由薫「Sunshade」インタビュー|1曲1曲と繊細に向き合った新作EPを紐解く

由薫が9月6日にEP「Sunshade」を配信リリースした。

ONE OK ROCKのToru(G)とタッグを組み、ドラマ「星降る夜に」の主題歌として書き下ろした「星月夜」が大ヒット。同曲を収録した1stアルバム「Brighter」を発売し、全国6カ所を回るリリースツアーを成功させた由薫は、成長を重ね自信が付いてきたと振り返る。

そんな躍進する彼女の新作EP「Sunshade」には、Toruと4回目のタッグを組んで制作した、ドラマ「笑うマトリョーシカ」の主題歌「Sunshade」や、「本⼭製作所」のCMソングに使用されたバラード「勿忘草」など5曲を収録。音楽ナタリーでは、1つひとつの曲に繊細に向き合ってEPを完成させたという由薫に、その制作過程や各楽曲に込めた思いなどを聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / 草野庸子

どうすればもっと歌が伝わるんだろう?

──まずは由薫さんの今年の活動を振り返ってみたいと思います。1月に1stアルバム「Brighter」をリリースされましたが、ご自身ではこのアルバムをどう位置付けていますか?

メジャーデビュー後に発表した曲が一挙に収録されている作品です。音楽を仕事にするうえで向き合わなくちゃいけなかったことや、その中で感じた葛藤が表れている一方で、明るい場所に進みたいという思いや、夜が明けていく様子が表現されているのかなと。「前に進めるアルバムになったらいいな」と目指していた部分が形にできたと思います。自信も付いてきたし、1つのチャプターが完結したからこそ、気持ち新たに音楽と向き合えています。

──6月に行われたアルバムのリリースツアー(「由薫 Tour 2024 Brighter」)も、自分の音楽に自信が持てた要因なのでは?

そうですね。このツアーでは今までで一番多い6カ所を回らせてもらったんです。公演数が多い分、勉強になったことや成長できたところもすごくあって。それまでのライブは、とにかくがむしゃらだったし、体力的に悔しい部分もあったんですよ。でも今回のツアーは冷静に、客観的な視点を持てた気がして。初めて訪れる会場も多かったんですが、事前に街を歩いたり、その土地の空気を感じてからライブに臨んだこともあって、いい意味で毎回違うライブをお見せできたんじゃないかなと思います。ボーカルに関してもかなり意識が変わりました。事前に歌い方を設計してみることを始めたんですよ。気持ちを込めることはもちろん、「どうすればもっと歌が伝わるんだろう?」と考えて。

──歌の設計図をあらかじめ決めるということですか?

はい。あとはやっぱり体力ですね。マラソンに例えると、今までは「とにかく最後まで走り切ろう」と思っていたところが、今回のツアーでは「姿勢よくゴールしよう」というところまで考えるようになって。1曲1曲に繊細に向き合えるようになったと思います。

由薫

今までは書けなかった素直な歌詞

──ではここからは新作EP「Sunshade」について聞いていきたいと思います。今作にはジャンルを超えた色とりどりの楽曲が収められていますね。

このEPに関しては、1つひとつの曲に向き合うことが大事だと感じたんです。例えば「Clouds」では海外で活躍する同世代のシンガーソングライターを意識してみたり、「ツライクライ」では思い切りJ-POPに寄ってみたり、曲ごとに振り切った作り方ができました。これは次に向かうための自分なりのトライでしたね。

──1曲目の「勿忘草」は、由薫さんが野村陽一郎さんと作曲した、ピアノと歌が軸の美しいバラードナンバーです。

野村陽一郎さんと一緒にスタジオに入って、「ピアノを弾いてみるから、好きなように歌ってみて」と言われて作り始めた曲なんです。そのときは遊びというか、ただ楽しんでやっていただけなんですけどね(笑)。

──セッションから生まれた曲なんですね。

はい。去年スウェーデンに行ったとき、武者修業のために現地のアーティストと一緒に曲を作ったんですよ。いきなり聴かされたトラックに即興でメロディを乗せるという作り方だったんですけど、野村さんとのセッションもそういう感じでした。野村さんとは好きな音楽の話もよくしているので、その延長線上で自然にやれたというか、すごくピュアな音楽の作り方ができました。そのときに歌ったメロディがすごく好きで、「これに合うような歌詞を書きたい」と思ったんです。わかりやすくて、聴いてくれる皆さんと深いところでつながれるような曲にしたいなと。この歌詞は、自分でも「こういう歌詞は今まで書けなかったな」と感じているんですよ。その理由は何かと言うと“素直さ”じゃないかなって。以前は自分の本心を包み隠すように表現していたところがあったんですが、「勿忘草」ではそれを取っ払いたくて……それはEP全体のテーマでもあると思ってます。「愛言葉」や「ラブ・ランゲージ」というワードや、“誰から誰に向けられた思いなのか”を意識して書いたので、博愛というより、特別な対象に矢印を向けた愛という感じですね。

──テーマは家族愛ですか?

そうですね。どんなに孤独を感じたとしても、家族との思い出は必ずあるじゃないですか。それを歌詞にするのはかなり照れますけど、「この素直なメロディなら乗せられるな」と。愛された証を探さなくても、自分に刻まれてるというか。アルバム「Brighter」までは現在進行形で、“今”を歌うことが多かったんですけど、自分も大人になってきて「振り返ってもいいのかな」と思うようになったのかも。あと、できるだけ曖昧にしたくなかったんですよね、この曲は。言霊ってあると思うし、ライブで歌ったときに、自分自身にもいろんな作用を起こしてくれそうだなと思ってます。

由薫

音楽でみんなとつながっていきたい

──「もう一度」はライブでオーディエンスと一緒に歌うことをイメージした楽曲ということで、明るいメロディが印象的です。

みんなで歌う情景を思い浮かべながら、“1対1”で届けられる曲にもしたくて。「もう一度君の声を聴かせてほしいの」という歌詞は、1人ひとりのメロディが重なって大きな歌になるというイメージが浮かんだんです。ツアーのアンコールで歌わせていただいたとき、会場のみんなと練習してしっかりシンガロングできたので、とても感動して。これからも音楽でみんなとつながっていきたいと改めて思いました。

──由薫さんが1人で曲を書くときは、どんなやり方が多いんですか?

最近はピアノで作ることが増えました。そんなに弾けないんですけど(笑)。だからこそメロディにしっかり向き合える感じがあるというか。あとはDTMソフトでドラムパターンやコードを打ち込んで作ることもけっこうあります。以前はアコギを弾きながら、歌詞とメロディを同時に作ることが多かったんです。シンガーソングライターとしてすごくナチュラルなやり方だったと思うんですけど、最近はさらにメロディを精査するようになって。実際にメロディまで打ち込んだものを自分で聴いて、「いいね」とか「よくないな」と判断する……1人コライトじゃないけど(笑)、もっと丁寧に作るようになったかも。いろんなクリエイターの方と共作させてもらって、すごく勉強になっています。知識もついてきたので、それを使って1人で筋トレをしているような感覚ですね。