ナタリー PowerPush - yucat

痛みや悲しみを吐き出したデビュー作で示した「終わりと始まり」

元RYTHEMの加藤有加利が、ソロプロジェクト“yucat”として1stミニアルバム「PARALLEL WORLD~終ワリノ始マリ~」をリリースした。これまでひた隠しにしてきたという心の中に存在する闇の部分を、もう1人の自分=yucatに託して表現しつくす本作は、これまでの彼女のイメージからすれば対極とも言えるダークなもの。しかし、そこで描かれている、深い闇に飲み込まれそうになりつつもその先に光を求める姿は、人間の本質を痛いほどリアルに表しているようでもある。

「yucatという存在が自分の中にいるから私はずっと笑顔でいられた」と語る加藤有加利が紡ぎ出した新たなストーリー。その始まりについて話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき

yucatは11歳頃から私の中にずっといたもの

──ソロプロジェクトyucatがどういった経緯でスタートしたのかを、まずは教えていただけますか?

はい。そもそもyucatという存在は、11歳頃から私の中にずっといたものだったんですね。私の中の汚い部分や黒い部分、自分の隠したい部分を担ってくれているもう1人の私、といった感じで。

──もう少し詳しく聞かせてください。

「505」イメージイラスト

私はもともと、いい子に思われたいとか、優しいと思われたいとか、自分の求める完璧像を常に作ってしまうタイプだったんですけど、その裏には当然黒い部分もあるわけです。でもyucatという存在がいてくれたことで、私は常に笑っていることができたんですよ。さらに、私は幼少期の家庭環境がちょっと複雑だったこともあって、身体中にアザができてしまうこともあって。そういうときに、そのyucatという存在が痛みや悲しみを全部担ってくれるようになったので、私はそういうつらい感情を自分のものではないと思うことができていたというか。だからこそ、そこでもやっぱり笑っていることができていたんです。

──なるほど。陰と陽、その両方があるからバランスが取れているといった感じですね。

そうですね。で、そうやって私の中にずっと存在していたものなんだけど、今まではそれを誰かに見せたりすることは一切なかったんですよ。近い存在である友達にも見せたことはなかったから、もちろんそれを音楽にしようなんてことも思ってなかったんです。でも、RYTHEMを解散させたあと、この先も音楽を続けていきたいと強く思ったときに、私にはきっとこれしかないんだなって気がしたんですよね。誰にも明かしたことのない自分の中の存在を曲にすることによって、オリジナルなものをみんなに届けられるんじゃないかなって。

──それは必然的にRYTHEM時代とはまったく違った音楽性になるわけですよね。

はい。でも、RYTHEMは新たな音楽の道を別々に歩むために解散したわけだから、まったく違ったことをやらないとファンの皆さんは納得してくれないだろうなって思ったんです。RYTHEMと同じような音楽をやるんだったら、それは2人でやるべきだって今でも思っているので、今までとは違う私を見せることに意味があったんですよね。

yucatの音楽は自分の経験したことのみ

──今までひた隠してきた心の中の陰の部分を表に出すことに対して戸惑いはまったくなかったですか?

最初はすごくありましたね。隠しておきたかった部分を音楽にすることで、yucatと私の関係性が変わってしまうんじゃないかっていうのがすごく怖かったんです。今までの私はずっとyucatにすがって生きてきたわけだから。あとは、聴いてくださる人たちが、自分の意思とは違ったものを求めていたらどうしようっていう怖さもありました。でも、これしかないなっていう気持ちが勝ったので、もう覚悟を決めたというか。

──その覚悟を持った上で、yucatとしての楽曲制作はスムーズに進みました?

「Stop Me!」イメージイラスト

スムーズではなかったですね。ものすごく苦しい作業でした。yucatの音楽は自分の経験したことのみで作られているので、記憶の中から思い出したくないことを思い出して紡いでいかないといけないんですよ。だから、私は基本的には曲を作ったり歌詞を書いたりするのが早いほうなんですけど、yucatの音楽はいつも難産です。すっごい病みながら作ってます(笑)。でも、自分の心とたくさん向き合って曲を作り、それがみんなのもとに届くことで自分の中のわだかまりが浄化されるんですよね。だから自分にとってはすごく必要な作業でもあるんだなっていうのは思います。

──実際、ファンからの反応はどうでした?

昔からのファンの人たちからは、相当驚きの声をもらいました(笑)。でも、自分の心の中にあった思いを知ってもらえたことで、「私も同じこと思ってました」とかすごく共感してくれる人も多くて。私が思い切って出したyucatという存在が、みんなの支えにもなっているんだなっていうのは最近すごく思うようになりましたね。

──思い切ってよかったですね。

うん。嫌われる覚悟で出したので、意外な部分でもありましたし。もちろんyucatの音楽で離れていってしまったファンも絶対いるとは思うんです。でも、それはもうしょうがないことではあるので、今はそばにいてくれる人たちが私の支えになってくれていますね。

yucat(ゆきゃっと)

元RYTHEMの加藤有加利が2011年からスタートさせたソロプロジェクト。「yucat」とは加藤の心の中に存在するもう1つの現実世界、すなわちパラレルワールドに住んでいるもう1人の自分のこと。加藤が喜び、幸せ、愛、楽しさ、安心、笑顔、光の部分を担っているのに対し、yucatは悲しみ、苦しみ、悩み、痛み、寂しさ、傷、涙、闇の部分を持っているという。楽曲のデジタル配信やYouTubeでの動画公開を経て、2013年1月に1stミニアルバム「PARALLEL WORLD~終ワリノ始マリ~」をリリースした。