ナタリー PowerPush - YAPAN

廣山陽介ソロプロジェクト、ついに本格始動

幅を広げたいという意志があった

──RYUKYUDISKOではそのグループ名のとおり琉球音階を使うことが多かったですけど、YAPANでは1曲目の「China Talker」は中華メロディ、3曲目の「Yapclap」では和のテイストと、よりオリエンタルな方向に広がってますよね。

そう、広げたいっていう意志があったんですよね。だから今回のソロで大陸っぽく広げたり、和な感じで広げていくことも自分の中では自然なことで。作ってる最中に「これでいいのかな?」と思う瞬間もあったんですけど、難しく考えるのをやめたら、いい意味で肩の力が抜けて、今挙がった曲が完成したっていう。

──沖縄って琉球音階に限らず、元々ハイブリッドな土地柄ですよね。日本的な要素もあるし、台湾や大陸を意識する機会も多いし、アメリカのカルチャーとも密接だと思うんですよ。このアルバムにはそういう要素が自然に溶け込んでいるという印象を受けました。

住んでる人は意識してないけど、無意識のレベルで当たり前のように融合しているんだと思うんですよね。だから意識はしてなくても、そういういろんな要素に対してオープンな空気があるんです。そして沖縄の人間にとっては当たり前な、そういう空気の中で何か考えたり、ものを作ったり、そこで生きていくという意識を作品化することは自分にとって大事なことだなと思いました。

──そして今回の作品は、沖縄の人間にとって当たり前な部分が自然に含まれつつ、陽介くんが自分を構成している要素を再発見する、そんなアルバムであるようにも思いました。

今回のアルバムタイトル「Hello World」はコンピュータで最初に入力する常套句で、今回のアルバムを聴いてくれる人に対してのメッセージが一番強いんですけど、それは自分自身に対して言ってる言葉でもあるんですよね。それこそコンピュータで「Hello World」って打ち込んだら、最初にその文字を見るのは自分じゃないですか。そういう意味で、頭で考えていただけではわからないことを、手を動かして曲にすることで、作ってる僕にとっても自分自身を再発見する瞬間はありました。

──パンク的な「Party People」、メロディアスな「Simple Girl」、チルアウトな「Dormitory Dream」と曲調にも幅がありますね。

はい。今回はコンセプチュアルなものというよりは、自然に出てきた曲でどこまでできるのかっていうチャレンジがしたくて。このアルバムの曲を踏まえて、次の展開で広げていくための最初の1枚という位置づけですね。だから今回の曲調は今後のことも考えて、あえて幅広く作っていったんです。

次は歌モノをやってみたい

──1年の歳月をかけて自分と向き合う作業というのは、どういうシチュエーションで行われていたんですか?

自宅スタジオには窓があって、その窓の向こうには海が見えるんです。僕は壁とカーテンに囲まれた圧迫感のある空間が苦手なので、気分転換に自然の光が射す外の風景を見ながら作業することが多いですね。そして作業する時間は、午後になっちゃうと惰性でダラダラしてしまいそうになるので、調子がいいときは頭が一番活発に働く午前中に始めるんです。沖縄は日が長いので、スタジオ作業を夕方に終えるのが理想的な作業ですね。

──健康的ですね。

ただ、集中力を持続させると体力的にも疲れてくるというか、昼間だとピークは3時間くらい。夜だとずっと続けてしまいがちで、それがいいか悪いかはわからないんですけど、夜の自宅作業は近所迷惑だったりもするので(笑)、そういう環境にも助けられて終わりどころが自然と決まってくるという。そして夜は作った曲をCD-Rに焼いて、車を運転しながら、カーステレオで聴いたり、あるいはiPodに落として散歩しながらヘッドフォンで聴いたりすると、聞こえ方が変わってくる。聴くときに脳の違う部分を使ってるような、そんな感じなんですね。作った曲をそうやって多角的に聴くという作業も自分にとっては大切な時間でした。

──そうやって多角的にいろんな可能性を広げてみせた今回のアルバムですが、最後に今後の活動についても聞かせてください。RYUKYUDISKOに戻るのか、それとも新たなソロに向かっていくのか。どちらなんでしょうね。

今回は完全に1人で作ってみて、自分としても満足できたし、次のビジョンも見えてきたので、次は歌モノをやってみたいんですよ。RYUKYUDISKOにはいずれ戻るとは思うんですけど、この作品を作り上げたことで新たに生まれたアイデアをどこに落とし込んでいこうかって考えたとき、YAPANがマッチしてるような気がするし、RYUKYUDISKOはお互いやりたいことをやってから、気持ちいいタイミングでやりたいんですよね。だから、今は新たに生まれたアイデアをYAPANとして形にしていけたらいいなと思っています。

1stフルアルバム「Hello World」 / 2011年10月12日発売 / 2520円(税込) / Ki/oon Records / KSCL-1862

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CD収録曲
  1. China Talker
  2. Party People
  3. Yapclap
  4. Sunshine World
  5. Beauty
  6. Naha City Hotel
  7. CT2.Edit
  8. Simple Girls
  9. Metaphor
  10. Into the Wild
  11. Dormitory Dream
  12. Past Days
廣山陽介(ひろやまようすけ)

沖縄県出身のトラックメイカー、DJ。双子座左利き。2002年に双子の兄・廣山哲史とテクノユニットRYUKYUDISKOを結成し、地元沖縄のクラブで活動をスタートさせる。2004年6月に1stミニアルバム「LEQUIO DISK」をインデ ィレーベルPlatikから発表。同年「WIRE04」に出演し、注目を集める。2007年にはKi/oon Recordsに移籍し、これまでに5枚のシングルと2枚のフルアルバムをリリース。並行してDJ活動も行っている。

2011年よりソロ活動をスタートさせ、沖縄でレギュラーパーティ「metaphorik」を始動。さらにYAPAN(やーぱん)名義で8月の「WIRE 11」にて初ライブを行い、同年10月に1stアルバム「Hello World」をリリースする。