んだのでしょうか?

優河 けっこう難航しました(笑)。私は普段から「悲しみ」にフォーカスしてしまう癖があるので、今回も最初は「いなくなった人」にフォーカスして歌詞を書いてしまって。自分の周りでも近しい人が亡くなってしまい、どうしてもそっちに引っ張られてしまったんです。でも、それを提出したら「いなくなってしまった存在は確かに重要だけど、もっと前を向くような曲にしてほしい」と言われて、それはそうだなと思って書き直しました。

──中井さんは曲を聴いてどんな印象でしたか?

中井 最初は出だしが「木漏れ日揺れる影に」からだったんです。それもよかったんですけど、ドラマの主題歌は鳴った瞬間に気持ちがグッと持って行かれる感じが欲しいので、歌い出しのインパクトをご相談できないかお伺いして。その後にサビの「どこへも行かないで」から始まる今の形のデモをいただいて「すごい!」と。

優河 最初はこれだとトゥーマッチなんじゃないかと思ったんです。でも、サビを頭に持ってくることで、より対象が明確になって、私も気持ち的に歌いやすくなって……実際に歌うとなると、難しかったんですけど(笑)。

──それはなぜ?

優河 ジワジワ盛り上がる曲は経験があるんですけど、1発目から7、8割に持っていく曲はあんまり歌ったことがなかったんです。あと私は歌詞で気持ちを書くことが苦手で、情景を描くことが多いから、そこもちょっと苦戦しました。でも、やっぱりドラマは観ている人も登場人物の気持ちに重ねて聴くと思うから、結果的に今の形の方がよかったなって。昨日もドラマを観ていたんですけど、自分で泣きそうになっちゃいました(笑)。

左から優河、プロデューサー・中井芳彦。

左から優河、プロデューサー・中井芳彦。

中井 作っていただいたときはまだ1話の台本しかなかったんですけど、1話の最後に「2人で自転車に乗って帰る」というシーンをどうしても入れたかったんです。お父さんと小学生の女の子なので、手をつないで歩くのはちょっと違うというか、小学生の方から抱きしめる形にしたかった。で、絶対その場面で曲をかけたいと思っていたときに、今の歌い出しのものをいただいて、そこで1話が見えたと思ったのをすごく覚えています。

優河 歌い出しをどうするか悩んでいたときに、バンドのメンバーにリハーサルで「どういうシーンで流れるの?」と聞かれて、「こういうお話だから、たぶんこういうシーンで流れると思う」と説明したら、「それを実際やってみよう」って寸劇を始めて(笑)。

──えー! 誰が誰の役をやったんですか?(笑)

優河 小学生役が神谷さんで、お父さん役が岡田くん(笑)。それを見たあとに、私の歌が入るっていうのをシミュレーションして、「これならいいかもね」って。意外とみんな演技派で、普段どっちかっていうとシャイな人たちなのに、今までで一番くらい声を出してました(笑)。