ナタリー PowerPush - 吉井和哉

本人証言で紐解く 初ベスト盤「18」

タイトルの「18」には、吉井和哉の“カズヤ”と彼の “十八番(オハコ)”という意味が込められているようだ。ソロデビュー10年を迎える吉井が、2013年に初のベストアルバム「18」をリリースした。ソロの集大成とも言える今作を通して聴く中で、特に色濃く浮かび上がってくるのは彼がソロ活動を始めた当初──YOSHII LOVINSONと名乗っていた時期に作られた曲にあるローファイで抜けの悪いサウンドである。

しかしTHE YELLOW MONKEYの活動休止期間中、先の見えない状況で作った楽曲の数々は、今や彼にとって鮮やかなライトの下で堂々と歌える大きな“糧”になっているようだ。今回はYOSHII LOVINSON時代の話にやや重点を置きながら、ソロデビュー当時の心境や、過去から現在に至る変化、そしてこれからの吉井の気持ちを訊いた。

取材・文 / 青木優 撮影 / 有賀幹夫

今は「酒だけは!」みたいな感じ

──このベスト盤と去年の晩秋から冬にかけての「.HEARTS TOUR 2012」では、YOSHII LOVINSONのモードがちょっと復活している印象を受けました。

うん、そうですね。この前のツアーでは、皆さんにYOSHII LOVINSONがちゃんと言えてなかった“お礼とさよなら”を言いたい気持ちがあったし。自分としては「ここでひと区切り」っていう気持ちがあるのかもしれないですね。

──それはベスト盤が出るにあたって、ソロになった頃を振り返ったところもあったからですか?

吉井和哉(撮影:有賀幹夫)

もちろんそうですね。今までのライブではYOSHII LOVINSONのイメージがあんまりなかったときもあったけど、「.HEARTS TOUR」はそうじゃなかったし。これは多分自分のクセなんですけど、何か身体に悪いことをやめるとLOVINSONみたいになるんだなっていう(笑)。鶏のささみ食べて筋トレするとLOVINSONになるんだなって……あ、そんなことないな。この前の秋は筋トレしてなかったな。これじゃ「どっちなんだ?」って話ですね(笑)。

──(笑)。健康状態は関係あるんですか? 確かタバコもやめたんですよね。

うん。LOVINSON時代はタバコは吸ってました。酒は飲んでなかったけど、タバコだけは取られてたまるか!と思って。で、今は「酒だけは!」みたいな感じですね(笑)。

──そこは大事なところだと(笑)。

はい。まあタバコをやめたのが、ひとつのきっかけなのかもしれないですね。自分が変化してきているのも。

──ミュージシャンのみならず、最近の人は年齢とともにタバコを吸わなくなる傾向にありますよね。

そうですね。それに今、若い子たちには、タバコ吸わない人いっぱいいるわけでしょ? そのぶん、どこか違うところにロック感を見出してると思いますけど。例えばアニメーションに見出してたりもするでしょ? ゲームとか。まあそれはそれで素敵だと思うんですけど、僕らの世代はやっぱりタバコとか酒とかでしたから。まあジャズなんかその最たるもんでしたよね。

大好きなデヴィッド・ボウイすら聴かない時期があった

──酒とかタバコって、ロックというか不良が憧れるものですよね。でもLOVINSONの頃の吉井さんは、そういった部分から遠ざかっていた気がします。

うん。そこで……よく思うんですけど、やっぱり古き良きロックってのは、なくなった気がしていて。その、形的なロックはあるけどもド根性!とか、僕がちっちゃいときに見てたロックのバカバカしい部分だったり、「もしかしたら一攫千金になるんだぜ!」っていうドリームだったりが、この時代のロックにはなくなってしまったというか。そういう変化もYOSHII LOVINSONをやり始めた頃から結構自分にはこたえてしまって。

──ちょうどTHE YELLOW MONKEYが休止している頃でもありましたよね。

そう。全てがもう……イヤになった時期だったんですよね。ほんと2000年から2003年って。で、ちょうどそのときに他の理由として、オーディオに目覚めてしまったこともあったんですよ。

──ああ、そういう話もしていましたね。

そうそう。だってYOSHII LOVINSONという名前はMark Levinson(アメリカの高級オーディオブランド)から取ってるからね(笑)。その頃はとにかく「自分がミュージシャンなんかやってちゃダメだろう」という気持ちもあった。というのも、そのオーディオで聴いていた昔のジャズなんかのレコードのレベルがものすごく高かったんですよね。

──例えばどんなふうに感じてたんですか?

「これってパンチイン(録り直しての編集)とかしてないんだよね?」というレコードを聴いたりしてね。「これ一発で歌ってんだよね?」とか、そういう音に触れて打ちひしがれたというか。

──そこまで考えてしまってたんですか?

うん。もちろん自分がそれまでにやってきたことが、そういうものに引けを取らない瞬間があったのはわかってるんですけど。ただその頃はそう思えなかったし、自分のダメなとこばっかり探すようになるというか。極端に言えば、大好きだったデヴィッド・ボウイすらも聴かなくなってましたね。「グラムロックとか、もういいか」なんて思ってた。

YOSHII LOVINSONは自分でも「何がやりたいんだろう?」

──そんなことを思いながらも、やはり吉井さんには音楽を作ることしかなかったんですよね。そこで始めたYOSHII LOVINSONでは、「こういう音楽をやろう」といったイメージみたいなものはありましたか?

吉井和哉(撮影:有賀幹夫)

あることはありましたけど。でも例えば「じゃあジャンルは何?」って言われたときにすっごい困ってましたね。CDでは発表されてないですけど、ゴシックメタルみたいな曲もあったし、スラッシュメタルみたいなのもあったし。かと思えばTHE DOORSのカバーをこっそりやってたりするし、ブライアン・アダムスみたいな曲もあったし。発表してませんけどね(笑)。

──ほんとに? それはジャンルでくくれないですね。

ほんと自分でも「何がやりたいんだろう?」っていう感じでした。でもかまわず出してったつもりですけどね。あの当時は。

──そういえばこの前のツアーのMCでもソロ初のシングル「TALI」はすごく葛藤しながら作ってたと言ってましたね。

うん、そうですね。あの曲も最初は、ゲンズブールとジェーン・バーキンが歌ってるみたいな歌にしたかった。もっとエロい感じね。

──ムーディな曲に?

そう、ムーディな。だからフランス語みたいな仮歌が入ってました(笑)。「♪ああんそん・へそっほっ・ひゃ・ほっほーん」みたいな。

──あはははははは(笑)。

「♪へそぽぴょん」と言ってるだけじゃないかというね(笑)。このフランス語バージョン出したら面白いかな?

──当時発表した曲には切実な言葉もありました。「CALL ME」では「オレでよけりゃ必要としてくれ」って歌ってますよね。

いや、作った当初はそこまで考えてなくて。「俺で良ければ音楽シーンで必要としてくれ」とか「君が俺を必要なら、必要としてくれ」って思うようになったのは、ライブで歌い始めてからなんだよね。

──そうなんですか? 無自覚のまま書いた歌詞だったということですか?

うん。だってこの曲の中に「折り畳みの真実が虚しい」ってフレーズがあって、ある人に「CALL ME」だから電話のことを歌ってるんでしょ?って言われたんですけど、違うんですよ。これ傘のことですからね(笑)。そしたら「え、折り畳みの傘なの?」って驚かれましたから。

──(笑)。実はそうだった、という話ですね。

そうそう。だからむしろ聴き手のほうがカッコよく解釈してくれてたっていう(笑)。でも実際は違いますから。コウモリ傘だから!(笑) しかもこれ、すごく簡単にできたんですよ。代々木のどっかにいたときに思いついて、そこで立ち止まって録った。フルコーラス分。すぐにできた曲でしたね。

ベストアルバム「18」 / 2013年1月23日発売 / EMI Music Japan
「18」
初回限定盤 [CD3枚組+DVD] / 5800円 / TOCT-29112
通常盤 [CD2枚組] / 3500円 / TOCT-29115
完全生産限定アナログ盤 [アナログ4枚組+CD+DVD] / 12000円 / TOJT-29112
DISC1(3形態共通)
  1. TALI
  2. CALL ME
  3. FINAL COUNTDOWN
  4. WANTED AND SHEEP
  5. トブヨウニ
  6. HATE
  7. 20 GO
  8. BEAUTIFUL
  9. MY FOOLISH HEART
  10. BELIEVE
  11. 朝日楼(朝日のあたる家)
  12. HEARTS
DISC2(3形態共通)
  1. 点描のしくみ(Album Version)
  2. 煩悩コントロール(Album Version)
  3. 血潮
  4. 母いすゞ
  5. ノーパン
  6. ビルマニア
  7. ONE DAY
  8. バッカ
  9. WINNER
  10. Shine and Eternity
  11. LOVE & PEACE
  12. FLOWER
DISC3(初回限定盤、完全生産限定アナログ盤)
  1. シュレッダー(LIVE)
  2. WEEKENDER(LIVE)
  3. 黄金バッド(LIVE)
  4. 欲望(LIVE)
  5. SIDE BY SIDE(LIVE)
  6. BLACK COCK'S HORSE(LIVE)
  7. VS(LIVE)
  8. 恋の花(LIVE)
  9. Don't Look Back in Anger(LIVE)
  10. スティルアライヴ(LIVE)
  11. マサユメ
  12. 甲羅
  13. ギターを買いに
DVD収録内容(初回限定盤、完全生産限定アナログ盤)
  • 点描のしくみ Queen of Hearts 予告編
  • 点描のしくみ Queen of Hearts メイキング
  • LOST -誰が彼を殺したか-
吉井和哉 (よしいかずや)

1966年生まれ。THE YELLOW MONKEYのボーカリストとして1992年にメジャーデビュー。以後、2004年の解散まで数々のヒットを生み出す。2003年10月にはYOSHII LOVINSON名義でシングル「TALI」をリリースし、事実上のソロデビューを果たす。2006年には現在の吉井和哉名義にし、ソロとして3枚目のアルバム「39108」を発表。以降も精力的にリリースやライブを重ねている。グラマラスなサウンドと歌声は多くのリスナーを魅了しており、他アーティストからの評価も高い。2013年1月にソロ名義では初のベストアルバム「18」をリリースした。