ヨルシカが7月29日にニューアルバム「盗作」をリリースした。アルバムのテーマは、音楽を盗作する男の破壊衝動。初回限定盤にはヨルシカのコンポーザーn-bunaが執筆した小説が付属しており、こちらでも男の人生が描かれている。
音楽ナタリーではアルバムのリリースを記念して、n-bunaと、彼が敬愛する尾崎世界観(クリープハイプ)の対談を実施。音楽と文学という2つの表現方法を持つ彼らに、互いの音楽への印象や創作活動に対するスタンスについて語り合ってもらった。初対面ながらも意気投合していく2人のトークを楽しんでほしい。
取材・文 / 森朋之
クリープハイプの音楽との出会い
──n-bunaさんは高校時代からクリープハイプのファンだそうですね。
n-buna はい。最初に聴いたのはたぶん「憂、燦々」だったんです。その後、アルバム「吹き零れる程のI、哀、愛」を聴いて、一気にハマって。
尾崎 ありがたいです。じゃあ、2013年頃ですね。
n-buna 高校2年のときですね。そこからさかのぼって「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」(2012年4月発売のメジャー1stアルバム)を聴いて、「愛の標識」をめちゃくちゃ好きになりました。すみません、緊張してなんだかすごい手汗が……。
尾崎 ははは(笑)。
n-buna あの、尾崎さんにお会いできたら絶対に言いたかったんですけど、クリープハイプの曲の中でも「エロ」がすごく好きなんです。「エロ」は19、20歳くらいのときに特に聴いていたんですが、すごく疾走感があって、歌詞も素晴らしくて。僕、ときどきYouTubeで弾き語りライブをやってるんですけど、5割くらいの確率で「エロ」をカバーさせてもらっています。
尾崎 うれしいです。自分で歌も歌うんですね。
n-buna 歌の才能は全然ないんですけど(笑)。クリープハイプの曲はテーマがあって、それが曲の中でしっかり描かれているところが好きなんです。
尾崎 テーマを決めているのは、ヨルシカと通じるところかもしれないですね。ヨルシカの曲はけっこう前から聴いていて。ミュージックビデオを観たのが最初だったと思うけど……嫌でしたね。めちゃくちゃ悔しかった(笑)。
n-buna そう言ってもらえるのが一番うれしいです!
尾崎 音楽的なところで言えば、ギターロックが軸になっているなと思いました。自分はもともとそういう音楽が好きで、ずっとそういう音楽をやってきたんだけど、そういえば最近、ギターロックをやっていなかったなと思わされました。あと、バンドサウンドに甘えず、しっかり作り込んでいる印象もあって。だから幅広いリスナーに届いているんだと思います。
n-buna ありがとうございます。高校生の頃はずっとバンドの音楽を聴いていたんですよ。クリープハイプ、凛として時雨、BUMP OF CHICKEN、People In The Boxとか。今作っている音楽にもその影響が出ているんだと思います。ほかにもいろいろ好きな音楽があって、それを凝縮した結果、今のヨルシカみたいなユニットの形になって。バンドで一体になって表現することにも憧れているんですけどね。
文学の要素を組み入れた音楽を
──n-bunaさんはバンドではなく、Vocaloidプロデューサーとしてキャリアをスタートさせました。
n-buna そうですね。ずっとデスクトップで音楽を作っていて、Vocaloidを使った曲を投稿していました。今も曲はほぼ1人で作っているし、デモの段階でアレンジもかなり詰めています。
尾崎 曲の作り方は逆ですね。クリープハイプは、ずっとメンバーと音を出しながらアレンジしているので。
n-buna MTR(マルチトラックレコーダー)とかを使って?
尾崎 いや、昔から使い方がわからなくて(笑)。それに曲を作っていても「なかなか音楽にならないな」と思っていた時期が長かったんです。「これは曲になってる」と思えるようになったのは、22、23歳くらいのころで。そもそもほかのバンドの曲をコピーをしたこともないまま、クリープハイプを結成したんです。バンドスコアを見ながら演奏するのが面倒で。「コピーするよりも自分で作ったほうが早い」と思っていたんですけど、かなり遠回りしましたね。そのときの経験が生きている部分もあるだろうけど、だいぶ時間を無駄にしました(笑)。
n-buna 歌詞の書き方も試行錯誤していたんですか?
尾崎 そうですね。さっき話に出ていた「エロ」もそうですが、下ネタというか、エロいことをテーマにするようになってから歌詞が固まってきたんです。「美人局」(2010年9月発売のアルバム「踊り場から愛を込めて」収録)という曲があるんですけど、あの曲を書いた時期からちょっとずつ自信が出てきました。周りにそういう内容の曲を歌っているバンドもいなかったし。ヨルシカの歌詞はストーリー性がありますよね。物語をベースに曲を作るようになったのはどうしてなんですか?
n-buna もともと文学が好きなんですよ。俳句も好きだし。尾崎放哉、種田山頭火、正岡子規とか。それでコンセプトありきのアルバムというか、文学の要素を組み入れた音楽を作りたいと思ってヨルシカを始めたんです。流れが逆なんですよね。バンドを組んでから「こういうことをやろう」と考えていったわけではなくて、初めからやりたいことがはっきりしていて、そのあとsuisさんと組んだので。
尾崎 なるほど、そういう順番なんですね。僕も昔から小説が好きでした。でもバンドをやりながらだと本を買うお金がなかったから、図書館で借りてばかりいましたね。当時は暴力的な小説を読むことが多かったんですけど、それは自分自身が荒んでいたから。鬱屈した気持ちを晴らしていたんだと思います。でも、その頃に読んだものが歌詞を書く下地になっているんです。「ここまで書いてもいいんだな」とか「こんな表現方法があるんだ」と教えてもらいました。
n-buna 尾崎さんは歌詞でも小説でも、ほかの人が言葉にしたがらないことを表現していると思うんですよ。それが一番の強みなんだろうなと。
尾崎 そこでしか勝負ができないし、人がやっていることをやっても勝てないと思っていたからだと思います。
n-buna でも、メロディや音楽に乗ると、汚い言葉も汚くなくなるんですよね。
尾崎 そうそう。だから、やりすぎくらいでちょうどいいんです。
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小説を書いたことで音楽を続けられた